一般社団法人 地域創造

さいたま市 彩の国さいたま芸術劇場 カンパニー・グランデ『花にまつわる考察』

 年齢・性別・国籍・障がいの有無、プロ、アマなどの垣根を超えて、さまざまな個性をもつ人々が集い、表現を探求する─これが、彩の国さいたま芸術劇場開館30周年を機に設立されたシアターグループ「カンパニー・グランデ」のコンセプトだ。総勢120人、16歳から84歳まで幅広い年齢層が揃うビッグカンパニーをまとめるのは、2022年から芸術監督を務める近藤良平。同カンパニーのお披露目となったワーク・イン・プログレス公演『花にまつわる考察』を3月14日の公演初日に取材した。

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©宮川舞子

 「舞台芸術を軸とした多彩な学びの場」を掲げるカンパニー・グランデにはクリエーション・チームとしてダンス、ラップ、ジャグリング、楽器演奏、影絵、演劇など11名の多彩な講師が参加している(左欄参照)。今回の『花にまつわる考察』は、こうした講師陣とカンパニーメンバーがチームに分かれ、花をテーマに約9日のスタジオワークでつくり出した5つのシーンで構成されている。大人数の公演にありがちな、全員が同じ動きを強いられる場面は一切ない。高齢者によるゆったりとしたテンポのラップ、メンバーが創作したオブジェを身につけたパフォーマンスなどを展開。気張らず素の感覚のまま舞台で堂々と輝く出演者のあり様が印象的だった。
 同カンパニーが設立されたのは2024年春。5月に行われたメンバー募集への応募者数は832人。書類選考により多様性を尊重して120人が選ばれた。翌月には近藤が講師を務め、交流を目的とした初回スタジオワークを実施。夏には、クリエーション・チームのメンバーが講師を務めてメンバーだけでなく講師も受講できる多彩なジャンルのワークを開講。秋からは5グループに分かれてのワークを開始し、12月18日には全員が一堂に会してお互いの世界をシェアする発表会も行われた。これをベースに年明けからメンバーが希望した講師と共に今回のワーク・イン・プログレス公演に向けた準備を行ってきたという(新作公演は2026年2月予定)。
 近藤は、「専門性を磨くスペシャリスト講座ではなく、一人ひとりの『挑戦してみよう』という意欲を最優先するカンパニー。そんなコンセプトに多くの人が集まってくれたことがとても嬉しいです。80代で初めてラップをやってみたいとワークに応募してくれた人もいます」と笑顔を見せる。芸術監督に就任直後に大規模改修で施設が休館となったことからスタートした「埼玉回遊」(近藤自らが埼玉各地を巡り、多彩な文化を探索するプロジェクトで現在も継続中)で出会った人たちもメンバーに応募してきたという。「地元に根を張りながら、横への広がりも出来てきた」と、各プロジェクトが有機的につながり始めた手応えを感じているようだった。

 クリエーション・チームの一人である島崎麻美は、バットシェバ舞踊団のソリストとして活躍したダンサー、振付家。「たまたま自分にはスキルや知識があるというだけ。講師としてではなく、カンパニーの一員として扱ってくれることに喜びを感じます」と話す。このフラットな関係性こそが、カンパニーの趣旨にもなっている。
 制作を担当するさいたま芸術劇場の荻原文子さんは、「クリエーション・チームのメンバーを決めるために、幅広いジャンルのアーティストをリストアップして近藤さんと大量にブレストしました。多種多様なクリエイターを仲間にチームをつくり、その創造性を近藤さんが一つにまとめる。アーティストにとって“新しい実験の場”になることもテーマの一つです。突き抜けた才能のある方は、コミュニケーション能力も抜群だと感じています」と話す。
 「カンパニーには高齢者もいれば、目が見えない方も、肢体不自由の方もいる。アシスタント・チームもいますが、メンバーもさりげなくサポートしてくれる」という近藤の言葉を聞き、ハッとした。この日の舞台を、「高齢者」「障がいがある」など出演者の属性を考える必要なしに観ていたことに気づいたからだ。誰もが“そのまま”で表現に集中できる、理想的なコミュニティが生まれつつあるのかもしれない。舞台表現は現実より一歩先をいく世界、「こうあってほしい」を映し出す場でもあるのだ。(ライター・川添史子)

 

●カンパニー・グランデ ワーク・イン・プログレス公演『花にまつわる考察』
[主催・企画・制作]公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
[会期]2025年3月13日~16日
    *13日はプレビュー公演
[会場]彩の国さいたま芸術劇場 小ホール

 

●カンパニー・グランデ
「舞台芸術を軸とした様々な学び・実験の場」「知識・技術よりも感覚・感性を磨き、深め、開いていく場」「様々な属性の人々同士の交流を通して劇場を中心とした緩やかなコミュニティを創出する場」を目指して立ち上げ。現在のメンバーは16~84歳の120人(30歳代が最多の29人)。メンバーの半数以上が県内在住。高校生や障がい者、外国人、また俳優や音楽家などプロのアーティストも含まれている。クリエーション・チームは、今井朋彦(俳優・演出家)、内橋和久(ギタリスト・コンポーザー・プロデューサー)、川口隆夫(パフォーマー)、川村亘平斎(影絵師・音楽家)、島崎麻美(ダンサー・振付家)、武徹太郎(音楽家・美術家)、中納良恵(歌手・音楽家)、日比野克彦(アーティスト)、目黒陽介(ジャグラー・演出家)、森洋久(情報科学研究・作曲家)、DJみそしるとMCごはん(ラッパー・トラックメイカー)。

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