八戸の地域資源やまちづくりを体感したラボ
ステージラボ八戸セッションが7月2日から5日まで八戸ポータルミュージアムはっちと八戸市美術館を会場に開催されました。今回はホール入門と自主事業の2コースで、地域創造の調査研究やおんかつで地域との関わりが深い大澤寅雄さん(合同会社文化コモンズ研究所代表・主任研究員)と、ダン活の登録アーティストとして市民参加の舞踏を創作してきた田村一行さん(大駱駝艦舞踏手・振付家)がそれぞれコーディネーターを務めました。
八戸市では、空洞化した中心市街地の活性化基本計画を策定し、はっち(2011年開館)、まちなか広場「マチニワ」(2018年開館)、美術館(2021年開館)などを整備してきました。今回は古くから市民に愛されている横丁も残る中心市街地の街歩きも行われ、八戸の地域資源やまちづくりを体感したラボとなりました。
居場所/地域との関わりがテーマ〜ホール入門コース
20年ほど前から「文化生態観察」と名付けて社会における文化を介した人の関わりを観察してきたという大澤さんは、舞台芸術の専門施設としてだけではない公立ホールの役割に注目しました。
東日本大震災で避難所となったいわき芸術文化交流館アリオスの長野隆人さん(副館長・支配人)、秋田県立美術館をリノベーションしたアートセンターを市民一人ひとりの想像力を育み、応援する居場所として運営している秋田市文化創造館の三富章恵さん(NPO法人アーツセンターあきた事務局長)、全国の中学校数とほぼ同じ9,132カ所まで広がったこども食堂を支援する認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長の湯浅誠さんらが、これまでにない切り口で受講生と向き合いました。
湯浅さんは、「こども食堂という名前だが、誰でも参加できる“共生食堂”で、地域コミュニティとオーバーラップして地域の人がつながる場所になっている。劇場ホールを地域の居場所にしたいと思った時に留意すべきは、交流をベースにすると個別支援につながりにくく、支援をベースにすると広がりを欠くということ。私は“より多くの人にたくさんの居場所”“どんな人にも少なくともひとつの居場所”を目指すべき方向性だと考えている」と話していました。
秋田市文化創造館の取り組み(道具と素材だけが置いてある「ソウゾウカンラボ」、チャレンジしていることを誰かに披露する「チャレンジマーケット」、何かを語り合いたい人に1時間無料で場を提供する「カタルバー」など)のレクチャーでは、創造館の職員になりきって日々のトラブルに対応するロールプレイも行われました。
受講生は事前課題として利用がない日のロビーなど自館の共有空間を写真撮影してラボに臨みましたが、最終日にはその写真をみんなで見ながら、公共施設とは何か、その可能性について改めて考えました。
舞踏の精神にふれる〜自主事業コース
田村さんは、ダン活で八戸市と出会ったのをきっかけに民俗芸能「えんぶり」を教わり、2014年に新作舞踏『おじょう藤九郎さま』を発表するなど、各地の地域資源と交感して地元の人々と舞踏を創作してきました。中でも豊岡市民プラザは2017年のダン活から毎年、田村さんを招いて地元の伝承を題材に市民が舞踏手となる作品の創作を続けてきました。参加者にリピーターが多いことから22年には市民舞踏団を結成しました。
今回のラボでは、こうした各地の取り組みを、岩﨑孔二さん(豊岡市民プラザ館長)、奥山裕さん(八戸市南郷文化ホール館長)、大澤苑美さん(八戸市美術館学芸員)、穂の国とよはし芸術劇場プラットの市民参加舞踏で題材となった『豊橋妖怪百物語』の著者である内浦有美さんなど、現場を支えたキーパーソンがレクチャー。また、生まれ育った奥信濃のおじいちゃん、おばあちゃんたちを写真で発信している小林直博さん(カメラマン兼編集者)と横丁に繰り出し、日常を楽しむをテーマに写真の撮影も行われました。
田村さんは、「地域資源と出会うきっかけはさまざまだが、僕はあくまでよそもの。地域の宝物を題材にするのだから、ホール職員のように間に入ってくれる人がとても大切だ。僕が何をしたいというのではなく、訪ね歩いてビビッときたものをいただくものだと思っている」と前置き。その後、脱力して身体を空っぽにする宙体、その身体をイメージでいろいろなものに変えていくワークなどにトライしました。
そして、今回のメインが、受講生が白塗りをして舞踏手となり、田村さんと共演する「舞踏風土記〜番外編」の創作です。約5時間かけてヒトからケモノに変わり、即身仏から蘇るなど9シーンからなる30分の舞踏を完成させました。受講生たちは初めての白塗りで変身し、日常の自分から解放され、やりきった満足感で輝いていました。
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共通プログラムでは、長年にわたって地域演劇活動に携わっている八戸市公民館館長の柾谷伸夫さんによる南部弁講座が行われました。日本ではアイヌ語など8言語がユネスコによる消滅の危機にある言語に指定されています。南部弁は指定されてはいませんが、話者が激減しており、柾谷さんは小中高校での講義や方言による演劇塾などにより普及活動を行っています。今回は活動の紹介に加え、やさしい南部弁にも挑戦。まゆげが「このげ」、へそが「へっちょ」、お月様が「ののさま」など、南部弁を通じて自分たちの地域の方言の豊かさを再発見する時間となりました。
次回のステージラボは、来年2月にフェニーチェ堺(堺市民芸術文化ホール)で行われる予定です。奮ってご参加いただければと思います。
ステージラボ八戸セッション プログラム表
コースコーディネーター
◎ホール入門コース
大澤寅雄(合同会社文化コモンズ研究所 代表・主任研究員)
◎自主事業コース
田村一行(大駱駝艦舞踏手・振付家)
「ステージラボ」に関する問い合わせ
芸術環境部 天野・児島
Tel. 03-5573-4068