一般社団法人 地域創造

石川県 珠洲市 金沢21世紀美術館「劇的!バスツアー2023」

 高校生(15〜18歳のユース)を対象に、日帰りでの芸術体験を提供する金沢21世紀美術館(以下、21美)主催のプログラム「劇的!バスツアー」。9月23日、その一環として、石川県珠洲市で開催されている「奥能登国際芸術祭2023」へのツアーが行われ、石川県と富山県の高校生24人が参加した。

 同ツアーの始まりは2019年。21美ではそれまで、美術館に親しむための小中学生向け企画を複数実施してきたが、高校生に向けた企画は手薄だった。そうしたなか、館内の「シアター21」も担当する学芸部交流課が劇場の潜在的な観客を育てようと、この企画を考案。以後、コロナ禍の苦境のなか、富山、福井、京都、兵庫などの施設を訪れ、毎年2〜3公演を鑑賞してきた。日常を離れてわざわざ遠方を訪れる理由を、プログラム・コーディネーターの川守慶之さんは「作品だけでなく劇場を訪れるプロセスの楽しさも知ってほしい」と話す。国際性の高さや視野の広がりを基準に訪問先を選んでおり、現代アートの展示は今回が初となった。

 

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地元住民の解説により塩田千春「時を運ぶ船」を鑑賞する高校生たち
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さわひらきを囲んで熱心に質問
 
 

 ツアー当日。参加者、添乗員、21美のスタッフ6名、取材班を乗せたバスは、JR金沢駅前を朝7時半に出発。車内では自己紹介が行われ、各学校で演劇部やデザイン科などに所属する生徒と大人が好きなアーティストや音楽を発表し合い、盛り上がった。

 能登半島を2時間半かけて北上し、最初に到着したのは半島外側の海岸に面した大谷地区にある旧清水保育所。ここには、かつて同地で盛んだった製塩業に着想を得た塩田千春の作品が展示されている。塩作りで使われる砂取舟から無数の赤い糸が溢れ出した会場に入ると、参加者から「わあ!」と歓声が。写真を撮ったり制作映像に見入ったりと、体験を重視する現代アートの「受けの良さ」をさっそく実感させた。

 珠洲市は1954年の市制施行から約2万人が減り、現在は1万2千人が暮らす本州で最も人口の少ない市だ。参加者には珠洲が初めての人も多く、途中で合流したガイド役の南方治さん((一社)サポートスズ理事長)から地域の学校の小・中学生の少なさを聞くと驚く場面もあった。廃校を改装したスズ・シアター・ミュージアムでは、そんな土地で使われていた生活用具による大型作品を体験。他の地域の暮らしを風景の中で直に感じる芸術祭の醍醐味を味わった。

 同行中に特に印象的だったのは、高校生と参加作家のやりとりだ。旧日置公民館では金 沢出身のさわひらきが祖父母の経験に基づく映像インスタレーションを展示。鑑賞後さわを囲むと、参加者から「なぜ複数の画面で映像を流すの?」などストレートな質問が次々飛び、作家から新鮮な答えを引き出した。蛸島地区の古民家に設置された田中信行の漆の立体作品の前では、漆表現の独創性に関する質問を受けたベテラン作家が「若い頃の作品はなかなか超えられない」と本音を覗かせる一幕も。人生の岐路に立つ若者の問いの熱は、同じく真剣に生きる表現者にも伝わっていた。

 最後に訪れた飯田地区では、商店の看板の個性的な文字からオリジナル書体をつくる「のらもじ発見プロジェクト」を鑑賞。デザイナーの下浜臨太郎による日常の光景を起点にしたものづくりに、参加者も興味津々だった。今回話を聞いた作家には、それぞれアート、工芸、デザインという幅広さがあった。通信制の学校に通う金沢の高校1年生は、1日を振り返り「芸術祭は初めてだったが、思っていたより多種多様な作品に触れられて良かった」と感想を述べた。見せてくれたスマホの待ち受け画面はさっそく、「身近なもののなかに不思議な世界が広がっている」と感銘を受けたという、さわの作品の写真になっていた。

 一般に難解と言われる現代アートだが、既成の枠組みを疑って世界や個人の意味を問うその姿勢や、斬新な視覚性は、多感な高校生にこそ響くのかもしれない。質疑応答のなかでさわが、自身の10代の頃には身近になかったユースと現代アートの出会いを讃えていたように、終始新鮮な反応が見られた奥能登への旅は、参加した高校生だけではなく同行した大人たちにとってもアートの可能性を再認識させる素晴らしいものだった。

(ライター・杉原環樹)

 

 

●劇的!バスツアー

2019年開始。高校生や15~18歳のユースを対象にした日帰り鑑賞ツアーで、これまでロームシアター京都や富山県利賀芸術公園などを訪問。鑑賞代は無料で、今回の芸術祭への旅行代金は1,500円(昼食代)。過去の参加者にはその後、本格的に表現の道に進んだ人も。

 

●奥能登国際芸術祭

能登半島の先端・珠洲市の全域約247k㎡を舞台に、2017年から3年に1度開催されている「さいはての芸術祭」。総合ディレクターは「瀬戸内国際芸術祭」なども手掛けるアートディレクターの北川フラム。かつて海上交通の要所として栄えた文化背景や、伝統のキリコ祭りなども生かした内容を展開。3回目の今回は16の国と地域から54組が参加。今年5月5日に発生し、大きな被害をもたらした「奥能登地震」からの復興も後押しする。

 

●劇的!バスツアー2023

[会期・会場]9月23日:奥能登国際芸術祭2023/11月5日:ロームシアター京都(太陽劇団(フランス)『金夢島 L’ÎLE D’OR Kanemu-Jima』を鑑賞)

[主催]金沢21世紀美術館(公益財団法人金沢芸術創造財団)

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