一般社団法人 地域創造

大阪府能勢町 淨るりシアター開館30周年 能勢人形浄瑠璃デビュー25周年 鹿角座公演

 大阪府能勢町の町営ホール「淨るりシアター」がこの6月に開館30周年を迎えた。5周年の1998年には、江戸時代から能勢の人々に楽しみに語られてきた素浄瑠璃に、三人遣いの人形を加えた「ザ・能勢人形浄瑠璃」がデビュ ー。以来6月を「能勢浄るり月間」として人形浄瑠璃を披露してきた。記念すべき今年は24・ 25日に男女のカップルで舞うオリジナル演目『能勢三番叟』、『伊達娘恋緋鹿子火の見櫓の段』、初上演となる『傾城恋飛脚新口村の段』が披露された。

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口上を務めるお浄&るりりん
(左から、る りりん、上森町長、岡本座長、お浄)
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公演の様子(『能勢三番叟』)
写真提供:淨るりシアター

 24日正午前、「大入」の幟に迎えられて入り口を入ると、人の多さに驚いた。平土間の小ホールにはシアターグッズや地場産品が並ぶ売店やカフェを設置。鹿角座座員の子どもたちが開場を告げる太鼓を打ち、黒衣姿で男女の三番叟を遣いながら現れた。

 淨るりシアターでは開館当初から子どもの体験学習に力を入れてきた。鑑賞事業として「中学卒業までに3回、劇場に来て人形浄瑠璃を見る。チケットもつくり、モギリもして、劇場で見る体験にこだわった」と松田正弘館長は言う。6年生は全員が『能勢三番叟』を学ぶ。夏休み前から稽古を行い、11月の発表会では太夫、三味線、人形遣い、囃子も司会もすべて子どもたちが担う。

 並行して後継者育成のための「人形浄瑠璃ワークショップ」も開いてきた。太夫、三味線、人形遣いの指導は子どもも大人も文楽座、囃子は望月太明蔵社中が担った。鹿角座の太夫や人形遣いも子どもを指導する。岡本勲座長は 「子どもたちは受験や塾通いがあり、継続するのは大変」と言うが、65人の座員の3分の1を小中高生が占め、『伊達娘恋緋鹿子』では大人と並んで人形遣い、太夫、三味線を勤めた。今では太夫名を持つ者も生まれている。

 こうした人材育成だけでなく、人形浄瑠璃を普及するさまざまな手を打ってきたが、その最新のチャレンジが高校生の太夫と三味線弾きを美少女風キャクターにした「お浄&るりりん」 の制作だ。2014年に能勢の人形浄瑠璃をテーマに全国公募し、町内の小中学生と町民が最終候補3作から選んだ。町花のササユリやシカの角を髪に飾るお浄&るりりんは15年には町公認キャラクターになり、18年には徳島県の人形師・甘利洋一郎さんが首をつくり、人形として舞台に登場。今回も上森一成町長、岡本座長と共に口上を務めるなど大活躍だった。

 こうしたチャレンジができるのも、大内祥子初代館長時代から変わらず貫いてきた「200年後に古典と言われる能勢の人形浄瑠璃をつくっていく」という信条があるからだろう。素浄瑠璃の伝統を残すためにはビジュアルが不可欠だとオリジナルの人形による人形浄瑠璃をつくり、能勢を題材にした新作にも力を入れ、人形遣いや囃子を育てて劇団化し、美少女キャラクターの人形もつくった。「みんながワクワクすることを提供したい。今できることをしているだけ」と松田さんは笑うが、200年後にはこれが古典になっているかもしれない。

 一方で、鹿角座は25周年の節目として、能勢の素浄瑠璃の人気演目である『新口村』の初上演に挑戦した。これまで太夫と三味線でつくる能勢町郷土芸能保存会がこの演目を人形と上演する時には、徳島県から勝浦座を招いていたのだが、鹿角座のレパートリーになれば保存会に協力できるようになるかもしれない。

 当初は素浄瑠璃こそ能勢の伝統と信じる太夫の中には鹿角座に反対する人もいるなど、能勢人形浄瑠璃の誕生には逆風もあった。しかし、世代交代もあり、「5、6年前から見ると、保存会と鹿角座が近くなって来たと感じる」と岡本座長。今回の『新口村』の上演でもっと交流が進めばと期待する。

 能勢町の人口は2023年5月1日現在9,185人。 人形浄瑠璃がデビューした年から6,000人近く減少した。少子高齢化と都市への人口流出に直面し、伝来の文化をいかに継承するか。全国の自治体や保存団体が抱える共通の課題だ。 独自の素浄瑠璃文化を、時代に合わせて変化・ 発展させてきた淨るりシアターの果敢な挑戦がヒントになるかもしれない。

(ジャーナリスト・奈良部和美)

 

●2023年6月能勢淨るり月間「能勢人形浄瑠璃鹿角座公演」

[主催]能勢人形浄瑠璃実行委員会、能勢町、能勢町教育委員会、能勢人形浄瑠璃鹿角座

[会期]2023年6月24日、25日

[会場]淨るりシアター

[監修]吉田簑助

[芸術監督・演出]桐竹勘十郎

 

●能勢人形浄瑠璃の歩み

江戸時代中期に大坂で流行していた浄瑠璃が能勢に伝わり、太棹三味線と太夫の語りによる“素浄瑠璃”が人々の楽しみとして定着。3派が200年にわたって伝統を継承(2001年に新たな派が誕生し、現在は4派)。特徴は“おやじ”制度(会派同人の賛同を得た浄瑠璃好きが弟子を5、6人養成して一代限りの“おやじ(師匠)”となる)と呼ばれる独特の継承システム。1993年に大阪府無形民俗文化財に指定され、99年には国の「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択された。93年に開館した淨るりシアターでは、この伝統の素浄瑠璃を地域の財産として守り、育てていくため、文楽座の指導により人材育成を行い、オリジナル人形を加えた「ザ・能勢人形浄瑠璃」をプロデュースし、98年にデビュー公演を実施。2006年には人形浄瑠璃劇団「鹿角座」を旗揚げし、毎年6月に定期公演を実施。

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