演出家等の演劇の表現者を公共ホールに派遣し、ホール職員等と共にアウトリーチやワークショップを企画・実施するリージョナルシアター事業。この事業では、演劇の幅広い可能性について、ホール職員等の理解を深め、演劇の手法を用いて地域活性化の試みを後押しすることを目的としています。今年度は8団体が参加し、まちの規模もミッションもさまざまな中で、担当者が派遣アーティストと対話を重ねながら企画した事業が、順次スタートしました。
兵庫県西宮市(西宮市民会館)では、地元の中高演劇部に向けたワークショップや、市内NPO法人と協働したワークショップ、不登校児童の支援施設職員に向けたインリーチを実施しました。NPO法人なごみが運営し、学びを通して人や居場所との出合いを創造するまちの学校「まちがく」との共同主催によるワークショップでは、ごまのはえさんによる戯曲講座を行いました。受講生たちは、台詞だけでなくト書きでも登場人物の関係性や感情を表せることなどを学び、最後には、昔の西宮の写真を基に戯曲を創作するという課題が出されました。提出された作品は講師からのフィードバックがあるほか、数点がリーディング劇として上演される予定です。西宮市文化振興財団の田北篤史さんは「以前から、自分たちと同じように地域活性のために活動している団体と協働したいと思っていた。リージョナルをきっかけに繋がりが出来たので、今後どのようにコラボできるか考えていきたい」と話していました。
島根県安来市(安来市総合文化ホール アルテピア)では、小学校でのアウトリーチ、親子を対象とした公募ワークショップ、児童養護施設でのアウトリーチなどを行いました。小学校のアウトリーチは2・3年生を対象に実施。子どもたちにあまり馴染みのない「劇作家」「演出家」「俳優」の仕事を、サイコロを使ったお芝居仕立てで紹介したあと、アシスタントの俳優が繰り返すひとつの動きをきっかけにして、グループでワンシーンをつくってみました。動きが何に見えるのか想像力をふくらませてアイデアを出し合ううちに、短い物語が出来上がるグループも。想像することの楽しさや、みんなで協力することで新たな発想が生まれる面白さを感じることができました。先生からは「普段はおとなしい子も、自分を思い切り出せて満足していたと思う」との感想がありました。
熊本県宇土市(宇土市民会館)では、宇土市民会館に中学校が隣接しているという特徴を生かし、学校ではなく、ホールの舞台と客席を余すことなく使ったワークショップを実施しました。ワークショップは、全校生徒約840人のうち、10月に行われる学習発表会に向けて劇の練習に取り組んでいる1~3年生のそれぞれ約30人と、特別支援学級の生徒を対象に4回行い、合計101人が参加しました。イスに鬼を座らせないように全員で協力するイス取り鬼では、最初は数秒で座られていた学年もお互いに作戦を出し合って実践し、数分間にわたって座らせないことに成功していました。また、3人1組でチームを組んでセリフの欠けている台本を埋め、別のチームがセリフの仕上がった台本を演じるワークでは、客席通路の手すりを屋上の柵に見立てるチームや、舞台上を鑑賞席にして客席で演技するチームなど見せ方にも工夫が光り、見学した先生からはワークショップの手法を習いたいという声もありました。
その他の地域でも、ホールの活用や地元の大学と連携した取り組み、地元で演劇活動をしている方へのワークショップ体験などが実施されます。今年度より新規アーティストも各地へ派遣しておりますので、興味のある方はぜひご視察ください。