一般社団法人 地域創造

令和5年度「市町村立美術館活性化事業」スタート

p2.jpg
写真左上:展覧会会場の様子(はつかいち美術ギャラリー) 右上:「二胡ギャラリーコンサート」(四日市市文化会館) 左下:《リキシャ》ラジ・クマール・ダス(絵)、ガッファール工房(車体製作)(四日市市文化会館) 右下:エントランスの様子 《最良のものはすでにある》ブー・ホァ(卜樺)(はつかいち美術ギャラリー)

「うるおうアジア─近代アジアの芸術、その多様性─」展を開催

 「市町村立美術館活性化事業(市美活)」の23回目となる巡回展「うるおうアジア─近代アジアの芸術、その多様性─」が、全国を巡回中です。本展は、福岡アジア美術館のコレクションの中からアジアの近代美術の作品を中心にご紹介しています。5月にはつかいち美術ギャラリーで開幕し、四日市市文化会館へ巡回、現在は上田市立美術館にて開催中です。また、上田市立美術館の後は、小金井市立はけの森美術館へ巡回します。

 今回は、展覧会内容がどのように検討されていったのか、「企画検討会議」の様子と併せ て、展覧会の内容、はつかいち美術ギャラリーと四日市市文化会館で開催された地域交流プログラムをご紹介します。

展覧会内容が決まるまで(企画検討会議の様子)

 これまで市美活では、絵画、彫刻、工芸、写真などさまざまなジャンルでの展覧会を実施してきましたが、アジア美術の展覧会は初めての試みでした。

 西洋美術と比べるとアジアの美術は、なかなか鑑賞の機会も少ないため、1回目の会議ではアドバイザーである福岡アジア美術館(以下、「あじび」)のラワンチャイクン寿子学芸員から、コレクションの概要や、成り立ち等をレクチャーしてもらいました。

 あじびは、アジアの近現代の美術作品を系統的に収集し展示する世界に唯一の美術館で、アジア23カ国・地域の、多様なジャンルの作品を網羅する約4,500点(2022年現在)を収蔵しています。コレクションの中に、「美術家」以外の人々による大衆芸術や民俗芸術、民族芸術も含まれていることが特徴のひとつです。

 レクチャー後は、各館の参加の動機や、展覧会の希望を話し合いました。小金井市立はけの森美術館から、顕彰している画家・中村研一がアジア各地に渡っていることから、近代のアジア美術に触れる内容を入れたいという希望や、はつかいち美術ギャラリーと四日市市文化会館からは、地域の中でアジアにルーツをもつ外国籍住民も多いので、多文化共生について考えられる機会にしたいという意見がありました。

 市美活に参加する美術館は全国からの応募で決まるため、初対面同士のことも多く、その状態から展覧会をつくり上げていくことになります。それぞれの館の希望をまとめ上げる困難さに加え、今回は各館の展示スペースの広さに大きな差があるというハードルもありまし た。ZOOM会議や、各参加館での会議にて、課題を一つずつ検討し、今回の巡回展では、いわゆる「近代美術」と大衆芸術などの「周縁の芸術」とも呼べるポスター、輸出用絵画などの作品群をシームレスに展示することで美術の概念や価値観などに対する多様な視点と奥深さを提示するという方向性に決まりました。

大衆芸術から近代美術まで多様な美術を紹介

 本展は「洋風表現の登場 西洋との交易によって」「民衆に愛されるアート ポスターとトラフィック・アート」「『近代美術』と呼ばれるもの」 の3章構成で、中国やインドなどの15の国と地域の近代作品を中心とした約70点の作品を出展しています。日常に密接した商業ポスターや、輸出用につくられた中国やインドの絵画の作品群に加え、近代の美術作品として、フランス式の近代美術が流入して生まれたベトナムのグエン・ファン・チャンの絹絵や、横浜出身ながらインドネシアで写真館を営みながら油彩画家として活動したモリ・キンセン(森錦線)の作品、彫刻や写真作品も展示されています。

 出展作品の中で、華やかさと大きさでひときわ目を引くのがバングラデシュのリキシャです。日本の人力車がルーツのリキシャは、現在もバングラデシュの首都ダッカで主要な交通 手段となっているそうです。リキシャは、厳密に言うと現代の作品という分類になりますが、「ぜひ市民の方々に見てもらいたい!」という参加館学芸員の強い思いで展示することになりました。専門の職人がビニールシートなどで装飾したリキシャの車体本体とともに、後背部に取り付けられるブリキのプレートの絵画も出品されています。

 はつかいち美術ギャラリーで本展を鑑賞された方からは、「なかなか見る機会が少ないアジア美術なので初めてみた」という声や、「インド、中国、バングラデシュ、各々の国の庶民の美術が生き生きとしている」と感想をいただきました。

アジアの文化を取り入れた地域交流プログラム

 また、会期中に開催された地域交流プログラムは、食や音楽等、美術だけではなくアジア の文化を広く紹介するバラエティ豊かな企画です。

 はつかいち美術ギャラリーでは、本場中国の茶葉でジャスミン茶を味わうイベントや、展示室内の作品に囲まれた中でアジアの昔話を聞く「夕暮れギャラリートーク&アジアの昔話の語り」(はつかいち市民図書館協力)などが開催されました。

 四日市市文化会館では、地元三重の出身で 楽器史家・ピアノ調律師の木村チェンバ郎さんによる「アジアの絵画から観た音楽と楽器」をテーマとしたセミナーのほか、ギャラリーコンサートとして、中国の民族楽器である二胡の演奏や、新日本フィルハーモニー交響楽団に、アジアや本展をテーマに選曲してもらったオリジナルのプログラムによるコンサートも開催されました。

 

 現在開催中の上田市立美術館での展覧会は11月19日まで。その後、小金井市立はけの森美術館へと巡回し、12月2日~2024年1月28日まで開催されます。ぜひお近くの会場へ足をお運びください。

 また、令和6・7年度市町村立美術館活性化事業「北海道立釧路芸術館所蔵 水からはじまるアート」展の参加館を現在募集しています(11月30日締切)。「水からはじまるアート」と題した本展では、「水」をテーマに、北海道立釧路芸術館のコレクションの中から展覧会を開催します。ご応募をお待ちしています。

 

 

●令和4・5年度市町村立美術館活性化 事業 第23回共同巡回展 福岡アジア 美術館蔵「うるおうアジア─近代アジアの芸術、その多様性─」

•はつかいち美術ギャラリー(広島県廿日市市) 5月12日~6月25日

•四日市市文化会館(三重県四日市市) 7月8日~9月3日

•上田市立美術館(長野県上田市) 9月16日~11月19日

•小金井市立はけの森美術館(東京都小 金井市) 12月2日~2024年1月28日

[主催]第23回共同巡回展実行委員会、 各開催館ほか

[特別協力]福岡アジア美術館

[アドバイザー]

ラワンチャイクン寿子(福岡アジア美術館学芸員)

柏尾沙織(福岡アジア美術館資料管理)

市町村立美術館活性化事業に関する問い合わせ

総務部 三田・管藤

Tel. 03-5573-4184

カテゴリー