一般社団法人 地域創造

令和6・7年度「公共ホール創造ネットワークモデル事業」

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左上:小学校でのアウトリーチ(会津若松市立城西小学校)
右上:美術ワークショップ(南相馬市)
左下:衣裳ワークショップ(三春町)
右下:舞台公演「はまなかあいづで『四季』全楽章を踊る」(白河文化交流館コミネス)

 地域創造では、異なるジャンルのアーティストが交流することでより発展的で多様な企画づくりができる2カ年事業「公共ホール創造ネットワーク事業」(以下、創造ネット)を立ち上げ、令和4年度からモデル事業に取り組んでいます。令和6・7年度は、モデル事業の3地域目として福島県で事業を実施しました。福島県、福島県文化振興財団(福島県文化センター)を中心に、会津若松文化振興財団(會津風雅堂)、南相馬市文化振興事業団(南相馬市民文化会館ゆめはっと)、三春町教育委員会(三春交流館「まほら」)が参加。演劇とコンテンポラリーダンスのアーティストが交流したアウトリーチプログラムの開発、地元の子どもたちも出演した舞台作品の創作・巡回公演等を実施しました(休館中の福島県文化センターに替わって白河文化交流館コミネスで実施)。

演劇×コンテンポラリーダンス

 創造ネットではモデル地域との協議によって内容を詰めていくため、業務内容も異なってきます。今回は下表のような取り組みが行われました。

 参加したアーティストは、協働作業が初めてとなる演出家の多田淳之介さん(リージョナルシアター事業アドバイザー兼派遣アーティスト)とダンサー・振付家の森下真樹さん(公共ホール現代ダンス活性化支援事業登録アーティスト)です。
 9日間にわたるアウトリーチプログラム開発合宿には、アーティストと、アシスタントとしてアウトリーチについて実地に学ぶ地元劇団の俳優2名、参加館の担当者、事務局を務める福島県文化振興財団、地域創造スタッフなど計18名が参加しました。完成した小学校のプログラムでは、森下さんのワークショップでは定番の名前を身体で表現する自己紹介を入り口に、多様な音具や身近な日用品の音に合わせた身体遊びから全員が巨大な新聞紙と戯れるフィナーレへと展開。反応を見ながら多田さんがオペレーションする音楽に誘われ、プログラム全体としての流れと高揚感が生まれていました。
 また、2年目には20日間をかけて多田さんの演出、森下さんの振付・出演、俳優の原田つむぎさん(国見町地域おこし協力隊)、ダンサーの伊藤奨さん、北川結さん、中村駿さんが出演する舞台作品の創作が行われました。ベートーヴェン「運命」「第九」全楽章を踊っている森下さんの活動を踏まえ、2024年9月にはヴィヴァルディの「四季」をモチーフにする作品の方向性が決まり、出演者、舞台美術家、照明家といったクリエーションチームについて打ち合わせが行われました。
 「はまなかあいづで『四季』全楽章を踊る」と題された作品は、ぬいぐるみやランドセル、過去の公演チラシや新聞紙といった“福島の記憶”を詰め込んだたくさんの袋で福島県の地形を表し、大きな木の枝、スクリーンに映し出された映像でつくり出された空間で上演。「春」「夏」「秋」「冬」の各楽章の初めに原田さんによるソネットの語りが入る演出で、春の訪れや子どもたちの夏の思い出、秋の実りなど福島の風景と重なる音楽と踊りが展開しました。
 全体を統括した福島県文化振興課の山㟢有紀さんは、「この事業を行うにあたって県内の公立ホール25館にアンケート調査を行いました。その中で『新しい取り組みをしたいがノウハウがない』といった回答をしたところに改めてヒアリングし、事業に賛同いただいた団体に参加してもらいました。みんなで連携して取り組む、仲間がいることで心理的なハードルも下がり、頑張れたと思います」と話します。
 また、スケジュール調整、契約、予算管理、会場手配など制作事務局を務めた福島県文化振興財団の草野敦さんは、「新作という、内容が流動的な事業の事務局を担うのは大変でした。でも現場を経験して、クリエーションは決まった通りにいくものではないのが腑に落ちました。総額予算の中で交渉しながら調整しました。本格的に市町村ホールと協働したことも初めてでしたが、みんなが汗をかいてくれました。一緒に取り組むことでお互いの姿を見ながら学ぶことができ、これからも相談できる関係が築けたと思います。本当に勉強になりましたし、何より楽しかったです」と振り返っていました。

創造ネット福島県の取り組み

 

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公共ホール創造ネットワークモデル事業

公共ホール職員等の企画制作能力の向上と都道府県内の公共ホール間の連携の促進を目的に、都道府県等を中心に市町村の公共ホールが協働・連携して実施する2カ年事業。初年度には、①アーティストと参加する公共ホール職員等の相互理解を深める研修、②合宿によるアウトリーチ・プログラム開発と参加地域の小学校等での実施、2年目には、①異なるジャンルのアーティストが交流する舞台作品のクリエーション、②参加地域でのクリエーションに関連した地域交流プログラムの企画・実施、③参加地域における巡回公演を実施。

 

令和6・7年度「公共ホール創造ネットワークモデル事業」実施体制

[主催]福島県、(公財)福島県文化振興財団、三春町教育委員会、(公財)会津若松文化振興財団、(公財)南相馬市文化振興事業団
[共催]一般財団法人地域創造
[アーティスト]多田淳之介(演出家、東京デスロック主宰)、森下真樹(ダンサー・振付家)

舞台公演「はまなかあいづで『四季』全楽章を踊る」

[会場・日程]
 白河文化交流館コミネス:7月27日
 南相馬市民文化会館ゆめはっと:8月3日
 三春交流館「まほら」:8月7日
 會津風雅堂:8月24日
[演出]多田淳之介
[振付]森下真樹
[出演]伊藤奨、北川結、中村駿、森下真樹、原田つむぎ、各会場現地出演者

 

多田淳之介コメント

演劇は「人間」なので人間世界にとどまるところがあるが、ダンスは「身体」なので想像したこともない世界に行ける可能性がある。森下さんとの協働でそういう流れがつくれればいいと思った。森下さんのダンスや音遊びのワークに僕が音楽やその他の要素をプラスし、参加者が創造したことをどう繋げたら面白くなるかを考えながらアウトリーチプログラムをつくった。舞台作品では、森下さんがベートーヴェンを踊っていたので、何か曲を決めて取り組めればと思った。福島をテーマにした時にドヴォルザークという案もあったが、森下さんからヴィヴァルディの『四季』をモチーフに再構成したマックス・リヒターの曲『四季』があると聞き、両方の音楽を使うコンセプトができた。ダンスと一定の距離を取るために俳優をキャスティングした。

森下真樹コメント

ダンスのすぐそばに演劇があると思いながら簡単に飛び越えられない壁のようなものを感じていた。多田さんとならその壁を取り払えるのではないかと思った。自分がやってきたことから提案できるものを提案したら、多田さんが違う角度からツッコンでくれて。音の演出もしてくださるので、自分ひとりでは思いつかなかった方向に行くことができた。アウトリーチが、自分らしい表現を恐れず、人との違いをむしろ楽しめるような場、自由にいろんなものが出しあえるような場、人と繋がれる幸せな時間になればいいと思っている。

 

公共ホール創造ネットワークモデル事業に関する問い合わせ

芸術環境部 渡邊・今野
Tel. 03-5573-4143

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