一般社団法人 地域創造

第38号 小さなアートプロジェクトの力(2015年度10月発行)

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特集 小さなアートプロジェクトの力

長期的な取り組みが難しくなっている現在、育成団体、レジデンス・アーティスト、市民協働など、顔の見える関係づくりにより“文化が人(地域)をつくる”“文化で人(地域)が育つ”事業展開を続けている施設の今を紹介する。

空間のエスプリ

体験レッスン

座談会

イラストSCOPE

SCOPE

海外STUDY

特 集 小さなアートプロジェクトの力

1 沖縄県うるま市│イチハナリアートプロジェクト
道とアートで離島を開く集落散策型アートイベント

文:田中健夫

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© 雨田芳明

「イチハナリを継続して、アートによる地域おこしのうるま市バージョンをつくっていければと思っています。アートを介することで地域の人々と来場者や作家が直接的に触れ合う機会が生まれ、その結果、地域のホスピタリティも上がってくる。これまでも試行錯誤しながら、毎年少しずつ実施の形を変化させてきました。今後も、うるま市の島しょ地域にマッチしたアート展のあり方について、みなさんと一緒に考えていきたいと思います」(抜粋)

2 高知県須崎市│すさき まちかどギャラリー/旧三浦邸
ジモティと他所者が出会い地域の企画力が向上する

文:山下里加

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© 雨田芳明

今、多様な人々が須崎市に吸い込まれるように集い、規模は小さいもののまちの可能性を押し広げる活動が始まっている。その拠点となっているのが、須崎の歴史を伝える商家を活用した「すさきまちかどギャラリー」だ。そして、その吸収力をつくりだしているのが、Iターン、Uターン、地元を愛する主婦という異なる背景をもった3人の若者たちである。現在、アーティスト・イン・レジデンスをはじめ、高校生カフェ、女性たちが企画したイベントなどで再生の端緒を見つけた須崎市を訪ねた。

3 熊本県小国市│坂本善三美術館
郷土と作家の原風景を伝える美術館が人を繋ぎ、子どもたちを育てる

文:神山典士

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© 雨田芳明

「ここでは大きな美術館ではできない、顔が見える関係性が結べていると思います。アートの伝わり度が違うんです。美術館のミッションは、作品を理解してもらうことだけだとは思いません。毎日のささやかな感情、例えば風が冷たいとか、雨の匂いがするとか、ご飯が美味しいとか、そういう感情を貯めていって、作品を鑑賞したときにそれらが解放されること。それが美術体験、鑑賞の醍醐味だと思います。そうやって生きていくのが豊かな生活であり、人生だということを伝えていくのが美術館の使命だと思っています」(抜粋)

4 静岡県浜松市│特定非営利活動法人クリエイティブサポートレッツ
人の多様さをそのまま受け入れどんな人も生きていける"場"を目指して

文:神山典士

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© 雨田芳明

「強くて優秀な人が社会をつくっているわけではない。社会は多様であり、寛容である。どんな人も生きていけるし、その人を受け入れるのが社会。レッツは〝場〟なのだと思います。休む場、考える場、支える場、支えられる場、何かをやりたくなる場。その軸が〝障害のある人〟。彼らがいるからこそできる場がある。それを私はもっとわかりやすく伝えていかなければいけないのだと思っています」(抜粋)

空間のエスプリ

ロンドン「トインビー・スタジオ」

文:岩城京子

トインビー・スタジオを運営しているのが、1979年に設立されて以後、時代を切り拓くアーティストたちをサポートしてきた中間支援組織の「アーツアドミン」だ。(中略)共同創設者でディレクターを務めるジュディス・ナイトは、経済的、創作的、制作的、精神的な支援を英国のアーティストたちに惜しみなく与え続けてきた。まさに縁の下の力持ち的存在として、アーティストたちを35年以上支えてきたアーツアドミンとトインビー・スタジオについて紹介する。

体験レッスン

「とっておきの音楽祭」にバリアフリーの取り組みを学ぶ

構成:田中健夫

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© 雨田芳明

「とっておきの音楽祭」は、障がいのある人もない人も一緒に参加するまちなか音楽祭で、2001年に仙台市でスタートしました。以来、市民の手で続けられ、06年にはバリアフリー化推進功労者表彰・内閣府特命担当大臣表彰、08年には日本イベント大賞・社会貢献部門賞を受賞。今では全国16地域に広がっています。9月23日、今回の講師である「とっておきの音楽祭実行委員会SENDAI」の菊地企画プロデューサーが受講生の池田さんと共に、福島市で開催された「とっておきの音楽祭 in ふくしま2015」を視察しました。

座談会

アウトリーチを地域に広げるために

司会・構成:坪池栄子

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© 雨田芳明

地域創造が昨年実施した「平成26年度地域の公立文化施設実態調査」において、前回調査に比べアウトリーチの実施率が高くなっていることが明らかになりました。今回の座談会では、市内全小学校へのアウトリーチを実現するなど、広がりのある取り組みを実施している館の担当者にお集まりいただき、その取り組みについて語り合っていただきました。

イラストSCOPE

マタギの里に伝わる根子番楽 復活から継承へ、取り組みは続く

文:奈良部和美/イラスト:田渕周平

「せっかくあるものだから残したい。けれど、番楽連中は途絶えてもいいと考えているから、教えてくれない」。同志とふたり、番楽連中を回って掛け合った。何度も訪ね、時にはけんか腰にもなったが、残したいと訴える姿に、ついにひとりが根負けした。「ビデオもない時代で、人から人へ教えるものだから、あの人がいなければ今の番楽はなかった」。若者の集まり「友輪会」に呼び掛けると、「やろう、やろう」と団結、番楽を受け継いだ。(抜粋)

SCOPE

長野県松本市 まつもと市民芸術館
まつもと市民芸術館の進展間

文:川添史子

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© 雨田芳明

まちを歩くと、あちこちに『スカパン』のポスターが貼られ、喫茶店ではお客さんが店主と市民芸術館の話をしている。生活の中に劇場があり、人と人が劇場を通じて繋がっている――。市民芸術館が続けてきた努力の実りを、まちの風景や人々のちょっとしたやり取りに見たような気がする。(抜粋)

岡山県倉敷市 大原美術館

文:山下里加

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© 雨田芳明

優れたコレクションをもつが故に〝泰西名画の常設展示館〟、あるいは〝倉敷観光の定番〟といったイメージが先行し、美術館としての活動は見過ごされがちだった。しかし、大原美術館が〝第3創業〟として取り組んでいる新たな事業は、美術館のあり方を考える上で貴重な提案を含んだものであり、視察に訪れる学芸員も多い。85年前から倉敷という地に根ざし、未来に向かって歩んでいる大原美術館の活動をレポートする。

海外STUDY

工業都市から文化都市へと変貌する台湾・高雄市の文化施設政策

文:張依文

台湾の西南部に位置する高雄市は、第二次世界大戦後、重工業都市として発展してきた。そのため、河川や大気は汚染され、市民の芸術文化への関心も低く、文化施設や舞台芸術団体もほとんどない〝文化砂漠〟だった。しかし、国内が民主化された1990年代以降、地方分権が進展するとともに、市民の地域への関心が高まり、高雄市も文化政策に力を入れるようになる。(中略)今回はこうした工業都市から文化都市へと変貌し、クリエイティブ・シティとしての期待が高まる高雄市の文化政策について概観する。

第38号 小さなアートプロジェクトの力(2015年度10月発行)