神奈川県の綾瀬、海老名、座間、大和の4市が企画・主催し、孤独や孤立を見つめるアートプロジェクト「ある日」を地方版孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム推進事業(*1)を活用して実施した。座間市は2024年にも同事業で現代美術家の鈴木康広の展覧会を開催して話題を呼んだ。今回はキュレーター・プロデューサーの田中みゆきさんがキュレーションし、現代美術家の飯川雄大、写真家の金川晋吾、アートユニットのキュンチョメが協力。生活のさまざまな困りごとに関する「相談支援」に関わる人たち(利用者、市職員ら支援者)が参加し、ワークショップや展覧会を行った。2月21日、22日に展覧会とシンポジウムを取材した。


プロジェクトは、孤独や孤立を感じる人たちと支援者が作家と一緒に過ごすワークショップに重点を置いたのが特徴で、交流の中で生まれた表現を作家の作品とともに展示した。展覧会は、座間市役所と、市民で賑わう海老名駅前の複合商業施設ビナウォーク・海老名中央公園の2カ所で開催。
座間市役所は、1階吹き抜けにキュンチョメが「いま、すべての生き物が呼吸している」と記した横断幕、2階の相談窓口には見えない場所(建物の外)にぶら下がったバッグが上下するハンドル、見た目は何の変哲もないのに異様に重いバッグという飯川作品が設置されていた。いずれも今の社会の矛盾をユーモアを交えて看破した作品だった。7階の展望回廊には、今の時間や人生を肯定することをテーマに金川が当地で3日間行った写真と日記のワークショップ、時間のストレッチをテーマにキュンチョメが実施した貝を調理して食べた後の貝殻に水平線を描く綾瀬市でのワークショップの成果を展示。中でも日頃支援を受けている利用者が金川や支援者の姿を捉えた写真は、日常的に紡がれた関係性が伝わってくる見ごたえのある展示だった。
海老名の会場では、他者をイメージする遊びとして「イタズラ」をテーマに飯川と参加者が自由な発想でオブジェ26点を制作し、広大な商業施設の階段裏や植栽の中など意表を突く所に展示。もらった地図を手に探す仕掛けで、そのイタズラ心に発想や視界が揺さぶられる時間だった。
「孤独・孤立にアートができること」と題し大和市で行われたシンポジウムは、内閣府孤独・孤立対策推進室政策参与の大西連・自立生活サポートセンターもやい理事長や心理療法士の西原珉・秋田市文化創造館館長ら7人が登壇。「つながり」の回復に現代アートが果たせる役割やアプローチの多様性、支援においてひとりひとりのナラティブ(文脈)を大切にすることなどが話し合われた。「ひきこもり女子会」などを企画・運営しているひきこもりUX会議理事の室井舞花さんが「問題の本質は生きづらさ。本人が自己肯定感を取り戻すことが大事」と指摘したのも印象的だった。
座間市での2年連続のプロジェクトの発起人が、「断らない相談支援」(*2)で知られる同市生活援護課(現・地域福祉課)に昨年まで勤務した都市整備課の武藤清哉さんだ。「困りごとを抱え窓口を訪れる方たちの個性に魅力を感じ、それを大切にしてほしいと思ったのがきっかけです。ワークショップは参加者を公募せず、相談支援員や連携する支援団体に声を掛けてもらいました。ひきこもり状態の人や家族は知り合いを避けて他自治体へ相談に行くことも多く、相談支援を行う共催3市との連携体制の強化も目的です」と説明。「障害は世界を捉え直す視点」をテーマに活動する田中さんは、「今回のプロジェクトは孤独や孤立が自分の中にあると感じている“ひとり”に向けて企画しました。対象を狭めていった先に多くの人が共有できるものがあると思っています。展示を通じて、社会の中で孤独や孤立している人の存在や視野を広げる大切さを感じていただければ」と話した。
表現者と支援される/する人が立場を超え、ユニークな時間と場を共創した本プロジェクト。高齢化や単身世帯増加が進むいま、どんな人も孤独や孤立の問題と無縁ではない。それを先駆ける、先進性と示唆に満ちた企画だった。
(美術ジャーナリスト・永田晶子)
●アートプロジェクト「ある日」
[主催・企画]綾瀬市・海老名市・座間市・大和市
[会場・会期]座間市役所:2025年2月21日~3月2日、海老名中央公園・ビナウォーク:2月21日~28日
*シンポジウム「孤立・孤独にアートができること」(2月21日)の登壇者は大西連、鈴木康広、西原珉、奥田知志・NPO法人抱樸理事長、室井舞花、田中みゆき、武藤清哉。
*1 孤独や孤立を社会全体で取り組むべき課題と位置づけた孤独・孤立対策推進法(2024年施行)に則った内閣府の事業。地方における孤独・孤立対策のための官民連携プラットフォーム整備を後押しすることを目的に、地方自治体と民間のNPO等支援組織が連携・協働し、対策に取り組む活動を支援。
*2 生活保護に至る前の自立支援策の強化を図る生活困窮者自立支援法(2015年施行)は、支援対象を「経済的に困窮し、最低限の生活を維持できることができなくなる恐れのある者」と規定。座間市役所は、「恐れのある状態かどうかは話を聞かないと分からない」という考えの下、「断らない相談支援」の理念を掲げ、地域福祉課に自立サポート係を置き、広く相談を受け付け。生活困窮者の複雑・複合化した問題にも対応できるように、市社会福祉協議会やNPO、不動産事業者などと連携して地域ネットワーク(チーム座間)を構築して取り組む。