一般社団法人 地域創造

滋賀県大津市 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール びわ湖の春 音楽祭2025

 2023年に沼尻竜典から阪哲朗に芸術監督が交代し、動向が注目されているびわ湖ホール。その変化を象徴する事業のひとつ、阪が総合プロデュースする「びわ湖の春 音楽祭2025」が4月26日、27日に開催された。
 それまでも音楽祭は行われていたが、阪が名称を変更し、今回が3回目。毎回、翌年春に上演するプロデュースオペラに合わせてテーマを設定しており、今年はオペラ『トゥーランドット』の謎解きに挑む主人公にちなんだ「挑戦」がテーマ。京都市交響楽団によるオープニング・コンサート(阪指揮)ではその『トゥーランドット』でタイトルロール(Wキャスト)を演じる並河寿美が歌声を披露してオペラへの期待を高め、浜松国際ピアノコンクール優勝者である鈴木愛美がベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を演奏した。
 また、滋賀県高等学校合同合唱団とプロの声楽家の集団であるびわ湖ホール声楽アンサンブル(*1)との共演、邦楽の片岡リサ(箏・歌)と西尾恵子(ヴァイオリン)・鈴木華重子(ピアノ)とのコラボレーション、0歳児からのコンサート、第1回びわ湖ホールピアノコンクール1位受賞者の演奏、無料のロビーコンサートなど全館を使った“挑戦”を約1万2,800人が堪能した。

 

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オープニング・コンサート(写真提供:びわ湖ホール)

 

 びわ湖ホールでは2010年から17年まで、フランスのナントに起源をもつ「ラ・フォル・ジュルネびわ湖『熱狂の日』」、18年から当時の沼尻芸術監督のプロデュースで「近江の春 びわ湖クラシック音楽祭」を開催してきた経緯がある。2年前に音楽祭のタイトルから「クラシック」の文字を外した阪は、「日本ではクラシック、洋楽などと括られますが、ヨーロッパでは各国の人たちが誇りをもって、これはフランス人の音楽だ、いや、イタリア人の音楽だなどと言い合っている。つまり民族音楽のようなものです。ですからこの音楽祭でも、多様なジャンルを紹介していきたいと考えています」と語る。
 ロビー近くには特産品の出店、屋外にはキッチンカーが並び、休日にふさわしい活気。村田和彦館長は、「ホールは音楽を提供するだけではなく、街の賑わいを取り込み、あるいは街の賑わいに貢献する存在であるべき。音楽を楽しむ体験には、ひとりで聴くだけではなく、仲間と一緒に語り合うことも含まれますから、飲食や関連イベントなどの“仕掛け”も大切にしています」と言う。
 滋賀県内すべての小学校、特別支援学校等の子どもたちをホールに招く「ホールの子」事業(*2)など、育成に力を入れてきたびわ湖ホール。こうした取り組みが音楽祭の下支えにもなっている。加えて新たに創設したのが、課題曲も年齢制限もない「びわ湖ホールピアノコンクール」(*3)だ。阪は、「びわ湖ホールらしいコンクールをと皆で考えました。コンクールには、即戦力か、将来性を見るかの2種類があると言われますが、我々は絶対評価で昨日の自分や今日の自分を明日超えられるかといった挑戦を重んじています。出場者には、高校生や音大生もいれば、最近弾いていないけれどコンクールを励みに練習するという人もいる。さまざまな方に場を提供したいと考えています」と意気込む。
 ただし、びわ湖ホールは26年7月から20カ月間の大規模改修に入り、活動すべてを別の場所で行うことになる。しかし、ヨーロッパの歌劇場で首席指揮者や音楽監督を歴任してきた阪は、この試練を物ともしない。
 「予算が大幅にカットされて合唱団員がいなくなり、知恵を絞って合唱なしでオペラを上演したこともあれば、劇場から外へ出ていこうという支配人の下で、ドナウ川沿いの工 場の跡地でオペラを上演したことも。リミットがある中、何を優先させるかを、ギリギリの線で見極めてきた経験は、コロナ禍でも役に立ちましたし、改修中にも活きてくると思います」(阪)
 期間中の活動場所については、県内各所はもちろん、県外、さらには海外へ(!?)と夢が膨らむ。こうした計画が立てられるのも経験を重ねてきた声楽アンサンブルと、開館以来自前で抱えてきた技術スタッフの存在があるからだ。阪、村田両氏が口を揃えたのは「ピンチではなくチャンス」という言葉。柔軟に、ポジティブに、びわ湖ホールの活動は続いていく。(舞台芸術ライター・高橋彩子)

 

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ロビーコンサートの様子

 

●びわ湖の春 音楽祭2025 ~挑戦~

[会期]2025年4月26日、27日
[主催]滋賀県、(公財)びわ湖芸術文化財団
[会場]滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
[出演]阪哲朗(指揮/びわ湖ホール芸術監督)、村上寿昭(指揮、ピアノ)、京都市交響楽団、京都フィルハーモニー室内合奏団、びわ湖ホール声楽アンサンブル ほか

 

*1 1998年3月に設立された日本初の公共ホール専属声楽家集団。びわ湖ホールのオペラや定期演奏会への出演に加え、滋賀県内の学校などへのアウトリーチ活動を積極的に展開。現在のメンバーは14名。OBは総勢80名を超え、ソロ登録メンバーとしてびわ湖ホール事業以外でも幅広く活動。
*2 2011年スタート。滋賀県内すべての小学校および特別支援学校等をびわ湖ホール声楽アンサンブルが出演するオーケストラコンサートに無料招待。2025年度は6日間12公演で203校・約1万3,000人を招待。
*3 2024年度創設。A部門(小学生以下)、B部門(高校生以下)、C部門(年齢不問の一般)。映像審査、予選(びわ湖ホール中ホール)、本選(大ホール)で審査を行い、優秀者にはびわ湖ホールでの活動の機会を提供。

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