一般社団法人 地域創造

地域創造フェスティバル2024報告

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左上:シンポジウム「アウトリーチから改めて考える文化芸術の役割」
右上:おんかつ支援プレゼンテーション Quartet SPIRITUS(サクソフォン四重奏)
左下:おんかつ支援プレゼンテーション 加藤文枝さん(チェロ)
右下:ダン活プレゼンテーション 黒須育海さん

 多くのアーティスト・公立ホール・自治体職員の交流の場となっている地域創造フェスティバルが7月29日から31日まで東京芸術劇場で開催されました。おんかつ支援登録アーティスト54組によるプレゼンやシンポジウムに加え、2025・2026年度公共ホール現代ダンス活性化事業(ダン活)登録アーティスト7組によるプレゼンテーションや事業担当者と各種事業のコーディネーターが意見を交わすテーブルトーク、都道府県・政令指定都市文化行政担当課長会議などが行われ、活気に溢れたフェスティバルとなりました。

シンポジウムは「アウトリーチから改めて考える文化芸術の役割」

 地域創造では、1998年から「公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)」に取り組み、演奏家が学校などに出向くアウトリーチ事業を推進してきました。一昨年度から2カ年にわたりその成果や効果を検証する調査研究を行っており、報告書「アウトリーチから考える文化芸術の役割」(令和6年3月)をとりまとめています(https://www.jafra.or.jp/library/report/2023/index.html)。


 昨年度の調査ではアウトリーチを実践してきたアーティストやコーディネーターを対象にアンケートとグループインタビューを行い、シンポジウムではその主な内容を紹介するとともに、調査に協力した田中真実さん(認定NPO法人STスポット横浜副理事長・事務局長)、隅地茉歩さん(振付家・ダンサー/セレノグラフィカ代表)、長野隆人さん(いわき芸術文化交流館アリオス副館長・支配人)、若林朋子さん(プロジェクト・コーディネーター/立教大学大学院社会デザイン研究科特任教授)によるパネルディスカッションが行われました。

 

 田中さんは過去の調査研究にふれながら、「芸術普及(アウトリーチ)活動は多くの市民との関係を構築することができる。まちづくり、人づくりに繋がる、これからの地域文化施設の鍵を握る事業だ」と発言。福祉の関係者から指摘された「福祉は困りごとから人に出会うが、文化芸術は好きなこと、やってみたいことから出会うことができる」という言葉にみんな大きく頷いていました。

 

 また、2004年に初めてアウトリーチの現場に立ってから現在までにおよそ800カ所で実践したという隅地さんは、「アウトリーチをしたから不登校がなくなる、いじめがなくなるわけではない。成果が目的化してしまうと、他者の身体を支配することにつながりかねない。現場で起きたことをありのままに受け止めていければ」と話し、課題解決思考になることに注意を促していました。

 

 長野さんは、生活支援型アートセンターとして「生まれる前から墓場まで、切れ目なき芸術支援」を掲げているアリオスの多彩な取り組みについて紹介。また、若林さんは「深いレベルのコミュニケーション」をもたらすアウトリーチについて整理していました。

 

 シンポジウムもそうでしたが、報告書にも「アウトリーチによって文化芸術の可能性を再認識し、自分の仕事に誇りを持つようになった」といった熱い発言が並び、参加者を大いに勇気づける時間となりました。

アーティスト計61組がプレゼン

 おんかつ支援の登録アーティストは、現在、計113組に上ります。今回のフェスティバルでは、その中から54組が参加しました。

 

 サクソフォン4重奏は4組がプレゼンに参加しましたが、今年20周年を迎えるQuartet SPIRITUSは、カツ丼(ご飯=バリトン、トンカツ=ソプラノ、玉ねぎ=アルト、玉子=テナー)に例えてアンサンブルの仕組みを小学生に紹介するプログラムを実演。「サックス4重奏のために書かれた曲を演奏することを大切にしている」と超絶技巧のベルノーの「四重奏曲」を取り上げ、その緻密なアンサンブルと技術の高さで、サクソフォン4重奏の可能性を最大限に引き出す演奏でした。

 

 閑喜弦介さん(クラシック・ギター)は図形譜を配布し、「音楽は聴くだけでなく、もっと能動的に参加するものだと思う。楽器が弾けなくても、楽譜が読めなくてもこれは演奏できる」と参加者と即興演奏しました。「チェロ1本で太夫と三味線を演じるひとり劇場のような曲」として黛敏郎の『BUNRAKU』を豊かに演奏した加藤文枝さん(チェロ)、着物の違いから8・8・8・6のリズムをもつ琉歌についてまで沖縄文化のエッセンスを紹介した棚原健太さん(歌三線)、ピアニストの中川賢一さんと組んでマリンバの能力を多彩に引き出した宮本妥子さん(打楽器・マリンバ)、リストが編曲した『魔王』(シューベルトの歌曲)で参加者の心を鷲掴みにした今田篤さん(ピアノ)など、多彩なパフォーマンスが続きました。

 

 ダン活プレゼンテーションでは、2025・2026年度登録アーティストがプレゼン。登録アーティスト経験者である井田亜彩実さん、浅井信好さん、康本雅子さんに対し、岩渕貞太さん、Von・noズ、橋本真那さん、黒須育海さんが初めてプレゼンに臨みました。

 

