一般社団法人 地域創造

北海道奈井江町 まちじゅう音楽 プロジェクト

 地域おこし協力隊や地域活性化起業人(*1)といった総務省の制度を活用し、「まちじゅう音楽プロジェクト」を推進している北海道奈井江町(人口は2025年6月現在4,658人)。担い手の受け皿となる(一社)ないえ共奏ネットワーク(*2)を設立し、JR奈井江駅前にある音楽専用のコンチェルトホール(246席)を拠点に活動。8月1日、2日にまちじゅう音楽プロジェクトの催しが行われていた奈井江町を訪ねた。
1日に町立病院ロビーで行われていたのは、翌2日にホールで開催される「ちょっと音痴な音楽会」に出演するのこぎり演奏家の西村直晃さんによるアウトリーチだ。2日には、前任の協力隊員が流行らせたというオタマトーンを愉快に演奏するおたましまい、町民によるオタマトーンバンド「ずどーんず」も出演。協力隊員は揃いのユニフォームでスタッフとして走り回っていた。

 

*1 地域活性化起業人
地方公共団体が、三大都市圏に所在する民間企業等の社員を一定期間受け入れ、そのノウハウや知見を活かしながら地域独自の魅力や価値の向上等に繋がる業務に従事してもらい、地域活性化を図る国の取り組み。受け入れた社員に係る人件費を特別交付税により支援(年間590万円まで)。

 

*2 一般社団法人ないえ共奏ネットワーク
地域再生推進法人の指定を受けたまちづくり会社。町と連携しながら、就業機会の拡大、ふるさと納税の増収、空き店舗・空き家活用、音楽によるまちづくりなどに関する事業を手がける。

 

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「日常のドレミ演奏 西村直晃 病院ロビーコンサート」(8月1日)

 

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「ちょっと音痴な音楽会─オタマとノコが出会う夏─」(8月2日)
写真提供:ないえ共奏ネットワーク

 

 奈井江町が立地する空知地方はかつて炭鉱で栄え、1960年代には同町の人口も2万人を超えていた。しかし、相次ぐ閉山で過疎化が進展。全国的に注目されていた中新田バッハホールの影響などもあり、93年に地域総合整備事業債を活用して町のシンボルとなるコンチェルトホール(奈井江町文化ホール)を建設した。
 それから30年近くを経て持ち上がったのが「まちじゅう音楽構想」だ。教育委員会の井内啓太文化振興主幹は、「2021年頃から外部専門家とまちづくりを議論する中、ホールがあるのだから音楽をまちづくりの一つの柱にできると考えた」と振り返る。そして22年には「まちじゅう音楽」を位置付けた「生涯活躍のまち」を取りまとめ、「誰もが躍動し、寄り添い集う全世代共奏のまちづくりプロジェクト」として国の地方創生推進交付金事業に採択された。
 まず取り組んだのが人材の確保と推進体制
の要となるまちづくり会社「ないえ共奏ネットワーク」の設立だ。音楽に特化した協力隊員を募集、地域活性化起業人を採用し、町役場の職員を含めて全員がないえ共奏ネットワークに所属し、70人体制でプロジェクトを推進。ネットワークには取り組む内容ごとに担当チームが設けられ、まちじゅう音楽チームには町職員2名、起業人2名、協力隊員4名が所属する。
 協力隊員の東留美香さんは札幌出身で着任3年目。「東京のポップス業界で約20年働いていたが、地域のイベンターと仕事をするなか、地元のために働いているたくさんの人がいることを知った。私も自分の経験やスキルを活かしてまちづくりに関わりたいと応募した」と話す。
 (株)ニコン日総プライムから派遣され、ネットワーク参与を務める起業人の川畑伸也さんは旭川育ち。ニコンで38年間デザイン畑を歩み、セカンドキャリアとして奈井江町に出向。ヴィジュアルデザインや協力隊のまとめ役として欠くことのできない存在になっている。同じく起業人で参与の長野夏織さんは、まちづくり構想の策定段階から関わる(一社)つながる地域づくり研究所からの派遣だ。ミューザ川崎やロームシアター京都でホール運営に携わるうちに、まちづくりに興味が募ったという。
 そんな多士済々の音楽チームでは、自由に事業アイデアを出しあっている。流しソーメンや怪談ライブなどのイベントに合わせた無料コンサート、楽器演奏のできる隊員による音楽スクール、自宅に眠る楽器を始めたい人に受け継ぐ「思い出楽器市」、空き家を使ったゲストハウス「泊まれる音楽室」。今年6月には「まちじゅう音楽部」もスタートした。毎回テーマを決めて、一杯飲みながら町の人たちと音楽談義をして楽しむ。フォークソングをテーマにした第1回では、弾き語りが趣味の川畑さんがホストを務めた。
 まちじゅう音楽に刺激された活動も始まっている。ずどーんずに参加している湯浅郁香さんは、「協力隊に誘われてオタマトーンを始めたら、グループまで出来て、この音楽会を目標に活動している」と話す。今年6月には経験者を中心に吹奏楽グループ「ないえブラス」も立ち上がった。
 ネットワークの事務所にはみんなで作成したイラストマップ「203Xのまちじゅう音楽マップ」が掲げられていた。関わる人々がそのイメージを共有し、土壌を耕している。東さんは退任後も協力を続けたいというなど、プレイヤーは増え続けている。

(ライター・田中健夫)

まちじゅう音楽プロジェクト

「まちじゅう音楽」を合言葉に、誰でもどこでもいつでも音楽にふれることができ、世代を超えて誰もが音楽を通じてつながることを目指す。演奏会やワークショップなどの音楽イベントだけでなく、公共空間のBGM化やストリート楽器の設置、地元米を使ったオリジナルの木製ミュージックシェーカーの開発・販売、ゲストハウス「泊まれる音楽室」開設など、幅広い活動を展開。

 

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