日本初にして唯一の公立劇場のレジデンシャル・ダンスカンパニーNoism Company Niigata(以下、Noism)が20周年を迎えた。取材した6月29日に本拠地・りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館で行われた記念公演『Amomentof』は満員盛況だった。井関佐和子をメインにNoismのメンバー全員が出演し、稽古場での研鑽を積む様子を描いた『Amomentof』と、マックス・リヒターがリコンポーズしたヴィヴァルディの『四季』に振り付けた『セレネ、あるいは黄昏の歌』のダブルビルで、芸術総監督の金森穣が目指す「プロフェッショナルな身体による舞踊」が躍動していた。
2018年、そんなNoismにいわゆる“存続問題”が持ち上がった。「新潟から世界に発信する」ことを目指したNoismを支えてきた市の功績は大きかったが、政令市といえども人口が15年間で2万4千人も減少。こうした社会状況の変化と市長交代を受けて19年、市に劇場専属舞踊団検証会議が設置された。作品のクオリティや国内外での評価の高さは認められたものの、地域貢献度やNoismと市、りゅーとぴあを運営する新潟市芸術文化振興財団との意思疎通の不足等が指摘された。こうした意見を受けて三者による継続的な話し合いが行われ、22年8月までのNoismの存続が決定した。
その後、市はレジデンシャル制度に関する有識者会議を立ち上げ、制度の定義、目標、基本方針等を定め、芸術監督の任期は1期5年以内とし、任期の更新は1回、2期10年を上限とするりゅーとぴあの新たなレジデンシャル制度を発表、Noismが制度適用第1号となった。
新たなレジデンシャル制度を踏まえ、Noismは金森穣を芸術総監督として、国際活動部門(芸術監督:井関佐和子)、地域活動部門(芸術監督:山田勇気)を設ける2部門3芸術監督体制に移行。地域の学校などを対象としたアウトリーチ活動も活発化させた。
この新体制について、りゅーとぴあ事業企画部舞踊企画課長の坂内佳子さんは次のように話す。坂内さんは、銀行員から、新潟県民会館を経てりゅーとぴあの職員になり、2020年から舞踊を担当してきた。
「りゅーとぴあの職員になる前から観客としてNoismを見てきた。新潟にこんなカンパニーが出来たことが誇らしかった。館の事業費が開館当初からほぼ半減する中でNoismの運営費はキープされていた。市長選前からそのことについて議論はあり、館内でも不満がないわけではなかった。今回のことで正式に新潟市のレジデンシャル制度に位置付けられ、国際・地域の各部門を整えられたことは成果だと思う。ただ、金森総監督の任期は最長で2032年まで、さらに将来的に舞踊以外の分野になる可能性も含まれている。これまでの蓄積を生かし、今後どう進めるかだと思うが、レジデンシャル制度も始まったばかりでまだまだこれからだ」
では、金森は現状をどう受け止めているのだろうか。「まず20年間支えてくれた新潟には感謝しかない。Noismの活動は、この場所とこの環境でしかできなかった。これまでは市と財団の間を行ったり来たりしていたが、市のレジデンシャル制度に位置付けられたことで市・財団・カンパニーが協議する定例会も開かれるようになり、やっと市の文化政策としてのスタート地点につけた、という思いがある。芸術監督の任期が1期5年となっているが、3年目には次期監督の候補者を決めて選定に入り、最後の2年は引き継ぎに充てることになっている。25年が私の3年目なので、この制度の初代芸術監督として責任を持って次に引き継ぎたいと思っているが、選定の基準や方法などもまだ決まっていない。この20年、『この国に劇場専属舞踊団という制度を確立したい』という思いでやってきた。今は私がいなくても存続できるカンパニーの体制づくりに注力しており、2部門制の芸術監督に実権を移譲した成果も順調に出てきている」
海外の有名カンパニーでは芸術監督が交代することは珍しくないが、金森が創立して育てたNoismを生みの親から切り離して存続させることができるのか、市のレジデンシャル制度とはどのようなものなのか、試行錯誤が続きそうだ。
(舞踊評論家・乗越たかお)
●Noism Company Niigata 20周年記念公演
[主催](公財)新潟市芸術文化振興財団
[会場・日程]りゅーとぴあ:2024年6月28日~30日(7月26日~28日に彩の国さいたま芸術劇場でも公演)
[演出振付]金森穣
[出演]『Amomentof』:Noism0・1・2/『セレネ、あるいは黄昏の歌』:Noism0・1
●Noism Company Niigata
海外の有名カンパニーで実績を積んできた金森穣を芸術監督に招き、2004年にりゅーとぴあの専属舞踊団Noismとして創設(2019年にNoism Company Niigataと改名)。金森以下ダンサーたちは年間契約により、新潟に住み、りゅーとぴあ内のスタジオを拠点に活動。ベテラン3名(金森、井関佐和子、山田勇気)による「0」、メインカンパニーの「1」(11名)、研修生の「2」(11名)が所属(2024年6月現在)。専属スタッフ5名(広報2人、制作3人)、館の舞踊企画課も課長を含め3名が関わる。
•芸術総監督:金森穣
•国際活動部門(芸術監督:井関佐和子)
世界に通用する舞台や国内外公演の芸術面を担当
•地域活動部門(芸術監督:山田勇気)
市民向けクラスや学校公演などの地域に根ざした活動を担当