一般社団法人 地域創造

令和6年度公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)全体研修会報告

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左上:多田淳之介さんのワークショップ
右上:「ホールと地域の仲を取り持つ『おんかつ』」(大澤寅雄さん)
左下:登録アーティストプレゼンテーション(カメハ)
右下:登録アーティストプレゼンテーション(閑喜弦介さん)

 公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)では、実施館の担当者、コーディネーターや登録アーティストが一堂に会する全体研修会を実施しています。今年度は4月22日〜24日に開催、トッパンホールでは2年度目を迎えた2023・2024年度登録アーティスト7組11名による公開プレゼンテーションも行われました。

事例紹介で担当者の生の声にふれる

 研修初日は、定番となっている参加館の担当者に向けたワークショップでスタートしました。ファシリテーターは昨年に続き、地域創造のリージョナルシアター事業派遣アーティストで、おんかつコーディネーターでもある演出家の多田淳之介さんです。身体を使ったシアターゲームなどで交流を図った後、おんかつについての事業説明や事例紹介が行われました。
 事例紹介では、令和4年度におんかつ(派遣アーティストはソプラノの梅津碧さん)、令和5年度におんかつ支援(派遣アーティストはヴァイオリンの石上真由子さん)を実施した広島県の海田町教育委員会の田村恵里さんとコーディネーターの桜井しおりさんから報告が行われました。
 海田町では、老朽化した公民館を移転・新築し、体育館としても使用できる可動式ホール(503席)を有する「織田幹雄スクエア」を2020年に開館。同町で初めてとなるホールと新しい施設を町民に周知し、音楽に親しむきっかけにしたいと、おんかつに参加。当初から支援まで継続する予定だったそうです。
 事業当時、副担当だった田村さんは、おんかつは楽しいと前置きした上で、「そもそもスポーツ担当で、おんかつが“何を伝えるか”“どう考えてどう実施していくか”をしっかり落とし込んだ上で進めることが求められる難易度の高い事業という認識がありませんでした。誤解を恐れずに言うなら千本ノックを受けているような状態でした」と当時の主担当(野村さん)の言葉とともに振り返っていました。研修会を経て、若い世代に来場してもらうことを目的に、企業や事業所をアクティビティ先に組み込んで飛び込みで交渉。また、ホールの音響調整にも四苦八苦するなど、目の前の課題を一つひとつ乗り越えていったそうです。
 「全く違う世界の人だと感じていたアーティストも、一緒にコンサートをつくっていくパートナーだと思えるようになりました。失敗してもコーディネーターがフォローしてくれますし、担当者が一生懸命であれば周囲の人が応えてくれる。おんかつは反省の連続ですが、その反省を踏まえて次のステップに進めるよう継続することが重要だと思います」と、参加者にエールを送っていました。
 また、2日目にはおんかつアドバイザーの大澤寅雄さん(合同会社文化コモンズ研究所代表)によるレクチャーが行われ、地域創造が令和5年度に実施した「地域文化施設におけるアウトリーチ・ワークショップの成果や効果の検証と評価に関する調査研究」(*)を紹介しました。

 

*「地域文化施設におけるアウトリーチ・ワークショップの成果や効果の検証と評価に関する調査研究」(令和5年3月)
地域創造の事業「おんかつ」「ダン活」等に参加経験があり、長期的・継続的に地域の小中学校へのアウトリーチに取り組んできた調査協力館(6館)とアウトリーチ先の小中学校児童生徒、教職員へのアンケートなどを実施。
https://www.jafra.or.jp/library/report/

登録アーティスト2年目の公開プレゼン

 公開プレゼンテーションには6組10名の登録アーティストが出演し、各25分のショーイングを行いました。トップバッターは永野雅晴・仁美さん夫妻によるパーカッションデュオのカメハです。昨年度3地域でおんかつを行ったカメハは、氷見市で初めて挑戦した0歳からのコンサートに多くの子育て世代が来場して驚いたといったエピソードを交えながらタンバリンやトライアングルなど馴染みのある楽器の曲を披露。最後は、「アンサンブルの楽しさを伝えたくて、アウトリーチの最後に演奏している」というE.セジョルネの大曲『ハムシン(砂嵐の意)』(マリンバの両端にカスタネットを置き、白鍵側と黒鍵側から2人で演奏)で締めくくりました。
 神戸市出身の水谷桃子さん(ピアノ)は関西弁を交えて、ピアノの名手として知られるシューマンやショパン、リストの曲と古の奈良を題材にした『ムジカ・ナラ』を披露。モデトロ・サクソフォン・アンサンブル(サクソフォン四重奏)は手書きのカードなどを用いてメンバーの親しみやすさをアピール。昨年も芝居仕立ての「歌のレストラン」を披露した西村悟さん(テノール)は、幼稚園・保育園でのアウトリーチで実践したという視覚でも楽しめる工夫を加えたレストランを開店していました。
 作曲家、編曲家としても活動する閑喜弦介さん(ギター)は「参加といっても、楽譜が読めない、楽器が演奏できないなど、能動的に演奏することはほとんどない。現代音楽には図形譜という楽譜があり、音具を使ってこれを子どもたちと一緒に演奏したいと思っている」と、参加者を巻き込んだ実演で熱い思いを伝えていました。最後は今田篤さん(ピアノ)が締めくくり、自然体のトークを交えて、ラフマニノフ、シューベルトを披露し、『トルコ行進曲』をモーツァルト版、ジャズ風に編曲したファジル・サイ版、超絶技巧のアルカディ・ヴォロドス版で弾き比べ、ピアノの魅力を存分に伝えていました。
 
 最終日は今年度の参加館の担当者とコーディネーター7名でアウトリーチの企画を考えるグループディスカッションを実施。担当者は予め記入した「地域資源シート」(ホールと関係がある・関係を築けそうな要素を教育・福祉・歴史・文化・
食・観光・産業・その他の領域について整理するシート)を踏まえて、企画づくりに臨みました。
 今年度のおんかつ事業は秋から本格的に始まります。詳細は当財団ホームページやレターで発表しますので、ぜひ興味をもっていただければと思います。

令和6年度公共ホール音楽活性化事業全体研修会スケジュール

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2023・2024年度公共ホール音楽活性化事業登録アーティスト

  • 今田篤(ピアノ)
  • 水谷桃子(ピアノ)
  • 上田純子(ソプラノ)
  • 西村悟(テノール)
  • 閑喜弦介(ギター)
  • カメハ(パーカッションデュオ)
  • Modétro Saxophone Ensemble(モデトロ・サクソフォン・アンサンブル/サクソフォン四重奏)

令和6年度「公共ホール音楽活性化事業」参加団体一覧(全10団体)

  • 福島県西郷村
  • 長野県飯山市
  • 静岡県袋井市
  • 滋賀県長浜市
  • 兵庫県福崎町
  • 島根県安来市
  • 徳島県勝浦町
  • 高知県香南市
  • 熊本県荒尾市
  • 熊本県宇土市

公共ホール音楽活性化事業に関する問い合わせ

芸術環境部 日野・森永
Tel. 03-5573-4064

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