ステージラボ岡山セッションが2023年9月にグランドオープンしたばかりの岡山芸術創造劇場ハレノワ(*1)で2月6日から9日まで開催されました。ハレノワは老朽化した岡山市民会館と市民文化ホールを統合・移転し、市中心部の再開発エリアに店舗・オフィス・住居から成る複合ビル内に整備された大規模文化施設です。
今回はホール入門コースと自主事業コースの2コースを開講し、ホール入門コースは多田淳之介さん(演出家、東京デスロック主宰)、自主事業コースはセレノグラフィカ(以下、セレノ)の隅地茉歩さんと阿比留修一さんがコーディネー ターを務めました。両コースとも共生社会を考える内容で、仲間との議論を通じて学ぶことの多い研修となりました。
街歩きからスタートしたホール入門コース
ハレノワが立地しているのは岡山城下の商人町で、芝居小屋や映画館、飲食店で賑わい、木下サーカスが創業したかつての一大歓楽街・千日前です。こうした歴史を聞きながら散策する街歩きでホール入門コースはスタートしました。
その後、多田さんによる演劇のワークショップで交流 。多田さんは、「舞台芸術には教えるワークショップと教えないワークショップがある。僕のワークショップは教えない、訓練しない、達成を目指さない、評価もしない。コミュニケーションについての気づきがどれだけあるかが重要」と丁寧に話しかけていまし た 。
2日目には、音楽と現代ダンスのワークショップを体験。また、演劇の制作者で上級ハラスメント対策アドバイザーの資格をもつ植松侑子さんからハラスメントの基礎についてレクチャーを受けました。「ハラスメントはリスペクトを欠いた言動が繰り返し執拗に行われることであり、私たち自身が日頃からお互いを尊敬しあう文化をどうつくっていくかが問われている」「心理的安全性のある職場、創造環境がいいパフォーマンスを生み出すために必要」「起こってから対処するのではなく、起こらないよう予防することが重要」などのアドバイスが行われました(*2)。
3日目には、障害のある人とのアートについて考えるゼミが行われました。講師はたんぽぽの家アートセンターHANA副施設長の佐藤拓道さんです。奈良を拠点とするたんぽぽの家には、身体障害、知的障害、精神障害など20〜70歳のさまざまなメンバーが所属。アートとケアの観点からアートや演劇など多彩な取り組みを行っており、2004年にはアートセンターHANA、16年には障害のある人と共にクリエーターや企業等が商品や仕事を開発するGood Job! Center香芝を開設しています。佐藤さんは、「“人生の選択肢”を増やすことを大切にしている。一般に問題行動とされることでも、メンバーの興味を大切にして、作品として展示もしている。展示に至るまでには5 年、10 年という時間も必要。障害のある人たちとの演劇HANA PLAYでは、毎週1回、10人ほどのメンバーが集まり、息をパスするワークや食事介助をスローモーションで再現するワークなどを行い、彼らの視点に立ち、彼らが楽しんでできることを見つけて、障害のある人の目線を大切にしたパフォーマンスの創作をしている」と話していました。
“寄り添う”をテーマにした自主事業コース
自主事業コースはセレノらしい親身なコーディネートが光るプログラムとなりました。講師はセレノがイメージに合わせて選曲した入場曲で登場。企画づくりのグループワークでは受講生が感じた「わくわく」「もじもじ」という主観的・身体的な言葉で感想を出しあうなど、共感を育みたいという思いが伝わってきました。
2日目は鈴木ユキオさんとセレノによるダンスワークショップで汗を流し、3日目は支援が必要な人に対するアートの役割についてみんなで考えました。講師となったのは、二葉むさしが丘学園自立支援コーディネーター(*3)の鈴木章浩さんと京都若者サポートステーション(*4)相談支援員の持明院由子さんです。 鈴木さんは児童養護施設で2019年からセレノと継続してきたワークショップについて紹介し、「芸術体験には、他者との共感、自己肯定感、他者への信頼感といった、社会で生きていく上で欠かせないことを獲得する機会がたくさんある。自立とはこうした公共性を獲得することだと思う」と指摘していました。 東山青少年活動センターと連携し、「じぶんみがきダンス」を行ってきた持明院さんは、「どんな仕事でも一人ではできないのでコミュニケーションは不可欠。評価が下されない場で誰かと何かをする、相手の表現を否定せずに受け取るというダンスのワークで他者との関係ができ、 話すことの苦手な人も安心感を抱いていて、コミュニケーションが、話すことだけではないという気づきがあった」と振り返っていました。
隅地さんは、「アートを求めている現場の人を講師に招いて、それにどう対応していくかを一緒に考えたいと思った。対象について語るのではなく、対象の傍らで語る(スピーク・ニアバイ)、寄り添うことが劇場にもっと求められる時代になった。一緒に笑って、泣いて、喜べる劇場であれればいいなと思っている」と話していました。
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共通プログラムでも社会課題を踏まえ、「老いと演劇」をテーマに岡山を拠点に活動するOiBokkeShiの菅原直樹さん(劇作家、演出家、俳優、介護福祉士)によるレクチャーとワークショップが行われました。
次回のステージラボは、7月に八戸ポータルミュージアムはっち・八戸市美術館を会場に開催される予定です。奮ってご参加ください。
●コースコーディネーター
◎ホール入門コース
多田淳之介(演出家、東京デスロック主宰)
◎自主事業コース
セレノグラフィカ:隅地茉歩(振付家、ダンサー)、阿比留修一(ダンサー)
●ステージラボに関する問い合わせ
芸術環境部 研修担当
Tel. 03-5573-4183
*1大(1,753席)、中(807席)、小(最大300席)劇場のほか、アートサロン(平土間/300席)、練習室、ギャラリー等を備えた市民文化活動と文化芸術の創造発信のための大規模文化施設。
*2 地域創造レター2023年7月号「今月のレポート」参照。
*3入所している子どもたちの自立支援やアフターケアーを行う専門職。
*4 地域若者サポートステーション(通称:サポステ)は働くことに悩みを抱えている15〜49歳までを対象に就労に向けた支援を行う機関。厚生労働省が委託した全国の民間団体などが運営。全国117カ所