一般社団法人 地域創造

第47号 レジデンス再考/well-being(よりよく生きる)(2021年12月発行)

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国内掲載記事概要一覧 (本誌 P.88「資料編」) (PDF 537KB)

特集1 コロナの視座①~レジデンス再考

新型コロナウイルス感染症により公立文化施設などの移動型・集客型の事業は大きな影響を受けた。こうした経緯を踏まえ、その役割や事業のあり方にも再考が求められている。その中で注目されるのが地域がアーティストを受け入れ、アーティストが地域と向き合うレジデンスだ。地元に保育園の体育館兼劇場をオープンした”んまつーポス”と、地域のホストがアーティストの滞在をコーディネートするNAGANO ORGANIC AIRの取り組みを紹介する。

特集2 コロナの視座②~well-being(よりよく生きる)

人々の生きづらさが増大している今日、誰もがよりよく生きる「well-being」のために公立文化施設や文化芸術は何ができるのだろうか。共生社会に向けたインクルージブ・シアター事業に取り組む島根県民会館、震災復興で市民の第三の居場所となる多機能型交流拠点をオープンした須賀川市、生きづらい日々をスウィングする型破りな活動を行うNPO法人スウィングの取り組みを紹介する。

空間のエスプリ

体験レッスン

SCOPE

座談会

イラストSCOPE

海外STUDY

特集1 コロナの視座①~レジデンス再考

1 宮崎県宮崎市 透明体育館きらきら/国際こども・せいねん劇場みやざき
子育てと芸術が合体したアート体育館 んまつーポスの新拠点"CandY"

文:乗越たかお

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© 雨田芳明

「透明体育館きらきら/国際こども・せいねん劇場みやざき」(通称CandYシアター)は、「昼は保育園の体育館、夜と週末はダンスカンパニーの専用劇場」という新しい形態で2019年に設立された。運営するのはコンテンポラリー・ダンスカンパニー「んまつーポス」のメンバー。コロナ禍により公立文化施設等の集客型の事業は大きな影響を受けているが、彼らはCandYを通して「アーティストがいる日常生活」を地域社会に浸透させ、宮崎大学と提携した「学内起業」を実現し、海外へのプロジェクトを拡大している。

2-1 <NAGANO ORGANIC AIR> 長野県阿南町 新野だら実行委員会
歴史ある祭りの精神文化とアーティストの出会い

文:河野桃子

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© 雨田芳明

長野県の南、人口約1,000人の「新野」エリアでは民俗芸能が盛んで、国指定重要無形文化財である夏の「新野の盆踊り」や冬の「新野の雪祭り」などの行事を受け継いできた。NAGANO ORGANIC AIRでは、その新野に劇作家・演出家・俳優の山田百次が複数回にわたって訪問し、地域をリサーチするとともに、「新野の盆踊り」をモチーフにした新作を書き下ろして、地元の旅館で上映した。

2-2 <NAGANO ORGANIC AIR> 長野県上田市 犀の角/のきした
地域の生きにくさと向き合う「犀の角」と「のきした」

 

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© 安徳希仁

上田市の中心市街地、海野町商店街にある「犀の角」は一般社団法人シアター&アーツうえだが運営する民間の文化施設。劇場とカフェ、スタジオ、ゲストハウスを有し、自前の施設を活かしたアーティスト・イン・レジデンス事業や上田市交流文化芸術センターなどと協力した「上田街中演劇祭」を開催している。NAGANO ORGANIC AIRでは、さまざまな文化芸術の担い手がホストとして参画しており、アーティストなどとの出会いをマッチングし、新たな理解や活動が生まれるよう背中を押すことも目的となっている。その犀の角のあり方を象徴する「のきした おふるまい」という活動を取材した。

2-3 <NAGANO ORGANIC AIR> 長野県木曽郡 木曽ペインティングス
地域で暮らすアーティストがコーディネート

 

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© 雨田芳明

木曽郡木祖村では、木曽地域に在住するアーティストが立ち上げたアートプロジェクト「木曽ペインティングス」と、そこから派生した一般社団法人木曽アーツがNAGANO ORGANIC AIRのホストとなり、ダンサーの武井琴をレジデンスアーティストとして迎え入れた。プログラム名は「木曽アート・ダンス留学」。2021年秋に開催された芸術祭「木曽ペインティングスvol. 5 千年のすみか/三時の光」のオープニングを訪れ、アーティストと地域の関わり方を取材した。

2 well-being(よりよく生きる)

1 島根県松江市 島根県民会館「インクルーシブシアター・プロジェクト」
あらゆる人が文化に触れ、親しめる場

文:永田晶子

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© 雨田芳明

近年、島根県民会館が意欲的に取り組んでいるのは、目に障がいのある人と晴眼者が一緒にコンテンポラリーダンスを楽しみ、作品をつくるプロジェクトだ。多様性が尊重される社会の実現へ向け、公立ホールでも誰もが参加できるインクルージブ(包摂的)な場の形成が急がれる中、先進的な試みとして注目されている。

2 福島県須賀川市 須賀川市民交流センター tette
創造的復興のシンボル 市民の第3の居場所になった多機能型交流拠点

文:田中建夫

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© 雨田芳明

東日本大震災から10年、須賀川市の市街地は復興への道を辿り、2019年1月には「たいまつ通り」沿いに、市民文化復興のシンボル――図書館、生涯学習・市民活動、子育て支援、円谷英二ミュージアムを複合した「須賀川市民交流センター tette」が誕生した。新たな交流拠点として、コロナ禍にもかかわらず2年足らずで来館者数は100万人を突破。幅広い市民が交流する憩いの場となっている。

