一般社団法人 地域創造

千葉市 千葉国際芸術祭 2025

 「市民参加型アートプロジェクトの祭典」を謳う「千葉国際芸術祭2025」が、千葉市で開催されている。アーティストがつくり、一般客が観る構図を離れ、市民との協働プロセスを前面に押し出した新しいタイプの芸術祭だ。また、市在住のクリエ イターなどの専門人材が「地域リーダーズ」として運営を支えている点も特徴的。芸術祭を一過性の催しではなく、日常に根ざした市民の創造性を育む機会とする本展の一端を、9月18日のプレスツアーで取材した。

 

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33年後のかえる

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まちまちいちば
写真提供:千葉国際芸術祭実行委員会

 

 芸術祭は市内中心部6エリアに広がり、生活空間に溶け込むように作品が展開している。総合ディレクターの中村政人が語る「スポーツと同じように、アートも自分で参加することでより楽しさがわかる」という言葉の通り、展示は土地の 歴史や作家の造形性を示すというより、市民との関わりの成果発表的な色合いが濃い。

 例えば多くの人が行き交う千葉駅のそごう前では、駅職員や海上保安庁など“ 都市の黒子 ”に取材して撮影したアレクセイ・クルプニクの写真を屋外展示。築33年のビルのエントランスでは、不要になったオモチャを子どもたちと交換する「かえっこバザール」で集まった膨大なプラスチックの食玩を使い、藤浩志が環境の未来を考 え る「33年後のかえる」を展開していた。

 千葉都市モノレールでは、使われていないプラットフォームに見る角度によって写真の像が現れる沼田侑香のインスタレーションを展示。これも市民や市長が被写体となっていた。県庁 周辺では旧店舗を使った会場が多く、地元出身の岩沢兄弟は元うなぎ屋を街から集めた素材でつくるユニークな物品「キメラ遊物」の工房にした。同拠点の2階は市民が“常識”などについて語らう「ちくわ部」の集会場にもなっていた。

 西千葉駅の高架下には地域から集めた廃品で制作した伊東俊光の巨大女神像や、西尾美也の「まちまちいちば」がある。後者は、ワーク ショップで制作された作品の展示場兼「まちまちテーラー」が新たな服を生み出す仕事場だ。近 くには、高齢者と外国人が多い幸町団地の住民が力を合わせた加藤翼の巨大作品もある。

 こうした作品の実現をはじめ、運営に大きく寄与したのが「地域リーダーズ 」だ 。多数が千葉市や近郊に住むアートやデザイン、広報のプロで、各々の職能を活かし、企画運営から会場提案、予算進行まで幅広く担う。立ち上げ時は数名で2024年5月から活動を始め、現在は20名を超えた。初期メンバーで芸術祭のジェネラルプロデューサーも務める西山芽衣さん(まちづくり会社勤務)は、「この体制には地域の人材発掘の側面もある。芸術祭の裏方はアートイベントの専門会社などが地域外から来る場合も多いが、今回は地元の専門人材を可視化し、『私たちでもできる』と思えたことに価値がある」と話す。先述の岩沢兄弟の弟たかしさんも初期からのメンバーだ。「実家はうなぎ屋から徒歩圏内。今回は自分の生活圏を越えて連携できた。自治が進むとより暮らしやすくなると感じた」と振り返る。
 自身も作家に石膏で型取りされるなど積極的に制作に参加した神谷俊一市長は、「地域の力が停滞するなか、コミュニティ型のアートプロジェクトには日常に新しい価値を与え、自分たちの街の見え方を変える力があると感じた。官民が普段の境界を超えて協力する場面もあり、役所の仕事の仕方も変わった」と評価する。

 本芸術祭は中村にとって、長年探究してきた地域に寄与するアートの新たな実践だ。では、今回の最大の実験は? 「自分の行動がどのように地域や周囲を変容し、ひいては地球全体に影響するかという環境学的な視点の獲得が大きなテーマ。身近な活動が気候変動や政治的対立など世界の課題にもつながっているという、想像力の広がりを生みたい。外から来たものをただ受け取るのではなく、一歩踏み出して自分の環境を自分でつくってみるという経験が 、そうした意識を育むと思う」。

 一過性を超えて日常との連続性を大切にする本芸術祭では、会期終了後の12月にも振り返りイベントを開催予定。参加企画中心の内容や市民との体制づくりなど、そのあり方は今後の芸術祭にも問いを投げかけている。

( アートライター・杉原環樹)

千葉国際芸術祭2025

千葉市の各地を舞台に2025年より3年 に1度開催される国際芸術祭の第1回。「市民参加型アートプロジェクトの祭典」 を掲げ、「ちから、ひらく」。をテーマに国外32組が街中で市民との協働プロジェクトを展開。総合ディレクターはアーツ千代田3331などを手がけてきたアーティストの中村政人が務める。千葉市では2021年の市制100周年記念事業として「千の葉の芸術祭」を開催。これを一過性のイベントで終わらせず、継続的な文化事業として発展させるため、2023年度に千葉市芸術祭基本構想を策定。芸術祭実行委員会を立ち上げ、千葉市美術館館長などによる専門部会にディレクターの選出を諮問。2023年よりプレ会期企画を始動。公募企画「ソーシャルダイブ」の応募者数は海外81の国と地域から597組、国内39組。本開催に向け、 藤浩志のかえっこバザール、西尾美也のワークショップなども展開。実行委員会、中村と「3331(コマンドA)」に加え、千葉市在住者などから成る専門人材チーム「地域リーダーズ」が芸術祭運営に大きく関わるなど、地域の知見を生かした組
織体制にも特色がある。
[主催]千葉国際芸術祭実行委員会
[会期]2025年9月19日~11月24日(集中展示・発表期間)

 

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