一般社団法人 地域創造

創刊号 ワークショップ事始め(1996年度11月発行)

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特集 ワークショップ事始め

全国の文化施設でブームになっているワークショップ。
現状レポートと専門家の解説でその可能性を探る。

Area Study

文化環境部、高知県立美術館、森と水のプロジェクト、 県民ネットワークなど。総合行政として文化に取り組む 県政の現場レポート。

出前レッスン

群馬県笠懸野文化ホールに出かけ、ホールのファンづくりに有効な貸館事業の運営を伝授。

Conversazione

地域の魅力的な顔になっている民間アートスペースのプロデューサーが語り合う座談会。

SCOPE

空間のエスプリ

Q&A/パズル

資料編

特 集

山本育夫「美術館をひらく」

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 地域の市民にとけ込む、ライフスタイルにとけ込む社会活動が始まった。 ここ10年、美術館の活動と学芸員の役割は大きく変わってきた。
 単なる展示施設、研修施設であることを止め、ギャラリートークやワークショップ、わかりやすいブックレットの発行など、地域のアート拠点として市民に開かれた場づくりが始まった。
 鑑賞者という受け身の立場だった市民は、今、参加者として、表現者として、将来の美術界を担う人材として、期待され、その表情はいきいきと輝いている。
 開かれた美術館を通して、美術のもつ豊かな想像力が街に流れ出す。これが、21世紀に向けた人づくり、街づくりの第一歩となるか、今が正念場である。

佐藤信が語る「ワークショップ整理学」

 劇場、美術館、コミュニティセンターなどでワークショップと呼ばれる事業が頻繁に行われるようになった理由は大きく二つある。
 一つが、ハードよりソフトが、つまり施設より内容が大切だという風潮が生まれてきたということ。二つ目が、レクチャー・ワークショップで表現についての考え方や方法を話すなど、表現者自らが積極的に関与した形でパフォーマンスを行いたいと思い始めていることである。
 これまで公立の文化施設が事業を行う場合、芸術文化というありがたいモノがあって、それを見ることは良いことだから、なるべく良いモノを呼んできて見せよう、良いモノを展示して見せようという大前提があった。
 しかし、ソフトづくりが大切だという風潮の中で、こうした上演型・展示型の事業のあり方が反省され、観客席に座らせることだけが事業ではなく、もう少し違った参加の形があるのではないか、という考えが生まれてきた。
 それと行政にとって、「地域の住民が参加したり体験したりする事実ですよ」というのは、企画としてわかりやすかったということもある。

エリアスタディ 高知県「木と人の文化」

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 鯨、黒潮、鰹の一本釣り。外から見ると高知は海の国だ。
 しかし実際に行ってみると、そこは山と木の国だった。
 そこには文化の風をおこそうとする人の心意気があった。
 
 県政の大きな動きと直結していることからもわかるように、高知県の文化行政の最大の特徴は、「総合」行政だということにある。
 専門部局である文化環境部が他部局との連携や調整を前提としている一方、各部局も、その施策に文化的な視点を取り入れることをテーマとしている。それは芸術文化という狭い意味での文化ではなく、自然環境や伝統文化などの風土に基づく「高知らしさ」、その象徴の一つとしての「木の文化」、あるいは県民に対するサービス産業へと行政の意識を転換していく「行政の文化化」。幅は広いが、一方では高知の色を映したユニークな一連の文化の概念があり、そこを通じて複数の部局が相互に相互に動くことによって、県内外の人を巻き込んだダイナミックな文化活動、地域づくりの運動が次々と生み出されたきているのである。
 こうしたプロセスの具体例としてまず第一に挙げられるのが、93年11月に開館した高知初の大型文化施設である高知県立美術館だ。

出前レッスン

「貸館をプロデュースする」

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 現在、公立ホールで行われている事業には自主事業と貸館事業の2つの柱がある。「ホールの看板」「地域の看板」として華やかなスポットを浴びることの多い自主事業に比べ、日常業務の大半を占めている貸館事業が注目されることはほとんどない。
 今回は公立ホールの屋台骨である貸館事業をテーマに、「貸館はホールのファンをつくる最大の武器である」が信念の大阪人プロデューサー、津村 卓さんが群馬県笠懸野文化ホールに出かけた。

SCOPE

青海町きららホール
「石の町が輝いた!~市民参加音楽劇の軌跡」

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 夜、町に着いた。上越新幹線、信越本線、北陸本線と乗り継いで東京から約3時間半。新潟県西頚城群青海町。
 人口1万2000のこの町に文化ホールが出来る、と聞いたのは1年半ほど前のことだ。その誕生を祝う町民の手による音楽劇の構想が進んでいた。出演者もスタッフも町民。作曲や演出、衣装、証明、音響に、外部スタッフが加わる。
 そんな企画を教えてくれたのは、演出を任された国立劇場演出室の田村博巳さんだ。初めて聞く町を、「石の町だ」と紹介してくれた。「ヒスイの産地、石灰石の町、化学工業の町」、だから、劇のテーマは「石」、そして町の名の通り青い、眼前に広がる日本海。それは魅力的な企画だった。

第3回HAGI世界映画芸術祭
「原一男がやってきた」

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 焼き物と歴史の町として全国に知られる山口県萩市。人口5万人を切るこの小都市にHAGI世界映画芸術祭が誕生したのは三年前のことだ。きっかけは若者定住イベントのための企画公募で、市内の青年団体が持ち寄った企画の中に萩シネクラブの『アジアシネマウィーク』があった。
 「最初はインターナショナル田舎祭りという大きなイベントの一部門として考えたんですが、いい企画だから大きくしようということになって、単独の映画祭になったんです。」

春日市ふれあい文化センター
「街角から歌が聞こえる~アコースティックトークライブ」

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 JR博多駅から春日駅まで約10分、そこから車で十分ほど走ると、閑静な住宅街の中に「春日市ふれあい分化センター」が見えてくる。
ふれあい分化センターでは、95年4月にオープンして以来、地元で活躍するミュージシャンの演奏を聞く「アコースティックトークライブ」が毎月開かれている。
 この企画を提案したのは、事業課の喜島克三郎さん。もともとアコースティック系の音楽が好きだった喜島さんは、「どうせだめだろう」と思いながら、この企画を提出してみた。
 すると、予想に反して、企画が通ってしまったのである。「多くの人に、人と分化のふれあいを体感してもらいたい」というセンターの趣旨が、地元で活躍するミュージシャンを呼ぶ試みに理解を示してくれたといってもいい。

空間のエスプリ

「マテリアルの魔術」ペトラ・プレース

 9月19日、晴天。ペトラ・ブレースにインタビューするために、ドゴール空港からアムステルダムに向けて飛び立った。
 当初、彼女がインテリア・デザインを手がけた北フランスの複合施設、リール・グラン・パレ(1994年開場)でランデブーするはずだった。広報を通じて順調に調整していたら、グラン・パレのディレクターが「ノン」。こうなるともうどうにもならない。よくも悪くも、ディレクターが絶大な権力を持っているのがフランスなのである。
 急遽、アムステルダム市内にある彼女の事務所兼自宅での、お宅訪問インタビューとなった。高級住宅街にあるお洒落な建物を想像していたら、以外にも、ペトラさんが娘さんとふたりで住んでいるところは運河沿いの庶民的な下町で、オランダ特有のたて長、庭付き一戸建てだった。ドアを開けると、そこには彼女が得意としている「カーテン」の生地がまるでオブジェのように積み重ねられていた。

創刊号 ワークショップ事始め(1996年度11月発行)