3 京都市 NPO法人スウィング
生きづらい日々を"スウィング"する型破りの公共活動

文:山下里加

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© 成田舞

NPO法人スウィングは、就労継続支援B型に指定されている福祉施設を運営しながら、みんなで社会の役に立つ活動から芸術創造活動まで幅広い活動を行っている。ユニークで型破りなスウィングの活動は、表現活動を看板にしながら、いわゆる「障害者アート」にまとわついている純粋性や特別なものといった虚像をはぎ取って、当たり前の人間の行為として肯定し、仕事・労働として社会と繋げている。

空間のエスプリ

最新デジタル技術で文化財の可能性を広げる「東京藝術大学スーパークローン文化財」

文:山名尚志

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© 雨田芳明

作品の本質=DNAをつかみ取り、最新デジタル技術で再現するクローン文化財は、文化財の継承・保存・公開に付きまとうジレンマを根本から解決するものとして注目に値する。さらに、現在残っているオリジナルの精密な複製にとどまらず、欠損や剥落した部分の再現にも踏み込んだ「スーパークローン文化財」は、文化財の継承・保存・公開の可能性を広げる。

体験レッスン

新しい映画体験”爆音上映”を学ぶ

進行:坪池栄子 構成・文:田中健夫 講師:樋口泰人 受講生:八巻公史

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© Hiroharu Takeda

通常の劇場上映では味わえない映画体験を提供する「爆音映画祭」が全国各地で開催されている。音楽ライブ用音響機材などを活用した"爆音上映"では、迫力ある大音量とともに、その音量だからこそ聞こえる細かな環境音が作品世界を広げて観客を魅了。今回は札幌市民交流プラザのクリエイティブスタジオで実施された「札幌爆音映画祭」(2021年10月1日~3日)を取材し、爆音上映の生みの親であり、全国各地の爆音映画祭プロデューサーを務める樋口泰人さんにノウハウと公立ホールでの展開の可能性などについてお聞きした。

SCOPE

宮城県石巻市ほか Reborn-Art Festival 2021-22
「アート」「音楽」「食」のアートフェスティバル 文化で復興する街

文:神山典士

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© 雨田芳明

東日本大震災からの復興を願って2017年に石巻市で始まった「Reborn-Art Festival」。その3回目が、音楽プロデューサーの小林武史を実行委員長として、夏会期と春会期に分けて開催されている。震災直後のがれきの山から、現在のアートフェスティバルに至るまでの地元の取り組みを取材した。

宮崎県三股町 三股町立文化会館 「みまた演劇フェスティバル―まちドラ!」
文化会館を軸に舞台芸術で地域と人を育む 小さな町の演劇祭

文:大堀久美子

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© 雨田芳明

「みまた演劇フェスティバル―まちドラ!―」は、基点となる三股町立文化会館と近隣の公民館、体育館など町の施設をサテライト会場とする回遊型の演劇祭。2年ぶりに開催された演劇祭に出演者と観客、町外から来た演劇人と町民が、共に世代を越えて高揚しているのが伝わってきた。

座談会

コロナの視座③~地元の実演家とつながる

進行:坪池栄子 構成・文:羽成奈穂子

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© 雨田芳明

新型コロナウイルス感染症拡大予防のため、大規模イベントの開催や広域移動が難しい事態となった。これを機に見えてきた問題点や可能性について、地元の実演家との連携を重視した事業を行っている公立ホールの方々に語り合っていただいた。

出席者(左から):白﨑清史氏(公益財団法人びわ湖芸術文化財団)、小松淳子氏(公益財団法人かすがい市民文化財団)、戸谷田知成氏(一般財団法人ちりゅう芸術創造協会)

コロナの視座④~美術館のコレクションから考える

進行:坪池栄子 構成・文:羽成奈穂子

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© 雨田芳明

新型コロナウイルス感染症拡大予防のため広域移動ができなくなる事態は、全国の公立文化施設が自館の事業を見直す契機にもなった。県立美術館学芸員の方に、改めて美術館のコレクションの意義と可能性について語り合っていただいた。

出席者(左から):三田真由美氏(一般財団法人地域創造)、青木加苗氏(和歌山県立近代美術館)、副田一穂氏(愛知県美術館)

イラストSCOPE

コロナ禍を経て飛躍する祭りの底力 八戸三社大祭

文:奈良部和美

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イラスト 田淵周平

2020年の春以降、全国で観光客を集める祭りも住民の絆を強める集落の祭りも、コロナ禍で中止や縮小を余儀なくされた。八戸三社大祭の運営委員会も、祭りの山車(だし)運行の中止を決めたが、一方でクラウドファンディング「移動型・組立式山車制作プロジェクト」を始めた。それは27の山車組が協力してイベント山車を制作し、全国各地に持参してPRなどに活用するという計画である。イベントの中止というピンチをチャンスに変え、地域の総合力が祭りを通じて飛躍した。

海外STUDY

アーティスト・コレクティヴが育つ文化と地域性-インドネシアの事例

文:廣田緑

現代美術の領域では昨今、「アーティスト・コレクティヴ」という語を目にする機会が増えている。コレクティヴはアーティストによって形成された集団のことで、その集団形成が有機的で流動的なことが含意されている点でグループとは異なる。コレクティヴのひとつの特徴として、その実践が社会と密接に繋がり、活動拠点とする地域住民が抱えている問題をテーマにしていることだ。インドネシアの現代美術領域で活動するコレクティヴを事例とし、その実践がどのように社会と関わっているのかを紹介する。

第47号 レジデンス再考/well-being(よりよく生きる)(2021年12月発行)