22年前にスタートし、ほぼ隔年で実施され、市民から“ささミュー”と親しまれている丹 波篠山市民ミュージカル。その第11回『ノートル=ダム・ド・パリ〜愛と宿命の物語〜』が市立田園交響ホールで上演された。ノートルダム大聖堂の下で繰り広げられるヴィクトル・ユゴーの小説『ノートル=ダム・ド・パリ』をオリジナル脚本でミュージカル化し、出演者71人をはじめ裏方や衣装、大道具・小道具、音響・照明など市民32人が参加。人口4万人弱の市でありながら4回公演の総入場者は2,891人と、過去最高を記録した。
原作は、大聖堂の鐘つき男カジモドと彼を育てた献身的な聖職者のフロロが流浪の民ロマの美しい踊り子エスメラルダと出会い、運命を狂わせていく愛憎劇。舞台には鐘楼を据えた 聖堂が聳え、15 世紀パリを彷彿とさせる手づくりコスチュームに身を包んだ市民が、モノローグ、独唱、合唱、群読、群舞など見せ場が連続する3時間のステージを全力疾走した。
今回で9回目となる演出・指導の松本昇三さん(*1)は、「初めてハッピーエンドではない作品に取り組んだ。市民創作は10年ぐらいで一区切りにする公立ホールが多いなか、長く続けている丹波篠山だからこその挑戦だった。次回作に向けて個人的に歌やダンスをスキルアップしてオーディションに臨む市民も多く、そうした 努力にどれだけ寄り添えるかが、良い作品づくりの秘訣だと思っている」と話す。
出演者は小学生以上を対象に毎回公募。今回は小中学生24人、高校生8人、大学生8人、 20〜30歳代11人、40歳代以上20人で、その4割強が初参加。第1回に出演した女性の娘がエスメラルダ役を射止め、前回の出演者が子どもを連れて参加するなど、2世出演者も多い。脚本・演助の勇来佳加さんは、「まるで家族のようなチームで、欠席者が出ても自分たちでどう変えればいいかを自主的に相談して稽古してい る 」と感慨深げだった。
稽古は9月にスタートし、1月に入ってからは ほぼ毎日、1月半ばからは本舞台にセットを組んで稽古。大阪拠点の松本さんたちは約80kmを通算80回以上往復した。松本さんだけでなく、作曲、舞台美術、照明などのプロスタッフ陣も継続して参加。こうしたチームづくりが可能だったのは、ホール側の職員体制が安定していたことが大きい。
前田園交響ホール館長で、現在はホール専門員として市民ミュージカルを含めた現場を牽引する小林純一さんは、開館した1988年から市職員として勤務し、音響技師でもある。「私の場合、異動がほとんどなかったので、音響もやりながらホールの業務全般をこなしてきた。 照明の技術職員もいたが定年退職し、今はステージオペレータークラブ(SOC)(*2)の市民ボランティアと職員でやりくりしている。職員数も少なく、市民に主体的に動いてもらわないと何もできない。私たちの役割はそういう環境をつくっていくことだと思っている。ささミューでは実行委員会を組織しているが、全員が裏方スタッフや出演者の実働を担う市民の方々。こうした市民が公演に向けて気分を高めていけるようにしている」と話し、自らも音響プランナーとして、毎回稽古に立ち合い、音出しをしてきた。
同ホールの代名詞ともなっているのがSOCだ。地域でのホール運営には舞台・照明・音響 の市民ボランティアが不可欠だとして、開館に 合わせて全国に先駆けて裏方ボランティア組 織を立ち上げ、今回の公演でも裏方を会員21人が担った。「現在、会員数は34人。開館当初 からのメンバーも活躍しているが、ささミューを続けることにより、若い人たちが裏方に興味をもつきっかけになってくれれば」と、19年に会長になった山内伸広さん(02年入会)は話す。
市民ミュージカルの成果のひとつが衣装制作のための市民チームが生まれたこと。今回は7人で200着を仕上げた。チラシには出演者全員の写真が掲載され、出演者が涙顔で客出しし、市民の仕切りで楽日を締める…。22年間の継続で出演者だけでも延べ600人強。社会 人劇団も4つでき、演劇やダンスの道に進んだ 人もいる。知り合いの誰かしらは市民ミュージカルに関わっているという市民文化活動の土 壌が、この地には育まれていた。 (田中健夫)
●丹波篠山市民ミュージカル第11弾『ノートル=ダム・ド・パリ~愛と宿命の物語~』
[主催]丹波篠山市民ミュージカル実行委員会、丹波篠山市、丹波篠山市教育委員会
[会期]2024年2月11日、12日(4ステージ)
[制作・会場]田園交響ホール
[演出]松本昇三
[脚本]勇来佳加
[作曲]河野良
[振付]Kayeon
[舞台美術]野崎みどり
[出演]公募市民(全員がダブルキャストで2ステージずつ出演)
●丹波篠山市立田園交響ホール 「ホロンピア’88北摂 ・丹波 の祭典」の中核施設として兵庫県が設置し、篠山町が運営するたんば田園交響ホールとして1988年4月に開館。2011年4月、兵庫県から篠山市に移譲。19年5月の市名変更 (篠山市→丹波篠山市)に伴い、丹波篠山市立田園交響ホールと改称。市の教育委員会が所管する直営ホール(800席)
*1 大阪の演劇集団パインコーン代表。 演出家として西成区民ミュージカルや泉佐野市ミュージカルなど市民参加型公演を多数手がける。丹波篠山市民ミュージカルには1回目から参加し、第4回、5回を除くすべてを演出・指導。
*2 開館年の1988年5月に設立された市民による裏方ボランティア組織(有償)。 ホール開催の「ステージオペレーター養成講座」を受講し、修了(40時間以上)した人のみが入会可。舞台部・照明部・音響部の3部に別れて、館主催事業や貸館事業の裏方業務、クラブ自主企画事業などを手がける。現在、舞台部11人、照明部11人、音響部12人。