一般社団法人 地域創造

愛知県豊田市 豊田市美術館 豊田市博物館 未完の始まり:未来のヴンダーカンマー

 現代アートの企画展で知られる豊田市美術館(1995年開館)に隣接して、2024年4月、豊田市博物館が開館した。設計は建築家の坂茂で、谷口吉生が設計したモダニズムの名建築である美術館とピーター・ウォーカーがデザインしたランドスケープによって連なり、一体感のあるミュージアムゾーンが完成した。


 豊田市美術館・前館長の村田眞宏さんが博物館の初代館長に就任。また、市役所の市長部局として美術・博物部を設けて両館を直営で運営するなど、体制としても注目されている。


 5月6日、新博物館とそのオープニングに合わせて企画された美術館の「未完の始まり:未来のヴンダーカンマー」展を取材した。

 

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上:巨大なガラス張りの常設集合展示
下:「未来のヴンダーカンマー」展示の様子(ガブリエル・リコの作品)

 

 15世紀のヨーロッパで始まった「ヴンダーカンマー(脅威の部屋)」は、世界中から美しいもの、珍奇なものを集めて展示する、ミュージアムの原型とされる。この展覧会では、こうしたあり方を現代の美術館として捉え直し、歴史や資料や伝統を批評的・創造的に再構成するメキシコ、旧ソ連、日本、中国、ベトナムで生まれた5名のアーティストによる新旧作品が展示された。

 

 剥製やメキシコ先住民の毛糸絵に無機的な素材や幾何学を融合させてメルヘンで神話的な世界を表現したガブリエル・リコ、豊田市をリサーチした膨大な情報を元に人類の歩みを大量のスマートフォンやチタン、映像を用いたイン
スタレーションで展開した田村友一郎の新作など、多様な価値観や視点が交差する展示になっていた。「開館から30年を経て、豊田市美術館では来館者が謎めいたもの、わからないものを積極的に楽しもうとする姿勢が以前よりはっきりとうかがえる」そうだ。

 

 博物館に移動すると、1階常設展示室に設置された巨大なガラスキューブの展示ケース(高さ約8m)に目を奪われた。「とよたモノ語り」と題して、市内に生息する動物の剥製や植物・昆虫標本、祖父母の家にあったような民具や家電から土器までが曼荼羅のように集合展示されていた。その周りには、市民が自らの記憶を記す「とよた記憶カード」のコーナー、自動車産業の展示、えんにち空間には祭りの山車もあった。

 

 「市民とともにつくり続ける」をコンセプトにした博物館について村田館長にインタビューした。

 

 「このエリアは豊田市の文化ゾーンとして位置付けられていて、当初から博物館を整備したいという意向があった。美術館の開館から30年ズレたことで環境も変わり、市民とともにつくり続ける、自然を含めた総合博物館にするというコンセプトになった。私は福島県立美術館、愛知県立美術館の開館に携わり、豊田市美術館の館長に就任した。そうした経験の中でミュージアムと社会はどう繋がっていくべきなのかがずっと気になっていた。

 

 博物館は余暇を楽しむところでもあるが、もっと社会と直接つながるべきだし、地域社会をつくる拠点になるべき。過去のものを扱ったとしてもそれは未来の人と街をつくる拠点として機能すべきだ。啓蒙型で学芸員が展示や解説を提供するというのではなく、『人々がそこに集まり、未知なるものに出会い、そこから議論が始まっていく』フォーラムとしてのミュージアムが総合博物館なら形にできると思った。

 

 『市民とともにつくり続ける』ための仕組みが『とよはくパートナー』だ。現在、企業団体が87、個人が165人いる。個々のパートナーと何ができるか、何をしたいかを対等の関係で考えるもので、資金を集めるのが目的ではない。

 

 こうした博物館が美術館の隣にできたことで、中途半端に連携するというのではなく、お互いに個性を発揮し合いながら調和することができるのではないか」

 

 パートナーには、例えば開館初日に木遣りを披露した豊田木遣り保存連合会、山車を提供した大神明山車囃子保存会・挙母祭り保存会、合唱団、もちろんトヨタ自動車もいる。個人パートナーたちは、ガイドグループや資料を虫菌害から守る環境維持グループなどに所属して、博物館をつくる一員として活躍している。村田館長は、「豊田は車の街であることは事実だが、その前に人々の営みや自然があるということを市民や来場者に再認識してもらうのも博物館の役目だ」と締め括った。 (アートジャーナリスト・山下里加)

 

 

●豊田市博物館
[開館]2024年4月26日
[所在地]〒471-0034 豊田市小坂本町5-80
[構造]鉄筋コンクリート(一部木造)、地上4階、敷地面積:約40,100㎡、建築面積:約4,500㎡、延床面積:約7,800㎡
[施設概要]常設展示室(約650㎡)、展示室1(約550㎡)、展示室2(約230㎡)、セミナールーム(約250㎡)、体験室(約80㎡)、収蔵庫:約1,430㎡ など

 

*博物館準備プロジェクトの一環として2021年から自然標本あつめるプロジェクトをスタート。豊田市の自然環境を紹介する標本コレクションの完成を目指して、身近な存在である昆虫と岩石を対象に採集・標本化を行い、オープニング展で成果が展示された。


*10月に開館記念特別展『旅するジョウモンさん─5千年まえの落とし物─』、来年1月に特別展『和食─日本の自然、人々の知恵─』を予定。

 

●未完の始まり:未来のヴンダーカンマー
[主催・会場]豊田市美術館
[会期]2024年1月20日~5月6日
[出品作家]リゥ・チュアン、タウス・マハチェヴァ、ガブリエル・リコ、田村友一郎、ヤン・ヴォー

 

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