右上:北上市立飯豊小学校特別支援級でのアウトリーチ
左下:おんがくたいけんプログラムforきっず(釜石市民ホールTETTO)
右下:セレブレーション・コンサート(前沢ふれあいセンター)
地域創造では、公立ホール職員の企画・制作力の向上とクラシック音楽を通じた創造的な地域づくりを目的に、1998(平成10)年から若手演奏家を派遣し、市町村の公立ホールと共同でコンサートとアウトリーチ等を実施する「公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)」に取り組んできました。2005(平成17)年にはおんかつに参加した団体が事業を継続できるよう財政的に支援する「公共ホール音楽活性化支援事業(おんかつ支援)」(当初は2カ年、2020年から5カ年)がスタートするな ど、地域のニーズを踏まえて支援の拡充を図ってきました。
そして今年度から新規事業として立ち上がっ たのが、コロナ禍や大規模災害の経験などにより、近隣市町村ホール同士の連携意欲が高まっていることを踏まえた「公共ホール音楽活性化支援・市町村連携事業」です。おんかつ、おんかつ支援によって経験を積んだ市町村ホールも増え、事業を行いながらその知見を近隣地域で共有するとともに、ホール間の連携について学ぶ機会となることが目的のひとつになっています(連携団体が変わっても同一地域として3カ年申請が可能)。
その初めての取り組みが、昨年の準備期間を経て、岩手県県南・沿岸の5市町で4月30日~10月3日に実施されました。今回連携したの は、おんかつをきっかけに長年アウトリーチに取り組んできた北上市文化交流センターさくら ホールfeat.ツガワ(一般財団法人北上文化創造)、前沢ふれあいセンター(一般財団法人奥州市文化振興財団)、おんかつや邦楽活性化事業の経験がある釜石市民ホールTETTO(釜石まちづくり株式会社)、連携事業に初めて参加する一関文化センター(NPO法人一関文化会議所)と西和賀町文化創造館銀河ホール(西和賀町教育委員会)、特に西和賀町はクラシック音楽のアウトリーチに初めて取り組むという、規模も運営者の性格も異なる5団体です。
公立ホールの知見を共有する
市町村連携事業では、経験団体の知見を共有することを目指し、①原則として10年以内に公共ホール音楽活性化事業または公共ホール邦楽活性化事業を実施、または地域創造との共催事業を実施した経験のある団体が幹事団体となること、②地域創造おんかつ支援登録アーティストを活用すること、そして実施面では、③幹事団体が中心となって事前の全体研修会と事後の報告会を実施すること、④各団体が主体となってアウトリーチなどの地域交流プログラムを実施すること、⑤何らかの形で市町村連携事業に関わった演奏家全員が参加する有料コンサートを少なくとも1回実施すること(各団体の単独開催、幹事団体と参加団体の共 同 開 催 な ど 実 施 方 法 は 問 わ な い )を要件としています。内容については演奏家の選考を含め、各団体が個別に契約し、独自に企画できることが特徴となっています。また、幹事団体は必要に応じて、講師やアドバイザーの派遣を求めることもできます(*1)。
今年度の連携が行われた岩手県県南・沿岸部は、おんかつ経験館が連携する「おんかつ市町村モデル事業」(現在は終了)を2011年に実施したのを契機に、県内の音楽家(いわ音登録アーティスト)の育成や、岩手で震災復興支援活動を行ってきた演奏家(地域創造おんかつ支援アーティストでもある野尻小矢佳さん(パーカッション)、新崎誠実さん( ピアノ)、加藤直明さん(トロンボーン))と 共にアウトリーチ、コンサート、クリニックなど音楽の輪を広げる「Music Program IWATE 星巡りプロジェクト( M P I )」(*2)を 2022 年度にスタートするなど、公立ホールが意欲的に交流してきた地域です。今回の市町村連携事業は、そのMPIに参加する形で実施されました(県内8館1団体が実施。内5館が市町村連携事業)。
個別ニーズに対応した取り組み
幹事団体として名乗りを上げたのは、MPIの立ち上げ時から参加してきた前沢ふれあいセンターです。市町村連携事業の枠で共同開催した開館35周年記念の「セレブレーション・コンサート(9月20日)を掉尾に、アウトリーチや、幹事団体としての全体研修会(4月30日・5月1日)と報告会(10月3日)に取り組みました。
MPI参加団体も含めた全体研修会は、MPIのプロデューサーでもある野尻さんが講師となり、アウトリーチに初めて取り組むホールもあることから実際に学校に出向いて下見の注意事項などを確認するなど実践的な内容になりました。人事異動で4月から担当となったふれあいセンターの佐藤裕介さんは、「アウトリーチを実施した経験もなく、自分にとっても全体研修会はとても勉強になりました」と 振り返っていました。
