一般社団法人 地域創造

第5号 子どもの劇場(1998年度10月発行)

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特集 子どもの劇場

子どもたちは、今

子どもの劇場整理学

アメリカ報告

空間のエスプリ

体験レッスン

座談会

SCOPE

イラストSCOPE

海外STUDY

資料編

Q&A/Voice

特 集

兵庫県立こどもの館

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「今の台詞、気持ちつくり直して! 今日の稽古は大事だよ。気持ちをもう一度つくり直しなよ。明日はもう通し稽古なんだから。わかった?」
  ちょうどバレーボールのコートを正方形に広げ、そこに高い天井を付けたようなキューブ型の稽古場に、突然、演出家・如月小春の張りのある声が響き渡った。

墨田区・新日本フィルハーモニー

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 「本物」の演奏家が、気軽に教室にやって来て演奏してくれる。その試みは、ある意味で強引に始められたことが成功の理由だった。墨田区と新日本フィルハーモニー交響楽団とのフランチャイズ契約が結ばれて4年目の92年。楽団専務理事の松原千代繁は、区内の小中学校の音楽の先生が集まる部会に出掛けて行ってこう言った。
 「オケのメンバーを学校の教室に派遣して演奏させたいのですが」

横浜みなとみらいホール

「本物」たちが教育を主眼にした演奏や活動を行うことは、欧米では当然のこととされている。行政が補助金を出したり、NGO組織が財源を集めてこれを援助する。
 例えば96年、『タイム』誌が選出した「現在アメリカで最も影響力のある主要人物25人」のひとり、97年ジャズマンとして史上初のピューリッツァー賞に輝いた男、ウイントン・マルサリスもまた、子どもたちに熱心にジャズを伝導する演奏家として知られている。

越谷コミュニティセンター

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 各地で音楽をテーマにするワークショップは数多くあるが、参加者全員が演奏してオリジナル作品をつくるという点で、このワークショップは異彩を放っている。リーダーがもっている技術や経験を「教えてもらう」のではなく、その場で参加者が自分でルールを決めて音を出しながら、相手の音を聴いてアンサンブルを取っていく。結果、その場にあらわれるのは、参加者全員の創造力が結晶した1つの作品だ。

兵庫県立ピッコロ劇団

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 開演1分前。
 客席のほとんどが埋まり、今にも客電(客席の照明)が消えようとする頃、3歳のナッちゃんはお母さんに手を引かれて自分の席からトコトコと舞台の袖に向かって歩き出した。
 開場して客席が賑やかになってから、ナッちゃんはずっとお母さんと話していた。
 「ナッちゃんもお芝居出たいなぁ」
 「ナッちゃんはまだ小さいから、来年やってみようか」

子どものための美幌国際芸術祭

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 今年5月。東京の声楽家からドイツのフルート演奏家に向けて、1枚のファックスが送られた。そこには次のような内容のメッセージが書かれていた。
「ケルステン・マッコール様。
 今年の夏、僕が音楽監督をする子どものためのコンサートが、日本の北の大地、北海道の小さな町・美幌町で行われます。

子どもの劇場整理学

 子どもたちに対して、公共ホールはどういうアプローチをしたらよいのか。2人のゲストの方にそれぞれの立場から公共ホールによる子ども向け事業の問題点を提起していただき、整理してみました。
井上 允 (厚木市文化会館館長)
吉本光宏 (ニッセイ基礎研究所主任研究員)
津村 卓 (地域創造チーフディレクター)

アメリカ報告
ニューヨークの芸術教育普及活動プログラムの現状

 「芸術の教育普及活動プログラム」とは深遠で、かつ膨大なテーマでもある。
 何が膨大かと言えば、その物理的な数が、である。
 アメリカで、いや単にニューヨークの中だけでもいい、劇場や美術館や、芸術創作活動団体(劇団/ダンスカンパニー/演奏団体)が行っている教育普及活動なるものは、特に1990年代に入って加速度的に増えている。

空間のエスプリ

廃屋や牢獄跡を探してユニークな作品をつくり出す
アートエンジェル

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 ロンドン下町の廃屋や倉庫、テムズ河畔、海軍士官学校内の美しい19世紀の建物、元牢獄のあった場所、医科大学の講義室、電車の方向転換に使われた円形の建物の跡、ウェールズ地方の海岸。
身近だが誰にも知られていない思いがけない場所で、まだ無名だが才能に恵まれた若手芸術家の作品をプロデュースする芸術団体がある。その名は「アートエンジェル」。
彼らの目的は特定のアーティストにたっぷりと時間を与えて視点を研ぎ澄ませ、個人のもっている才能を最大限まで引き出して作品づくりを助けることにある。

