一般社団法人 地域創造

和歌山県和歌山市 和歌山県民文化会館 「音楽とダンスが出会う夢の旅」

 和歌山県内の公共ホール4館が参画し、2カ年をかけて企画制作した舞台「音楽とダンスが出会う夢の旅〜響きの先のあしたへ〜」が10月13日に和歌山県民文化会館小ホールで満席の観客にお披露目された。これは、和歌山県が地域創造の立ち上げた「公共ホール創造ネットワークモデル事業(以下、創造ネット)」を活用し、県内4館と実行委員会形式で取り組んだものだ。

 

 今回は、同県出身の北島佳奈さん(ヴァイオリン)と上野絵理子さん(ピアノ)、コンテンポラリーダンスのセレノグラフィカ(隅地茉歩さん、阿比留修一さん)、地域創造から派遣されたコーディネーターの岩崎正裕さん(演出家)と岩村原太さん(舞台照明デザイナー、2年目のみ)がタッグを組み、新たなクリエーションに挑戦した。

 

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上:『メリー・ウィドー』よりワルツ・メドレー
下:『シャコンヌ』
写真提供:和歌山県

 創造ネットの最大の特徴は、2カ年をかけて複数ジャンルのクリエーターチームが1年目のアウトリーチ、2年目の作品制作および公演に挑むことだ。その成果である今回の舞台では、音楽とダンスのセッションに始まり、デュエット・ダンス、ヴァイオリンとピアノによるオペラ『カルメン』と続く。圧巻は本格的なコラボレーションで取り組んだバッハの『シャコンヌ』。亡き妻に捧げたとも言われるこの名曲を北島さんが独奏する中、目隠しをしたウェディングドレス姿の隅地さんとタキシード姿の阿比留さんが交錯する独特の世界が展開した。今回の取り組みについてクリエーターたちはどう感じているのだろう。

 

岩崎:「アーティスト、僕、岩村さんをはじめとする技術スタッフ、地域創造の担当者など、みんなが同じ土俵で意見を出しながら創作した。普通ならまとまらないところだが、地域創造の登録アーティストとして同じ価値観を共有していたことに加え、1年目のアウトリーチでチームづくりができていたから可能になった。」
隅地:「この4人だったら何ができるかをずっと考えていた。アウトリーチは前半と後半を音楽とダンスで分けたが、子どもたちの身体は音楽によって変化し、自分の中で音楽とダンスを自由に混ぜてイメージを膨らませていた。無理に融合して提示しなくても、それぞれのベストを提出して後は委ねるのもコラボでは。」
阿比留:「ダンスで音のないワークを行ったときに、演奏家が『音のない時間に音を感じる』と言われた。ダンサーが静かに歩いて登場するなどの時間を共有することが協働になると思った。最後のシャコンヌが課題だったが、共通のアプローチをするのではなく、それぞれのシャコンヌを舞台に置けばいいと考えた。」
北島:「無音のダンスを見たときに自分の中に映像=イメージが湧いてきて、それが音楽になって聞こえてきた。演奏するときに何を大切にするかという軸がブレることはないが、ダンスと一緒にやって演奏が音だけではなく“見える”ということに気づかされ、新しい自分を引き出していただけたと思う。」
上野:「ダンスと一緒にやって視覚的なことを意識するようになり、自分の扉が開いた感じがした。コラボには答えがないので、音楽だけの演奏会とは違う“空白”ができるところがある。客席にいる方も私と同じように開放されて、舞台との間に気門が開いてる感じで、来ている方それぞれとのコラボになっていると感じた。」

 

 今回事務局を務めた和歌山県文化学術課の田中融さんは、「隅地さんが『これって何だったのかな?と皆が考えながら家路につく公演にしたい』と言われていたが、『シャコンヌ』が色々な角度から浮かび上がってきて、1+1=2ではなく、無限に広がっていく可能性を感じた。一緒に事業を行ったことで市町村と横のつながりが生まれ、今回参加した市町村同士で新しい企画を立ち上げる動きもある」と振り返っていた。

 

 地域創造の津村卓プロデューサーは、「これからは県が市町村をどう支援していくのかが問われてくる。地域での経験が豊富なコーディネーター(演出家など)は地域創造が派遣するが、アーティストは県と相談して決めている。音楽だけ、演劇だけ、ダンスだけというのではなく、ジャンルを越えることでみんなが対等に創作に参加できる場が生まれる。できるだけ自由な創造現場で、みんなが一緒に成長できる事業を目指した」と言い、まさにその意図が見事に実を結んだ舞台になっていた。

 

(坪池栄子)

 

 

 

●公共ホール創造ネットワークモデル事業「音楽とダンスが出会う夢の旅~響きの先のあしたへ~」
[会場・会期]

和歌山県民文化会館小ホール:10月13日、

串本町文化センター大ホール:10月20日、

かつらぎ総合文化会館あじさいホール大ホール:10月27日、

上富田文化会館文化ホール:11月10日
[出演]北島佳奈、セレノグラフィカ(隅地茉歩、阿比留修一)、上野絵理子
[主催]和歌山県公共ホール創造ネットワークモデル事業実行委員会(和歌山県、かつらぎ町、上富田町、串本町、一般財団法人和歌山県文化振興財団)
[共催]一般財団法人地域創造

 

●公共ホール創造ネットワークモデル事業
公共ホール職員等の企画制作能力の向上と都道府県内の公共ホール間の連携の促進を目的に、都道府県等を中心に市町村の公共ホールが協働・連携して実施する2カ年事業。地域創造から必要に応じてコーディネーターを派遣し、クラシック音楽・現代ダンス・演劇等の複数ジャンルのアーティストの交流により、1年目が相互理解を深める研修および新たなアウトリーチプログラムの開発と実施、2年目の舞台作品の創作と巡回公演および地域交流プログラムを支援。

 

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