一般社団法人 地域創造

愛知県長久手市 長久手市文化の家 「おんぱく2024〜真夏のおんがく大縁日〜」

 愛知県長久手市は名古屋のベッドタウンとして人口が増加し、子育て世代の多い“日本一若い街”(*1)と言われる。そんな同市の総合文化施設・長久手市文化の家(*2)で、0歳から楽しめる「おんぱく2024~真夏のおんがく大縁日」が8月4日に開催された。


 6月下旬から市内10カ所でまちなかコンサートを実施し、文化の家全館を使ったこの日の大縁日で締めくくり。大小さまざまなコンサートをはじめ、地元の栄徳高校吹奏楽部の協力によるマーチング体験、ダンスや造形ワークショップ、楽器体験、スタンプラリー、バックステージツアー、近隣のカフェや飲食店が出店した屋台など、アトラクションが満載だった。


 ラストが森のホールのメインコンサートで、東京佼成ウインドオーケストラと地元および東海圏の演奏家による約60人の特別楽団が吹奏楽曲『鳳凰が舞う』、芳賀傑作曲の委嘱曲『おんぱく大縁日!!〜楽器妖怪が通りゃんせ〜』などを演奏。満席の会場に羽根と紙吹雪が舞うとお祭り気分は最高潮に達した。揃いのTシャツを着たボランティア(大学生約100人、文化の家フレンズ約20人)が支え、スタッフと出演者を合わせて300人近くが奔走。チケットは早々に完売。まちなかコンサートを含めて延べ3,274人が音楽祭を堪能した。

 

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メインコンサートの様子
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にぎわうガレリアの総合受付

 

 おんぱくがスタートしたのは今から20年前の2004年。ほぼ隔年で開催され、今回が10回目となる。当時事業担当だった生田創・現館長がガレリアや小さな部屋がたくさんある館内を見た来館者に、「この施設は遊園地みたいにワクワクする空間ですね」と言われたのがきっかけで、「音のテーマパークのような企画ができないか」と思いついた。「地元には愛知県立芸術大学などもあり、卒業生の演奏家やアーティストもたくさん住んでいる。そうした地元の人の活躍の場にもなればと思った」と振り返る。


 立ち上げは「楽器の動物園」として楽器体験とコンサートを実施したが、内容も運営も追いつかず迷走。翌年の愛知万博をきっかけに地域との繋がりも強くなり、愛知室内オーケストラ(*3)の協力も得て、2007年には音楽博覧会=おんぱくとして『ボレロ』をテーマに開催。以来、試行錯誤しながら、継続してきた(2016年から実行委員会方式に変更)。


 おんぱくの企画の特徴は大きく3つ。①メインコンサートで演奏するテーマ曲から企画内容を膨らませること、②創造スタッフ・フランチャイズアーティスト(*4)など文化の家を拠点とする人材が中心となってプロデュースしていること、③テーマの世界観を重視したデザインに力を入れていること。


 例えば、実行委員会のメンバーであり、今回のプロデューサーを務めた石川貴憲さん(愛知芸大出身のサクソフォン奏者)、また、空間デザインで多大な貢献をした橋寛憲さん(愛知芸大出身の造形作家)も創造スタッフからフランチャイズアーティストになった地元の逸材だ。


 石川さんは、「今回は子どもたちにぜひ吹奏楽で有名な『鳳凰が舞う』にふれてもらいたいと思った。かなり高度な作品だが、子どもたちに親しみやすく、楽しめるようにと考えて『和物』『妖怪』『縁日』という要素を導き出し、みんなと相談していった」という。現役のフランチャイズアーティストである橋さんは、「おんぱくでは手を替え品を替え、子どもたちを楽しませたいと思っている。そのためには没入感が大事で、統一したイメージを打ち出す必要がある」と言い、石川さんの提案を受けて、「鳳凰の訪問を聞きつけた楽器たちが妖怪になって会いに来る」という物語をつくって実行委員に提示した。

 

 これをベースに、実行委員会は、選曲や演奏家などを決める音楽部会、アトラクションを決める企画部会、館内装飾や工作ワークショップなどを担当する美術部会、広報部会などに分かれて約1年にわたって準備を重ね、手づくりの提灯や段ボールでできた社(やしろ)、楽器妖怪など、館内は1日限りの縁日仕様に生まれ変わった。


 文化の家は来年1月から大規模改修による全館休館が予定されている。リニューアル後のオープニングがおんぱくとなる可能性もあり、休館中はさぞかしアイデア会議で盛り上がるのではないだろうか。

(田中健夫)

 

●おんぱく2024~真夏のおんがく大縁日~
[会期]2024年8月4日 10:30~16:30
[会場]長久手市文化の家 全館
[主催]おんぱく2024実行委員会、長久手市
※入場チケット1,500円(子ども500円)

 

*1 市の人口は61,345人、平均年齢41.5歳、年少人口(15歳未満)は17.0%(2024年8月1日現在)。就労人口の約1%(500~600人)がアーティストであると言われている。
*2 1998年7月15日に「長久手町文化の家」として開館。ホール施設(最大711席の森のホール、292席の風のホール)と、アートリビング施設(可動式小ホール、展示室、舞踊室、音楽スタジオ、食文化室、美術室、会議室、暗室等)で構成され、両施設を自由通路のガレリアが繋いでいる。2012年1月の市制施行に伴って館名変更。管理運営は市くらし文化部生涯学習課(直営)。
*3 愛知県立芸術大学出身の若手演奏家を中心に2002年に発足。
*4 文化の家では地域人材を活用するため、若手アーティストに業務を委託する「創造スタッフ」制度を設けている(現在、音楽、美術、ダンス、演劇で計6名。期間3年)。その経験者から1名をフランチャイズアーティストとして契約(現在は橋寛憲さん)。全員がおんぱく実行委員となりアトラクションの企画・実施に携わる。また、文化の家の1年間の広報物(チラシ、ポスターなど)をデザインするデザイナーとして愛知県芸のデザイン課の学生を採用する制度もある。

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