一般社団法人 地域創造

茨城県水戸市 水戸芸術館現代美術ギャラリー 須藤玲子:NUNOの布づくり

 ファッション領域だけでなく、大がかりなオブジェ作品などでも国際的に評価が高いテキスタイルデザイナーの須藤玲子さんと、彼女が主宰するテキスタイルデザイン集団「NUNO」の仕事を包括的に紹介する展覧会「須藤玲子:NUNOの布づくり」が水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催されている。本展は、香港のアートセンター、Center for Heritage, Arts and Textile(CHAT)が企画し、イギリスやスイス、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館に巡回。この度、須藤さんの出身地である茨城県での開催となった(*1)。

 

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上:NUNOが製品化してきた布のパッチワーク「幕 幔幕」と須藤さん/

中:ジャカード織機の仕組みを再現したインスタレーション/

下:《続・こいのぼりなう!》

 本展の見どころは、須藤さんの作品づくりを支える日本各地の染織工場とそこで働く職人に着目し、数々の魅力的な布が生まれる過程そのものをインスタレーションとして表現している点だ。会場は、作品の色見本でもある古裂のコレクションとNUNOが製品化してきた数百種の布のパッチワーク「幕 幔幕」から始まり、次室ではアイデアスケッチや試行錯誤中の糸、試作品、道具などをアイテムごとにパッケージした「マテリアルボックス」がずらりと並んだ。ボックスごとに解説書と実際に触れるタッチサンプルが添えられ、来場者は触感の違いや織りの多様性を指先で確かめられる仕掛けだ。
 メインの展示室では、複数の工場の様子を再現。熱で収縮する化学繊維の布に職人(なかにし染工/滋賀県)が手作業でプリントしている映像が投影され、その布がコンクリートブロック製のオーブンを通り抜けると独特の縮みのある布「ジェリーフィッシュ」として現れる。ジャカード織機の仕組みを再現したインスタレーションでは大量の糸巻きから色とりどりの糸が織機に集まり、多様なパターンで人気の布「カラープレート」となって織り上がっていく。別室では齋藤精一さん(パノラマティクス)が撮影した工場の映像が大画面で投影され、織機のリズミカルな音が響いていた。
 1980年代から全国の産地を尋ね歩いていた須藤さんは、「それぞれの染織産地が得意とする技術を、産地を越えて他所との連携に取り組むことが、新しい布づくりを行うことには特に必要」と語り、産地を越えた染織技術の継承に取り組んでいる。会場でも、NUNOが関わっている産地と工場を記した日本地図を展示。例えば、繭から生糸を取る際に捨てられていた部分である“きびそ”を活用したアイテム「きびそ」は、山形県鶴岡市をはじめとする7市10社が各々の専門技術を連結させることで、ようやく一枚の布になることが示されていた。須藤さんが蓄積してきた産地や職人の情報とユニークな提案が、全国の職人たちの挑戦心を刺激し、結びつけ、技術の継承と新しい生業を同時に生み出しているのだ。
 水戸でも地元の染色工場が協力している。会場では、多種多様な布製のこいのぼりの群れが宙を泳ぐインスタレーション作品《続・こいのぼりなう!》に、水戸藩で江戸時代に使われていた染色技法を復活させた「水戸黒」のこいのぼりが加わった。担当学芸員である後藤桜子さんは、「水戸黒を手がける大谷屋染工場は、当館と2015年の日比野克彦さんの街なかプロジェクト『Re MITO 100』から関わりがあり、今回の協力実現に繋がりました。地域の伝統産業を再評価し、市民に関心を持ち続けてもらうよう普及するのもアートセンターの役割だと考えています」という。また、中高生のボランティアが、須藤さんとの質疑応答を経て、クイズ形式で染めや織りの構造や仕組みが理解できるよう工夫を凝らしたワークシートを制作した。高校生ウィーク(*2)では、おもちゃの織り機で複雑なジャカード織を楽しめるコーナーを設けるなど、生活に身近な布を改めて見直す機会を創出していた。
 「日本の布づくりの現場は、国際的な価格競争、後継者難などで厳しい現実と戦っています。伝統の中で布づくり技を磨いてきた産地の魅力を、現代の生活に通じるものとして引き出し、商品化して、多くの人の目に触れるようにする。ものづくりの未来を少しでも明るいものにしたいと願っています」と須藤さん。
 地域に根ざした伝統産業とその技術への敬意と、改革の強い意志に満ちた展覧会であった。(アートジャーナリスト・山下里加)

 

●須藤玲子:NUNOの布づくり
[会期]2024年2月17日~5月6日
[主催]公益財団法人水戸市芸術振興財団
[会場]水戸芸術館 現代美術ギャラリー、広場

 

*1 須藤玲子が率いるNUNOの作品は、ニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館などに収蔵されている一方で、東京・六本木にある店舗兼アトリエでは、販売も行っている。建築家やホテルなどとのコラボレーションも多く、2005年にはマンダリンオリエンタル東京のすべてのインテリアファブリックを、2015年には大分県立美術館で光と布の大シャンデリアを手掛けた。

 

*2 高校生ウィークとは、水戸芸術館現代美術センターが年に1回、1カ月間行っている教育プログラム。1993年に高校生世代に現代美術や美術館に親しんでもらうための無料招待期間として始まった。現在では高校生世代とボランティアが自分たちでプログラムを作成・発信し、カフェ運営も行っている。

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