<地域創造フェスティバルの様子>左上:シンポジウム「変化する地域と越境する文化の役割~地域と文化芸術をつなげるコーディネーター~」 右上:おんかつ支援プレゼンテーション 浜まゆみさん(マリンバ) 左下:ダン活プレゼンテーション 浅井信好さん 右下:おんかつ支援プレゼンテーション 中野翔太さん(ピアノ)と田中拓也さん(サクソフォン)
感染症対策を行い、3年ぶりの通常開催実現
多くのアーティストと公共ホール職員の交流の場となっている地域創造フェスティバル。2020年度は中止を余儀なくされ、昨年度は一部オンラインにし、通常は同時開催していた「公共ホール現代ダンス活性化事業(ダン活)」の登録アーティスト・プレゼンテーションを10月に分散開催するなど縮小。今年度は7月26日、27日に東京芸術劇場を会場に、都道府県・政令指定都市文化行政担当課長会議も含めて3年ぶりの通常開催が実現しました。予定の変更等もありましたが、登壇者や出演者にはPCR検査など感染症対策にご協力いただくなど、ご理解をいただきました皆様に心よりお礼申し上げます。
「コーディネーター」をテーマにシンポジウム
昨年度は企画が見送られたシンポジウムですが、今回は最新の調査研究報告書「地域と文化芸術をつなげるコーディネーター インタビューによる事例調査報告書『変化する地域と越境する文化の役割』」を踏まえた議論が行われました。当初は調査研究のアドバイザー・事例調査対象者の4名がパネリストとして登壇する予定でしたが叶わず、急遽、メンバーを変更するとともに、欠席となったアドバイザーが資料を交えた映像でプレゼンテーションするなど、臨機応変に対応した上で実施にこぎつけました。
東日本大震災以降、文化芸術がどのような役割を果たせるかが改めて問われ、地域創造でも4カ年にわたって調査研究が行われました(*1)。その中で提言されたのが「文化的コモンズ」(*2)と、それを形成するためにいろいろな人・団体と繋がり、地域と文化芸術の繋ぎ手となるコーディネーターの必要性です。それを受けた今回の調査では、コーディネーターの活動を具体的に紹介し、人材のあり方について考察するため、6組7名のコーディネーターおよび関係者へのヒアリングが行われました(*3)(報告書はHPからダウンロード可能)。
ヒアリング対象は、市民協働がキーワードのいわき芸術文化交流館アリオスの長野隆人さん、住居を開放してセミパブリックな機能をもたせる「住み開き」で知られるアサダワタルさん、横浜市と組んで教育普及事業のプラットフォームを運営しているNPO法人STスポット横浜の小川智紀さんと田中真実さん、長野県上田市で犀の角というゲストハウスのある民間小劇場を運営する一般社団法人シアター&アーツうえだの荒井洋文さん、信州アーツカウンシルのゼネラルコーディネーターを務める野村政之さん、住民の自治能力向上が公民館のミッションという那覇市若狭公民館館長の宮城潤さんと、立場もコーディネートの内容も異なる多彩さでした(事例については次号レターで紹介)。
シンポジウムでは、まず、ニッセイ基礎研究所研究理事の吉本光宏さんがこうした調査研究の経緯や今回の論点について説明。「地域社会の課題が複雑化し、行政施策にほころびが生じて対応が求められている。そうした状況に対し、文化芸術には人々に気付きを与えて行動を促し、変化をもたらすポテンシャルがある。コーディネーターのあり方だけではとらえ切れない内容となったため、“変化に対応するための75の糸口”として整理した」と報告しました。対話し、寄り添い、ゆるいマネージメントで関わるのりしろを広げ、役割をDIYし、アーティストの力を借りて人を勇気づけるそのあり方に大いに刺激を受けたシンポジウムでした。
*1 「災後における地域の公立文化施設の役割に関する調査研究」(平成24・25年度)、「地域における文化・芸術活動を担う人材の育成等に関する調査研究─文化的コモンズが、新時代の地域を創造する─」(平成26・27年度)
*2 「文化的コモンズ」とは地域の共同体の誰もが自由に参加できる入会地のような文化的営みの総体のこと。文化芸術には地域の活力を創出する力があるが、そのためにはこうした文化的コモンズの形成が必要であり、公立文化施設もその中のひとつとして積極的な役割を果たすことが求められる。
*3 「地域と文化芸術をつなげるコーディネーター インタビューによる事例調査報告書『変化する地域と越境する文化の役割』」
https://www.jafra.or.jp/library/report/2021/index.html
おんかつ支援とダン活のアーティスト計54組が実演
フェスティバル恒例の登録アーティストプレゼンテーション。ダン活では、バレエ学校卒業後、コンテンポラリーダンスの活動を始めた大島匡史朗さん(福岡拠点)、イスラエルのダンスカンパニーに所属した経験のある井田亜彩実さん(長野・東京拠点)、舞踏出身でこれまで35カ国150都市以上で公演した経験をもつ浅井信好さん(愛知拠点)の新登録アーティスト3人を含む6人が登場。大島さんが言葉を使った身体遊びのワークショップ体験とパフォーマンスを披露するなど、新アーティストもそれぞれの個性を活かしてアピールしました。
48組が出演したおんかつでは、昨年同様アクリル板を挟んでプレゼンテーションが行われました。当日は急遽、自宅からリモートで参加した演奏家もいて、図らずもモニター越しのリモート演奏とリアル演奏によるアンサンブルに挑戦することになりましたが、音響調整の難しさを克服して大成功し、得がたい体験となりました。
また、「ピアノはお菓子から妖精、人間の感情までさまざまなものを表現している」と言い、それを旅するように演奏した實川風さん、太鼓やウクレレなど他の楽器をヴァイオリンで表現した曲をプログラムした石上真由子さん、「自分たちが暮らしている環境について考えたい」と星をテーマにピアノを暗闇で演奏したり、戦火を逃れたショパンの曲をプログラムした高橋ドレミさん、演奏を分解してカルテットの役割をわかりやすく伝えたアーバンサクソフォンカルテット、出身地である沖縄の民謡をピアノで披露した新崎誠実さんや、2002年に第3期登録アーティストになってから20年にわたって続けてきたアウトリーチが、自身の活動の中心となっていると語ったヴァイオリンの礒絵里子さんらベテラン勢の艶やかな演奏など、それぞれに歩んだ道が伝わるプレゼンテーションとなりました。
●地域創造フェスティバル
地域創造の事業紹介を目的に年1回開催しているフェスティバル。公共ホール音楽活性化支援事業の登録アーティスト、公共ホール現代ダンス活性化事業の登録アーティストによる多彩な実演(プレゼンテーション)、シンポジウム、セミナーなどを実施するとともに、財団事業の説明会を開催。アーティストや全国のホール関係者、専門家が一堂に集い、交流する貴重なプラットフォームとなっている。会期中に都道府県・政令指定都市文化行政担当課長会議を同時開催。
地域創造フェスティバル2022 プログラム