圧巻は野尻さんのプロデュースによる不思議な編成のセレブレーション・コンサートです。おんかつ支援アーティストに加え、幹事団体の希望によりMPIで出演したいわ音登録アーティストも出演しました。子どもたちに届けてきたアウトリーチを解説付きでホールの観客とシェアした第1部に続き、第2部ではミラーボールの光でつくり出したプラネタリウムのような空間の中、今回のガラコンサートのための新曲『MPI星巡り:野尻小矢佳作曲』(連携事業に携わった演奏家、ホールメンバーがひとり1音ずつ選び、計17音で紡いだ星のまたたきのような現代曲)などが披露され、星巡りの物語が聴こえてくるような時間が流れていました。また、演奏会当日には参加団体が駆けつけてサポート。「幹事団体としてどう動けばいいのか迷いながら取り組みましたが、もっと相談しながら進めても良かったのだと改めて思いました 」と佐藤さん。
今回の市町村連携事業で初めてアウトリーチに取り組んだ西和賀町教育委員会の髙橋竜也さんは、「西和賀には小規模な小学校と中学 校が2校ずつあります。全校生徒に聞かせたいという先生たちの要望を踏まえて体育館で実施しましたが、『あの子があんな顔をするのを初めて見た』と校長先生が子どもたちの顔を楽しそうに見ていたのがとても印象的でした。連携事業に参加して人との接点ができ、交流が膨らんだのが財産だと思っています。次回は演奏 会の裏側を若い職員に研修として経験してもらうなど、もっと関わっていければと思っています」と話していました 。
*1 詳しくは実施要綱・要領参照。 https://www.jafra.or.jp/project/music/06.html
*2 地域創造レター2023年12月号「今月のレポート」参照
令和7年度「公共ホール音楽活性化支援・市町村連携事業」
[主催]一般財団法人奥州市文化振興財団、一般財団法人北上市文化創造、特定非営利活動法人一関文化会議所、釜石まちづくり株式会社、西和賀町教育委員会
[共催]一般財団法人地域創造
◎アーティスト
•野尻小矢佳(パーカッション)
•新崎誠実(ピアノ)
•加藤直明(トロンボーン)
•いわ音登録アーティスト:菊池葉子(メゾソ プラノ)、 阿部美礼(ピアノ)、 牧野詩織(フルート)
※MPIのアウトリーチやワークショップに関わり、市町村連携事業で実施したセレブレーション・コンサートに出演。
西和賀町文化創造館銀河ホール
町内に小学校2校、中学校2校しかなく、小規模校であることから学校の要望を踏まえて全校児童・生徒を対象に体育館でアウトリーチを実施。
•9月10日:西和賀町立湯田小学校・町立湯田中学校(全校児童・生徒)/11日:町立沢内小学校・町立沢内中学校(全校児童・生徒)
北上市文化交流センターさくらホール feat.ツガワ
「子どもたちと、演奏家と音楽と楽器との幸せな出会い」を テ ーマ に 特 別 支 援学級と学童保育でアウトリーチを実施。特別支援学級は事前の聞き取りにより、子どもたちの特性を踏まえてアクティブなグループとおだやかなブループの2班
に分けて実施。
•9月12日:北上市立飯豊小学校(特別支援級4・5年生&特別支援級1・2・3・6年生)、江釣子学童保育所@江釣子地区交流センター/13日:和賀東学童保育 所( 親 子 向 け )※他にMPIプログラムあり
一関文化センター
一関文化センターの認知度向上を目指して初めて小学生を対象に音楽室でアウトリーチを実施。
•9月16日:黄海小学校(1~3年生、4~6年生)/17日:藤沢小学校(1・2年生、5・6年生)
前沢ふれあいセンター
2013年から毎年アウトリーチを行っている前沢小学校の4年生を対象に、「クラシック・楽器の魅力を知ろう!」と題して1クラスずつ音楽室で実施。当初、役場職員向けのインリーチを予定していたが議会対応のため、急遽対象をホールの
定期利用団体に変更。
•9月18日 奥州市立前沢小学校(4年1・2・3組@音楽室/19日:前沢ふれあいセンター定期利用団体@前沢ふれあいセンター ※他にMPIプログラムあり
釜石市民ホールTETTO
中心市街地活性化という目的を共有するイオンタウンとの協力体制構築のため、店内でミニコンサートを実施したほか、こども園等でアウトリーチを実施。
•9月23日:TETTOおでかけミニコンサートinイオンタウン釜石・おんがくたいけんプログラムforきっず@釜石市民ホール/10月1日:ピッコロ子ども倶楽部桜木園・かまいしこども園/2日:鵜住居保育園・釜石市立栗林小学校(全校児童) ※他にMPIプログラムあり
公共ホール音楽活性化支援・市町村連携事業に関する問い合わせ
芸術環境部 和田・税光
Tel. 03-5573-4185
onkatsu@jafra.or.jp
