一般社団法人 地域創造

大阪府豊中市 豊中市立文化芸術センター とよなかARTSワゴンフェスティバル

 大阪のベッドタウンである豊中市(人口約39万8千人)は、日本センチュリー交響楽団や大阪音楽大学の拠点があり、市が「音楽あふれるまち」を掲げる中核都市である。その文化活動の拠点となる豊中市立文化芸術センターでは、地域に根差したレジデントアーティスト(演奏家)と、アートと人をつなぐ市民コーディネーターを育成する「とよなかARTSワゴン」事業に取り組んできた。6月14日、新旧レジデントアーティスト9名が顔を揃える演奏会「とよなかARTSワゴンフェスティバル」を訪れ、公共ホールの人材育成の現場を取材した。

 

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上:野村友輝(左)、柳野伽耶

下:(左から)石塚和基、東川内梨沙、別府みつき
提供:豊中市立文化芸術センター

 

 レジデントアーティストは2年の任期制で、終了後はアーティストバンク登録アーティストとして活動する。今回のフェスティバルには、2024年度と25年度のレジデントアーティスト4名、登録アーティスト5名が出演。同センター芸術プロデューサーを務める小味渕彦之総合館長が演奏家と楽曲を紹介。テューバ、クラリネット、マリンバ、箏、ヴァイオリン、ピアノと多彩な演奏が続き、ラストは登録アーティスト3名による聴き応えのあるアンサンブルで締め括られ、会場を訪れた普段着姿の多数の市民があたたかな拍手を送っていた。
 同センターを運営するのはJTBコミュニケーションデザイン・日本管財・大阪共立グループで構成される民間の指定管理者だ。事業広報課課長の永福邦子さんは、「現在の公立文化施設は地域にどのように貢献するかが問われています。豊中市から地域の人材育成を求められるなか、具体化したのがとよなかARTSワゴンです」と言う。2017年度に地域創造の「おんかつ」に参加し、登録アーティスト制度やアウトリーチのプログラム制作などの知見を得て、19年に豊中ならではの育成事業として立ち上げた。
 演奏家は、毎年40名ほどの応募者からオーディションで2名を選考。アウトリーチのプログラム開発等を行う4日間の合宿を経て、そのプログラムを小学校に出掛ける「ふれアート」で実践する。また、市民と共にアートマネージメント講座も受講する。任期中は小学校へのアウトリーチを年10コマのほか、ロビーコンサート、フェスティバル、こどもアートの日などのイベントに出演し、2年目にはホールでのリサイタルに臨む。「最初は地域在住の演奏家を想定していましたが、今は関西圏まで広がっています。ホール・地域に縁のある演奏家として、主催公演などで活躍できる機会をできるだけつくっています」と永福さん。
 合宿では、演奏家による模擬アウトリーチに対して講師や先輩アーティストが講評し、練り直すというフィードバックを朝から晩まで繰り返す。なかなかハードな研修だが、レジデントアーティスト任期2年目の5期生の野村友輝さん(クラリネット)、柳野伽耶さん(マリンバ)は「楽しい体験だった」と声をそろえる。
 野村:「元々、子どもと関わる演奏活動をしていたのですが、もっと子どもとの関わりを深めたくて応募しました。研修では『すべて受容する。子どもの楽しくなかったという気持ちも大切』というアドバイスが印象に残っています。私は大東市から通っていますが、まちの人から声をかけていただくことも多く、豊中と縁ができたことを嬉しく思っています」
 柳野:「研修では『何を伝えたいのか』『なぜこの音楽なのか』が繰り返し問われました。他所では体育館で全校生徒に演奏することが多いのですが、「ふれアート」は音楽室で1クラスごとに行うので子どもとの距離が近く、一人ひとりの反応を間近で受け止められました。アートマネジメント講座も知らなかったことを市民と一緒に学べたのがとても新鮮でした」
 とよなかARTSワゴンは6年目に入り、登録アーティストは13名になった。「ふれアート」は、市内40校中14校に広がった。一方、レジデントアーティストの音楽活動を支える人材育成として始まった市民コーディネーター育成プログラムは市民の幅広い関心に応えるにはどうすればいいか思案の真っ最中だ。
 民間指定管理者として指定期間という縛りがある中、どうすれば適正な育成事業に取り組めるのか─豊中での試行錯誤が続いている。

(アートジャーナリスト・山下里加)

 

 

●とよなかARTSワゴンフェスティバル

[会期]2025年6月14日
[主催]豊中市立文化芸術センター(指定管理者:豊中市市民ホール等指定管理者)、豊中市
[会場]豊中市立ローズ文化ホール
[出演]レジデントアーティスト:柏本佳樹(テューバ)、山崎恒太郎(トランペット)、野村友輝(クラリネット)、柳野伽耶(マリンバ・打楽器)/アーティストバンク登録アーティスト:石塚和基(ヴァイオリン)、藤重奈那子(箏・十七絃・地歌三味線)、別府みつき(クラリネット)、中嶋奏音(ピアノ)、東川内梨沙(ピアノ)

 

 

●レジデントアーティストの活動

アウトリーチ事業「ふれアート」をはじめとした、市内でのアウトリーチ活動/ロビーコンサートや「とよなかARTSワゴン」関連の公演等への出演、研修等への参加/文化芸術センターが主催する公演や、市内のさまざまな団体からの依頼に応じたイベント出演等

 

●市民コーディネーター育成プログラム(2025年度)

「社会包摂」の視点から考えるアートマネジメント講座を開講(上半期:計7回)。その後、企画制作ワークショップなど、より実践的な体験を通して新しい知の発見を試みる(下半期:計9回予定)。

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