一般社団法人 地域創造

山形県東根市 まなびあテラス 「黒須和清 切り起こしペーパークラフト展」 「黒木あるじとひがしね百物語」

 多世代が利用する図書館を核にした交流型の複合文化施設を整備する動きが広がってい る。そのひとつが東根市公益文化施設「まなびあテラス」だ。山形新幹線さくらんぼ東根駅から徒歩10分。市中心部に位置し、県内初の貸出・返却の自動化を実現した図書館や年4回の企画展を催す美術館、登録活動団体の紹介や講座などを実施する市民活動支援センターから成り、人口約4万8,000人ながら今年3月には総来館者数が170万人を突破した。

 20年間の施設運営も含めたPFIにより整備され(*1)、特別目的会社の構成企業である(株)図書館流通センター(TRC)が3つの施設の事業と運営を担当。全国582館(*2)の公立図書館の管理運営を受託するTRCにとっても、美術館や市民活動支援も含めた包括運営は初のケースだ。類似施設を構想する自治体の議員や職員の視察が絶えない同施設を取材した。

 

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まなびあテラス
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黒木あるじとひがしね百物語第八夜「お とむらいのカタチ」(8月12日)

 「これまで美術館がなく、図書館も新幹線駅舎併設で小規模でしたので、まなびあテラスには大きな期待がありました。私たちもより多くの市民に来ていただこうと、開館前からプレ事業を展開し、市や市民団体から提案されたさまざまな連携企画を積極的に実現しました。青年会議所の提案で、男女100人が参加する婚活パー ティを図書館で開いたこともあります。その結果、『ここには何か面白いことがある』という認識が定着してきたと感じています」。そう語るのは、他県の美術館等での経験を経て施設の全体統括と美術館チーフを兼務する松葉里江子さんだ(山形県出身)。

 指定管理者制度では5年契約というのが一般的だが、まなびあテラスの契約期間は20年。 TRCでは5年4期に分け、1期目は多彩な活動による市民参加の推進、2期目は市民活動を進め新たな活動への意識の醸成、3期目は市民リーダーの育成、そして4期目は文化や地域活動の担い手が自立し、ネットワーク化が進展することを目標として掲げている。

 取材に訪れたとき、美術館では「黒須和清 切り起こしペーパークラフト展」(7月29日~10月1日)が開催されていた。市民にも身近な一枚の紙を素材に、切り込みを入れ、その部分を起こして折るなどし、立体的な紙の彫刻をつくる ペーパークラフト作家・黒須和清の作品約150点を展示。毎年、美術館では、こうした作家展とともに、その作家を招聘して市民とワークショップなどで協働制作を行うアートプロジェクトを展開している。今回は、黒須が市内の保育施設の保育士や職員を対象にワークショップを行い、そのノウハウを園に持ち帰って園児たちとペーパークラフトを制作。12月にはまなびあテラスで成果展示する予定だ。

 講座室では、市民活動支援センター主催の「黒木あるじとひがしね百物語 第八夜『おとむらいのカタチ』」が催されていた。地域の歴史や伝承を発掘・再評価することを目的として2019 年にスタートした企画で、市民が楽しく参加できるよう“怪談”という切り口で山形在住の人気怪談作家・黒木あるじをキャスティング。図書館入口に「ふしぎポスト」を設置し、市民の体験談を集めたり、地元に伝わる怪談や歴史の紹介、 怪談話の朗読やトークを行っている。最終的には書籍化やギャラリー展示もできる郷土コンテ ンツづくりを目指しているとか。

 運営体制は館長を含め20人。統括マネジメント部門の下に図書館・美術館・市民活動支援センターの3部門を置き、全員がマルチタスクで業務を担当。横断的なプロジェクトチームを組織して事業にあたることも多いという。美術 館運営については外部専門家の芸術監督と、巡回展などを企画する企業のプロデューサー が企画づくりや学芸員の人材育成に協力。また、開館前からサポーターズクラブ(*3)を立ち上げるなど、市民に気軽に運営に参加してもらう仕組みもつくってきた。現在の森谷功2代目館長はサポーターズクラブ初期メンバーの東根市民だ。「『きれいな施設ですね』との言葉をいただくことが多いですが、市民の皆さんに使いこなしてもらえる施設をつくり、新しいことをこれからもどんどんやっていきたい」と笑う。交流型複合文化施設はいまだ進化中で、その可能性を感じさせる取材だった。

(田中健夫)

 

●東根市公益文化施設まなびあテラス

[所在地]〒999-3730 山形県東根市中 央南1-7-3

[開館]2016年11月3日

[所管]市教育委員会生涯学習課

[施設概要]東根市図書館(収蔵能力20 万冊:開架10万冊、閉架10万冊、現在16万冊)、東根市美術館(市民ギャラリー:約400m2 、特別展示室:約200m2 、アトリエ)、東根市市民活動支援センター(情報ラウンジ、プリント工房、講座室)、まなびあ公園(9,703m2)、カフェ ほか

 

*1 まなびあテラスのPFI活用

東根市では4例目のPFI事業。2014年 に公募で選定された事業グループが特別目的会社「株式会社メディアゲートひがしね」を設立。 構成企業:鹿島建設(代表企業)、NECキ ャピタルソリューション、図書館流通センタ ー、三菱電機ビルソリューションズ、山形 ビルサービス 設計担当協力企業:山下設計東北支社 事業期間:2014年9月24日~36年10月31日

 

*2 2023年8月現在。

 

*3 まなびあテラスサポーターズクラブ「一般」「ティーンズ(中高生)」「ジュニア (小学生)」で毎年募集。現在、一般約70 人、ティーンズ約30人。LINEで毎月の仕事を発信し、興味のあるものに参加登録するアラカルト方式。

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