一般社団法人 地域創造

岐阜県岐阜市 サラマンカホール プロデュース・オペラ モーツァルト作曲 『魔笛』

 岐阜県が1994年に開設し、30周年を目前に したサラマンカホールでプロデュースオペラ『魔笛』が12月8日、9日に上演された。同ホールは重厚なパイプオルガンを備えた708席のシューボックス型で、2012年にオペラ事業をスタート。今回は19年から同事業でコンビを組んでいる倉知竜也さん(編曲・指揮)、乃村健一さん(演出・美術)により、オルガン、ピアノとシンセサイザーの編成で上演された。

 

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写真提供:サラマンカホール

 『魔笛』は、王子タミーノと道化役のパパゲーノが悪者ザラストロにさらわれた夜の女王の娘パミーナを救出するため神殿に向かい(実はザラストロは祭司で夜の女王の横暴から匿っていた)、魔法の笛と鈴に助けられながら二人がパミーナとパパゲーナという恋人を得る歌芝居。 パイプオルガンを神殿に見立て、手前にキャスター付きの移動壁を設置して出入口をつくり、 照明にも凝るなどシューボックス型ホールとは思えない仕込みで魔笛の世界を表現していた。

 出演者は総勢約60名(主要3役以外はオーディション)で、ホール専属の少年少女合唱団も参加。歌はドイツ語で字幕付き、セリフは親しみやすい意訳の日本語で、笑いを誘いながら筋が理解できる子どもも楽しめる演出になっていた。 冒頭の序曲の和音がパイプオルガンで厳かに響き、魔笛のフルートは高音部のパイプで表現。 パパゲーノは客席から歌いながら登場し、夜の女王がお馴染みのアリアをバルコニーで熱唱するなど、編曲と演出の妙を感じた舞台だった。

 サラマンカホールは12年からふれあいファシリティズが指定管理者となり、音大ピアノ科卒で海外経験が豊富な嘉根礼子さんが支配人に 就任。すぐに少年少女合唱団を立ち上げ、「子どものためのオペラ」(19年からプロデュースオペラに名称変更)、0歳からのコンサート、子ども音楽塾、パイプオルガンを楽しむ各種講座、 ワンコインで音楽を楽しむシリーズ、朗読と音楽シリーズなどの普及事業に次々と着手。また、地元ゆかりの新進演奏家を起用したオーソドックスなコンサートから日本の古典シリーズまで、県唯一の音楽専用ホールとして幅広い事業を展開してきた。

 嘉根さんは、「ドイツで暮らしていた時に家族でオペラ鑑賞に出かけるドキドキ感を経験した。 子どもたちにサラマンカでオペラデビューをしてもらいたいと思って事業を始めた。オペラは音に言葉が乗ることで響きが生まれるので原語で歌うことにはこだわっている。“子どものため” だけではなく“大人”も満足できる作品づくりを目指して名称を変えたが、子どもに聴いてもらいたいという原点は変わっていない。岐阜県には音楽を専門とする大学がないので、ホールが音楽芸術を発信する核となって、若手音楽家の育成を担う責務があると思っている」と振り返る。

 今回は4月にオーディション(応募総数81人)し、約3カ月にわたって週3回の稽古をサラマンカホールで実施した。倉知さんは、「ホームグラウンドがあり、最初からホールの響きで創り上げていけるのはとても恵まれている。原曲の楽器を重視してパイプオルガンの個性も考慮しながら現場で試行錯誤して編曲を完成させた。 原曲と音色が異なるため歌手も慣れる必要があるが、実際のホールなら細かいニュアンスを体感しながら音をつくれる。また、練習動画を関係者がユーチューブで共有し、パイプオルガンの響きとの交わりを復習できるようにした。 ホールで練習できる事を聞き、遠方からもオーディションに来て人材が揃った」と話す。

 『魔笛』のチケット代は大人2,000円。他の事業でも低価格を標榜し、大阪フィルハーモニー管弦楽団定期公演の公開リハーサルは無料招待、ピアニストの公開レッスンも無料聴講できる。2019年に愛好家から寄贈された40挺の弦楽器を無償で若い音楽家に貸与するプロジェクトSTROANもスタートした。「祖母に連れられてホールに来場していた子が小学生の時から才能を見せてサラマンカでも弾くようになり、22年に世界的な国際ピアノコンクールで優勝した。 演奏に訪れる内外の一流演奏家が録音地に選ぶほど音響の良いホールは私たちの誇り。それを感受性豊かな子どもたちや市民に伝えていきたい」という嘉根さんやスタッフの真摯な思いがここには満ちていた。

 

●サラマンカホール・プロデュース・オペ ラ モーツァルト作曲『魔笛』

[制作・主催]サラマンカホール

[会期]2023年12月8日、9日

[指揮・編曲]倉知竜也

[演出・美術]乃村健一

 

●サラマンカホール

1994年4月に岐阜県が県内初の音楽専用ホールとして岐阜県県民ふれあい会館内に開設。当時の梶原拓知事の「他にないものを」とのリーダーシップにより、県内にアトリエを構えていた世界的オルガン建造家・辻宏が製作したパイプ数2,997本の荘厳なパイプオルガンを備え、世界的照明デザイナー・石井幹子が製作したシャンデリアの輝くサラマンカホールが誕 生(ホール名は、辻がスペインのサラマンカ大聖堂のパイプオルガンを修復したことに由来)。2012年からふれあいファシリティズ(ハヤックスとB-DOOコミュニケーションズのJV)がふれあい会館・サラマンカホールの指定管理者として運営し、 嘉根礼子さんがホール支配人に就任。以来、活発な活動を展開している。

プロデュースオペラは、『アマールと夜の訪問者たち』(2012年)、『不思議の国のアリス』(室内楽版14年、新演出版21年)、『ヘンゼルとグレーテル』(ピアノ版15年)、 『魔笛』(短縮版16年、全編版23年)、『森は生きている』(17年)、『セロ弾きのゴーシュ』(18年)、『子どもと魔法』(19年)、『サンドリヨン』(22年)を制作。

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