体験レッスン

アート・ギャラリーの企画を考える

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 アート・ギャラリーの企画展はどのように進めたらいいのでしょうか。事業に追われがちなホール担当者にとって、独自の企画展の実施は難しい課題です。企画のスタートから、アーティストとの交渉、宣伝・広報、搬入・搬出まで、展覧会の一部始終を、実例をもとに追いかけてみましょう。

座談会

ネットワークしよう
~課題解決のためのアプローチを探る~

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 近年、公立文化施設がネットワークを組むケースが増えてきましたが、その実状はどうなっているのでしょうか。地域の公立文化施設の企画担当者に集まってもらい、ネットワーク活動の課題や可能性について、話し合っていただきました。

SCOPE

アフリカ・ギニアの太鼓が人口120人の島で鳴り響く
鹿児島県三島村「三島っ子アドベンチャー」

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 ママディ・ケイタの名前を初めて知ったのはいつだったか。たぶんステキなビデオ『ジャンベフォラ』のおかげだ。もっとも厳密に言えば、これは「ジェンベフォラ」と言うべきだそうだ。このジェンベとは、西アフリカ一帯でポピュラーな太鼓、膝に抱えて叩く太鼓のことである。

現代美術のギャラリートークの新しい試み
愛知県 豊田市美術館「なぜ、これがアートなの?」

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 「なぜ、これがアートなの? その答えを求めて来ましたか? 実は私もその答えを知りたい」。豊田市美術館で開催され、現在川村記念美術館を巡回中(10月8日~12月6日)の「なぜ、これがアートなの?」展の記念講演会で、アメリア・アレナスさんはいきなりそう切り出した。

閉校になった小学校を地域住民との文化交流の場に
京都府京都市 アートアクション京都

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 呉服問屋が軒を連ね、祇園祭りの山鉾町として知られる京都・室町。その室町に1869年(明治2年)に誕生し、93年3月に124年の歴史を閉じた明倫小学校を、京都市が若手芸術家の活動拠点「京都アートセンター」(仮称)として整備しようという計画が進んでいる。オープンは2000年4月の予定。昨年秋からは、プレ事業として、劇団、演奏家、造形作家などに教室を稽古場やアトリエとして提供する「アートアクション京都」が始まった。

「900円コンサート」に未来はあるか
京都府京都市 22世紀クラブ

 “質の良いコンサートを低料金で”。1991年、京都を舞台に始められた「900円コンサート」が50回目を迎えた。世の中は不況の真っ只中、こんなご時世だからこそ、この900円コンサートのもつ意味が改めて見直されている。バブル全盛の頃には、海外からの有名演奏家やオペラ歌手の何万円もするコンサートが、またたく間に完売になった。

イラストSCOPE

大阪府能勢町「能勢人形浄瑠璃」

 足を踏み入れた途端、熱気に包まれた。開演1時間前というのに、ホールロビーは人、人、人。蒔絵を施した太夫の見台がずらりと並ぶ壁面の前で、人々の顔は一様に晴れがましさに輝いていた。
 6月14日、大阪府能勢町の「淨るりシアター」。開館以来5年にわたる計画が実り、この日、「能勢人形浄瑠璃」がデビューする。江戸中期(1800年代)に能勢に広まった浄瑠璃熱。その「二百年の伝統に人形が加わる」(公演プログラム)のだ。人々の期待の大きさが、交わす言葉の端々にうかがわれた。

海外STUDY

「米国の非営利団体、YCAにみる
若手アーティストの発掘と育成プロセス

 日本でも今年、NPO(非営利団体)法案が可決された。しかし、アート界ではこのNPO法、今ひとつピンとこないというのが実状ではないだろうか。NPOとしての法人格の取得が、芸術機関にとってどんな意味があるのか、それによって何が変わるのか、そして本当にNPOにする必要があるのだろうか、といった具合に。
 米国では、1960年代以降このNPOという法人形態が社会に浸透していく過程で、数多くの芸術機関がNPOとして設立・運営されるようになってきた。

第5号 子どもの劇場(1998年度10月発行)