一般社団法人 地域創造

神戸市 神戸文化ホール ヴェルディ:オペラ『ファルスタッフ』

 2024年12月21日、神戸文化ホール開館50周年記念事業としてヴェルディのオペラ『ファルスタッフ』が上演された。同ホール初の本格オペラ制作にして完全オリジナルのプロダクションだ。指揮は、神戸市混声合唱団の音楽監督で神戸市室内管弦楽団とも作業を重ねてきた佐藤正浩。演出は、神戸出身でオペラ演出の第一人者の岩田達宗。合唱のみならずソリストの多くも市の合唱団の現役あるいはOG。神戸の人材が総力を挙げる中、日本を代表するバリトン歌手の黒田博が客演し、傍若無人ながら憎めない主役ファルスタッフを好演。質の高い舞台に、観客から大きな拍手が送られた。

 

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上写真撮影:栗山主税

 神戸市混声合唱団と神戸市室内管弦楽団という2つのプロ集団の拠点である神戸文化ホール。運営する神戸市民文化振興財団の服部孝司理事長は、その成り立ちをこう語る。

 

 「市民の働きかけで、まず弦楽だけの神戸室内合奏団、次に合唱団が誕生し、その運営のために外郭団体が出来て、神戸市の職員が出向していましたが、2016年より当財団の内部組織となり、18年からは管楽器を加えた現在の形で活動しています。合唱団の音楽監督は佐藤さん、管弦楽団の音楽監督は鈴木秀美さんに就任いただき、演奏家やホールのマネジメントは専門の人材に任せて、演奏面、運営面を充実。集客や収入も以前より上向きつつあります」

 

 合唱団は月給制。管弦楽団は、定期演奏会やアウトリーチなどへの出演を主とした契約制。「市のプロフェッショナル集団として、アウトリーチで市内を回ると同時に、全国にも発信していこうとしています。今回の『ファルスタッフ』にはその“旗揚げ”の意味合いがあります」(理事長)

 

 財団の音楽事業部長、楽団部長、チーフプロデューサーを務める森岡めぐみさんは、住友生命いずみホールに30年以上勤務した、理事長の言う専門人材の一人。今回のオペラ上演の発案者だ。「佐藤マエストロはオペラのエキスパートですし、両団体の活動を多くの人に知ってもらうには、総合芸術で訴求力のあるオペラはうってつけ。岩田さんに、女性が不幸にならず男性を懲らしめる内容だからと『ファルスタッフ』を提案された時は、さほどメジャーというわけではない作品だけに不安でしたが、チケットの売れ行きは好調で、完売。同じ演出家の同じ演目を予定する藤原歌劇団と装置協力を結び、立派な舞台ができたのも大きいです」。

 

 自らタクトを振った佐藤マエストロは、2団体の魅力と可能性を次のように分析する。

 

 「神戸市混声合唱団の特長は、合唱集団ではなく声楽家集団であること。合唱団の外ではオペラに出演したり、合唱指揮者をしていたりと、それぞれが活躍していて、色々なものに“化けられる”可能性を持っています。僕が音楽監督に就任した当初は皆、自分が持っている声のうち50%くらいは音程や響き、ハーモニーに費やしている印象でした。勿論、合唱ですから揃えることは大事なのですが、自分の声を殺す必要はない、いつも歌っている声でと言い続け、今では多様な方向性ができています。一方、室内管弦楽団は鈴木監督の下、古典派の音楽で鍛えられているだけあって、機動力や爆発力があることが『ファルスタッフ』に生かされました。というのもこの作品は、テンポが次から次へと変わりますし、細かい音符を整理し俊敏に弾き分けなければならないからです。オペラ特有の歌やフレージングは古典と違いますが、そこは僕が膨らませ、皆ついてきてくれました」

 

 神戸文化ホールは28年、神戸・三宮再整備事業の一環として建つ高層ツインタワーに移る。それまでの展望についても訊ねると、「劇場があり合唱団と管弦楽団があって、今回のように2〜 3名ゲストでソリストを招聘すれば形になるというのは、ここの強み。フルのオペラを継続してつくるとなると経済的な課題が大きいですが、演奏会形式などもう少し小さな規模ででも、2つの団体とホールが一体となってできることを積み重ねていきたいですね」と返ってきた。

 

 理事長は「新ホールのオープニングに祝祭的なオペラがあったら素敵なのではないか」と語る。『ファルスタッフ』は活動の集大成であると同時に、未来を見据えた新たなスタートでもあるのだ。

(高橋彩子)


 

●ヴェルディ:オペラ『ファルスタッフ』
[主催]神戸文化ホール(公益財団法人神戸市民文化振興財団)
[会期]2024年12月21日
[会場]神戸文化ホール 大ホール
[指揮]佐藤正浩 [演出]岩田達宗


●神戸市室内管弦楽団
1981年、神戸室内合奏団として設立。2018年に管楽器団員が加入して神戸市室内管弦楽団と改名。神戸文化ホールでの年5回の定期演奏会のほか、神戸市混声合唱団との合同演奏会、東京や大阪などでの演奏会、アウトリーチ活動などを行っている。2021年よりチェリストで指揮者の鈴木秀美が音楽監督。現在、コアメンバーは27名。

 

●神戸市混声合唱団
1989年設立。神戸文化ホールにて年2回の定期演奏会を行うほか、神戸市室内管弦楽団との合同演奏会やアウトリーチ活動も行っている。2021年より指揮者の佐藤正浩が音楽監督。現在、男声15名、女声18名、ピアニスト7名(準団員含む)の計40名が所属。3年に1回、現役団員の審査がある。


●新・神戸文化ホール(仮称)
現在の神戸文化ホール(令和6年度地域創造大賞受賞)の老朽化に伴い、三宮周辺の再開発によって整備される再開発ビル内に新築移転予定。大ホール(1,800席
程度、2028年中に開館)、中ホール(700席程度、2030年以降開館)、練習室など。

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