一般社団法人 地域創造

富山県富山市 富山県美術館 「まるごとTADこども 美術館 マジカル手ヅクリーツアー」

 “交流型の美術館”として注目される富山県美術館(2017年開館)が、館全体で子どもが楽しめる企画を展開する「まるごとTADこども美術館 マジカル手ヅクリーツアー」(以下、「まるごと」)に取り組んでいる。前身の富山県立近代美術館時代から力を入れる教育普及事業を更新するかたちで2022年に始まった活動で、今回は新聞紙×ガムテープアーティストの関口光太郎とのコラボによるワークショップやアトリエの創作企画、その成果展など複数のプログラムを展開している。1月26日、成果展の巨大作品を公開制作中の同館を取材した。

 

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上:ワークショップ「新聞紙とガムテープで世界6大陸をつくろう」 撮影:柳原良平
下:「まるごとTADこども美術館+関口光太郎『世界さん』」

 

 「旅行」をテーマとした今回の「まるごと」では、約5カ月にわたる会期のなか、建物3階のアトリエで新聞紙とガムテープを使う関口の手法を用いる造形遊びを実施してきた。来場者が思い思いの「世界のかたち」を手づくりする「オープンラボ」(会期中は常時開催し、取材時までに約2,500人が参加)や、関口が小中学生30人とパンダやキリンなど各大陸を表す巨大像を制作するワークショップ「新聞紙とガムテープで世界6大陸をつくろう」だ。そして成果展として、関口がこうして集まった大量のオブジェを、空を飛ぶ巨大な人物「世界さん」の背中に乗せ、世界を「一人の人間」に見立てるインスタレーションを公開制作した。大勢が手づくりしたモノたちは、造形のレベルこそそれぞれだが、共通したユルさとユーモアをもつ。関口は種々雑多なそれらを単なる混沌に陥らせず、見飽きない「心地よいカオス」にまとめ上げていた。

 

 身近な素材を使うことで「アートを生活の一部に感じてほしい」と話す関口は、手づくりに強いこだわりをもつ。近年、デジタル化や図工の授業への商業キットの導入など、ものづくりを巡る子どもの環境は変化している。そうしたなか、「キットは与えられた範囲の造形だが、社会に出れば枠はない。柔軟な発想のためには身体全体で手探りするような答えのない教育が大切」と、美術館でじっくり造形と向き合う機会を提供する重要性を語った。

 

 同館は近美時代の1981年より、学校と連携して生徒の作品を展示する「教育企画展」を毎年開催してきた実績をもつ。展示室に子どもの作品を飾る試みは珍しく、計12回で県内の全小中学校と特別支援学校が参加した「わたしたちの壁画」(1981〜92)など、教育普及活動としての評価は高かった。「ただ、連携事業は学校の負担も大きく、徐々に出品校が減っていた。また、聞き取りをした先生方からは、働き方改革の影響もあり、展示のために作品を作る時間がないとの声もあった」と、「まるごと」の担当学芸員・田辺友美さんは言う。そこで生まれたのが、連携ではなく、館全体に子どもが楽しめる入り口を偏在させる今回の企画だった。

 

 近美時代からの普及担当・麻生恵子さんは、「学校連携も子どもに来館してもらうことが出発点。旧美術館の建築は重厚だったが、新美術館では来やすさにこだわり、建物の一番いい場所に開放的なアトリエを設置して常時創作の機会を提供できるようになった。今では“学校”という単位にこだわる必要がなくなったととらえている。以前の連携事業では担当教員のレベルが直に展示に反映されるため、一部の先生からは参加しづらいとの声もあった。それならふらっとアトリエに来てもらい、子どもも大人も短時間で造形体験をしてもらうほうが時代に合っている」と、この変化をポジティブにとらえる。成果展に集まった膨大なオブジェは、こうしたオープンな活動のひとつの成果だろう。

 

 他方、「現在のプログラムは試験的で、最終的な姿は今も模索中」と田辺さん。同館では「まるごと」とは別に、「先生のための美術館ガイド」の制作や、学校団体向けに鑑賞プログラムを提案する「Find TAD!プロジェクト」などを通じ、先生や子どもに美術館の使い方を発信し続けている。後者には2023年度107校が参加。その数は近美時代より増えており、こうした経験がまた次のプログラムの形成につながるかもしれない。

 

 近美時代の蓄積を生かしつつ、時代の変化のなかで美術館に求められる学びのかたちを手探りする。関口の語った「手」の力が、ここでも試されている。   

(アートライター・杉原環樹)

 


 

●まるごとTADこども美術館 マジカル手ヅクリーツアー
旧館で開館年の1981年から続いた学校連携事業「教育企画展」を継承し、2022年に始まった、複数の子ども向け企画を館内で同時展開するプログラム。第3回の今回はシリーズ初の試みとして新聞紙×ガムテープアーティストの関口光太郎を招聘し、作家との協働によるワークショップやアトリエ企画、成果展などを開催。また、展示を巡るためのパスポートや、幅広い世代や未就学児向けのツアー、アニメーション映画上映なども実施。
[会期]2024年10月12日~25年3月4日
[主催・会場]富山県美術館


●富山県美術館(TAD)
国内有数の近代美術の収蔵品で知られる富山県立近代美術館(1981年開館)を改称・新築移転し、2017年、富山駅北側の富岩運河環水公園に開館。前川國男監修の重厚な旧館の建物とは対照的な、公園と立山連峰の眺めを取り込む開放的な建築は内藤廣によるもの。「アート&デザイン」を謳う美術館として、充実した近代美術や椅子、ポスターの作品群を常設展示するほか、地元出身の評論家・瀧口修造の旧蔵品も並ぶ。佐藤卓のデザインした屋上庭園「オノマトペの屋上」や開放的なアトリエなどを通し、気軽に遊びに来られる交流型の美術館を目指す。2024年度地域創造大賞(総務大臣賞)受賞。

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