 岩渕さんは、舞踏や武術の影響を受けているという身体観と動きをつくり出すメソッドを論理的に説明。「伸びをして気持ちがいいところを見つけたら、他に気持ちがいいところがないか探しながら、ずっと気持ちがいい状態を続ける」という“網状身体”のワークを参加者が実際に体感。また、大学時代の同級生2人が結成したVon・noズはレパートリー作品の『不在をうめる』のワンシーンを披露。台湾で古典舞踊を学んでいる橋本さんは台湾の舞扇を使ったワークを行いました。特別支援学校で10年間仕事をした経験をもつ黒須育海さんの身体遊びのワークなど、それぞれ全く異なるアプローチで自らの身体表現についてアピールしていました。



 財団の事業説明では地域の文化・芸術活動助成事業に新設された創造プログラム(地域課題対処特別分)(*)の紹介なども行われ、関心を集めていました。なお来年度は、東京芸術劇場が施設更新工事のため一時休館となるため、会場を神奈川県の茅ヶ崎市民文化会館に移して8月4日〜6日に開催する予定です。奮ってご参加ください。

 

*創造プログラム(地域課題対処特別分)
文化芸術により地域の課題に向き合い、解決に向けて取り組もうとするアウトリーチ、ワークショップ等を行う事業(2年もしくは3年間の助成。ただし、各年度の申請を審査した上で決定)に対して助成する事業。

 

 

●地域創造フェスティバル

公立ホールや自治体が事業を企画・実施する上で参考となる情報を提供することを目的に、地域創造が開催。公共ホール音楽活性化支援事業の登録アーティスト、公共ホール現代ダンス活性化事業の登録アーティストによる実演(プレゼンテーション)、シンポジウム、セミナーなどを実施するとともに、財団事業の説明会を実施。多数のアーティストや全国のホール・自治体関係者、専門家が一堂に集い、交流する貴重なプラットフォームとなっている。会期中に都道府県・政令指定都市文化行政担当課長会議を同時開催。

 

●地域創造フェスティバル2024 プログラム概要

【1日目(7月29日)】
◎おんかつ支援プレゼンテーション
【ピアノ】奈良希愛 【弦楽器】甲斐摩耶、早稲田桜子(ヴァイオリン)/海野幹雄、奥田なな子、加藤文枝(チェロ) 【管楽器】吉岡次郎(フルート)/高見信行(トランペット)/加藤直明(トロンボーン) 【声楽】小林厚子(ソプラノ)/西村悟(テノール) 【打楽器】大熊理津子(マリンバ)/新野将之(パーカッション) 【その他】閑喜弦介(クラシック・ギター)/棚原健太(歌三線) 【アンサンブル】カメハ(パーカッションデュオ)/Quartet SPIRITUS、Quatuor B(サクソフォン四重奏)

 

【2日目(7月30日)】
◎シンポジウム「アウトリーチから改めて考える文化芸術の役割」(令和5年度調査研究事業報告)
吉本光宏、大澤寅雄、田中真実、隅地茉歩、長野隆人、若林朋子
◎おんかつ支援プレゼンテーション
【ピアノ】酒井有彩、佐々木京子、高橋ドレミ 【弦楽器】北島佳奈、神谷未穂(ヴァイオリン)【管楽器】森岡有裕子(フルート)/田中拓也(サクソフォン)/喜名雅(テューバ) 【声楽】上田純子、梅津碧、乗松恵美(ソプラノ)/吉川健一(バリトン) 【打楽器】野尻小矢佳(パーカッション&ボイス) 【その他】松尾俊介(クラシック・ギター)/藤重奈那子(箏・地歌三味線)/山本奈央(オカリナ) 【アンサンブル】Dual KOTO×KOTO(箏デュオ)/泉真由×松田弦(フルート&クラシック・ギター)
◎ダン活プレゼンテーション
井田亜彩実、岩渕貞太、Von・noズ、橋本真那、黒須育海、浅井信好、康本雅子

 

【3日目(7月31日)】
◎Jafra テーブルトーク 2024
①地域資源の活用、地域課題(ファシリテーター:有門正太郎)、②変遷する劇場の役割、インリーチ・アウトリーチ(福田修志)、③アウトリーチ事業の継続的な実施のために─成功事例からみる、理解を得るために必要なこと─(菊地俊孝)、④おんかつ事業から広がる可能性─地域とのつながりの種まきとして─(佐藤良子)、⑤伝統楽器を用いた事業、どうやったらできる?(伊藤由貴子)、⑥アウトリーチ活動における邦楽の強みとは?(谷垣内和子)
◎助成・事業説明会
◎おんかつ支援プレゼンテーション
【ピアノ】新崎誠実、今田篤、岩崎洵奈、今野尚美 【弦楽器】石上真由子、坂口昌優、高橋和歌(ヴァイオリン) 【管楽器】荒川洋(フルート)/田村真寛(サクソフォン) 【声楽】竹多倫子、渡邊史(ソプラノ)/ヴィタリ・ユシュマノフ(バリトン) 【打楽器】宮本妥子(打楽器・マリンバ)【その他】福島青衣子(ハープ) 【アンサンブル】デュエットゥかなえ&ゆかり(ピアノデュオ)/ピアノトリオ・ミュゼ(ピアノトリオ)/アーバンサクソフォンカルテット、Modétro Saxophone Ensemble (サクソフォン四重奏)

 

*都道府県・政令指定都市文化行政担当課長会議を同時開催(7月30日 13:30~15:30/シアターウエスト)
*各日、来場者が交流する「情報交換会」を開催(18:50~19:50/シアターウエスト)

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