一般社団法人 地域創造

第36号 地域のストックを再利用する(2014年度10月発行)

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特集 地域のストックを再利用する

廃校校舎や工場跡地など、使われなくなった地域のストックを転用し、文化施設として利活用する取り組みが広がっている。そこは、住民たちのさまざまな思いや歴史が刻まれた空間でもある。転用手法、運営主体、事業内容などバラエティに富んだ、再利用の最前線を取材。

空間のエスプリ

体験レッスン

イラストSCOPE

座談会

SCOPE

海外STUDY

特 集 地域のストックを再利用する

1 北海道新冠町│太陽の森 ディマシオ美術館
廃校となった小学校校舎を転用
まちに新事業と人材を呼び込むく

文:神山典士

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© 谷古宇正彦

「私たちは地域活性を目的にこの学校を買ったのではありません。あくまでも絵のために買ったんです。でも、私たちが喜ぶ先に住民の人たちが喜んでくれるなら、こんな素敵なことはない。美術館があれば人が集まります。それが結果として地域活性化に繋がることを我々は信じて、新しく森と文化の共生の風を吹かしたいと思っています」(抜粋)

2 兵庫県豊岡市│城崎国際アートセンター
大規模集会施設を改修。1300年の歴史をもつ湯のまちに
アーティスト・イン・レジデンス拠点が誕生

文:田中健夫

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© 雨田芳明

「スタートしたばかりのアートセンターがこれほど人気なのも、日本のパフォーミングアーツの置かれている環境がそれだけ厳しいということなのでしょう。そうしたなかで、城崎で作品をつくることが内外の演劇人のひとつのステータスになればと思います。また、ここに滞在する人たちには、どんどんまちの中に出てもらって、交流してほしい。祭りに参加してもらったり、地域の人の前で演じてもらったり、地域との接点、交流機会を我々も積極的につくっていきたい。」(抜粋)

3 岩手県盛岡市 │もりおか町家物語館
官民協働で歴史的景観を守るシンボル
町家・酒蔵を再利用した観光文化交流施設が誕生

文:田中健夫

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© 堤晋一

「運営の基本は、盛岡のまち並み保存・活用のシンボルとなる施設にしていくこと。また、地域と共存共栄を図っていくこと。(中略)」「震災時、中央公民館の館長をしていましたが、改めて公民館は地域の拠点として人をつくる作業、コミュニティをつくる作業を当たり前のようにやっていたということに気づかされました。この物語館も、地域の人が気軽に入って来られるような"広場"にして、地域の人を育てていくような施設にしていかなければならないと思っています」(抜粋)

4 山形県鶴岡市│鶴岡まちなかキネマ
“鶴岡シルク”の記憶を伝える工場建物を
人々が集うシネマコンプレックスに再利用

文:乗越たかお

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© 雨田芳明

「もちろん新しく一から建てたほうが楽ですが、大切なのは"何を継承するのか"を見極めることです。この場合はトラス構造などかつてこの市街地で稼働していた絹織物工場の雰囲気を最大限伝えることにこそ、再利用の意義があると考えました。そこを抜きに映画館だけつくっても仕方がないわけです。価値を再発見し、手を加え、その結果、今の人に使ってもらう。いわゆる"文化財の保存"などとは根本的に発想を変える必要がありました」(抜粋)

空間のエスプリ

シンガポール「ギルマン・バラックス」

文:宇波恵

「我が国の商業ギャラリーの歴史は浅いのですが、ギルマン・バラックスにある有名なギャラリーが東南アジアの質の良いアート作品を取り上げて情報を発信することで、シンガポールの現代アートセンターとしての潜在能力を示すことができるようになりました」(抜粋)

体験レッスン

京都造形芸術大学 ウルトラファクトリーにアーティスト育成を学ぶ

構成:山下里加

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© 雨田芳明

近年、アーティストが地域で滞在制作するアーティスト・イン・レジデンスに注目が集まっています。アーティストの制作環境については、空間と機材、予算といった要素で語られることが多くなっていますが、果たしてそれだけでいいのでしょうか。テクニカルスタッフが常駐し、世界の第一線で活躍するアーティストと学生が創作の場を共有する京都造形芸術大学のウルトラファクトリーの運営からアーティスト育成について学びます。(抜粋)

イラストSCOPE

継承の危機から蘇り、新しい力を未来に繋ぐ相模人形芝居「下中座」

文:奈良部和美/イラスト:田渕周平

「新作は工夫のしようがあって、演じるのも楽しい。経験を積むと格好良く見せたいという欲も出てくる。でも下中座が国指定の重文である意味を考え、守るべきものは守らねばならない。私は小澤孝蔵座長に教えられたままを伝える。それを若い世代が次にどう伝えるかですが、彼らには変えるには合理的な理由が必要だと教えています」(抜粋)

座談会

オーケストラを社会に生かす

司会・構成:坪池栄子

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© 雨田芳明

アートプロジェクトは社会に何をもたらすことができるのか。一過性の"賑わいづくり"という役割を超えて、地域で生きる人たちが一層生き生きと暮らすためのアートの役立て方について、各地でその実践に取り組んでいる方々に話し合っていただきました。

SCOPE

仙台市
「仙台クラシックフェスティバル2014」

文:田中健夫

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© 大河内禎

「今や文化芸術は単に文化面だけの話ではなく、都市の諸問題を解決するひとつの手法としてとらえられています。今後、急速な人口減少社会を迎えるなか、東北の中核都市としていかに仙台が求心力をもてるか、そのための魅力あるまちづくりのひとつが楽都への取り組みであり、市が推進する創造都市の一環として位置づけています」(抜粋)

石川県金沢市 金沢21世紀美術館
美術館のあり方を変えた金沢21世紀美術館10周年

文:山下里加

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© 堤晋一

「私たちは、現代アートとはアート界での価値を高めていくことだけでなく、"イノベーションする態度そのもの"だと考えています。現代アートは、見慣れないモノやヒト、コトに出会った時の、身の処し方を学ぶ機会、経験にもなる。これまでの美術館が専門家が価値を見定めてから人々に提供する施設だったとしたら、金沢21世紀美術館は価値づけられる前の、生もののまま人々と共有する場であるほうが面白い。そうした経験をした人たちが増えることで、まちの寛容性も高まり、魅力も増していくと思うのです」(抜粋)

海外STUDY

刑務所演劇
-ベルリンで活動する「アウフブルッフ」

文:山下秋子

「劇場という古典的空間から演劇を解放し、社会の周辺にいる人々のもつ力に注目することから始まったアウフブルッフの活動は、刑務所の中で演劇という芸術を通して受刑者と観客の交流を生み出してきた。受刑者の家族や親戚以外に、プロの演出家や舞台関係者、演劇研究者に加えて、演劇に関心をもつ一般の人々が観客として刑務所に足を運ぶ。刑務所の近くに住んでいる住民たちが見に来ることもある。公演後、受刑者と観客が自由に話し合える場も設けられている」(抜粋)

第36号 地域のストックを再利用する(2014年度10月発行)