地域創造では、令和4年度から「公共ホール邦楽活性化事業(以下、邦楽事業)」の登録演奏家制度をスタートします。初めての登録演奏家に決定した川田健太さん(箏、三絃)、藤重奈那子さん(箏、地歌三絃、十七絃)、棚原健太さん(歌三線)を対象にした研修(ガイダンス)が、1月25日に行われました。これは、事業に対する認識を共有し、アウトリーチの手法、地域での取り組み事例などを学ぶもので、今回はその模様を紹介します。
おんかつのアウトリーチを模擬体験
ガイダンスでは事業説明に続き、児玉真プロデューサーによるアウトリーチプログラムのつくり方についての講義が行われました。それを踏まえ、おんかつ登録アーティストを皮切りに長年にわたって地域で多彩なアウトリーチを企画・実践してきたピアニストの田村緑さんによる小学5年生向けプログラムの模擬体験講座が行われました。
ラヴェルの『水の戯れ』の演奏では、子どもたちのエントリーポイントとして「リズム」に着目。「ゆったり流れる」など音のリズムとイメージを結びつけて曲を分解しながら演奏。田村さんは、「当初はこういう工夫をしていたが、イメージと無理に結びつける必要はないのではないか。音楽を音楽として楽しんでもらいたいと、薄暗い部屋で寝転がり、目を閉じて、個になって聴いてもらうプログラムを考えた」と試行錯誤についても説明。実際に体験した参加者は、「生まれて初めて生のピアノ演奏を寝転がって聴いた。音にアクセントのあるところは滝壺に落ちたような感じがした」「音が上から降ってきた」など新鮮な感覚を楽しんでいました。
また、「音楽を静寂の中で聴いてほしくて、『何も音がしなくなったら始めるよ』と伝えて待った。こうすると五感が研ぎ澄まされ、さまざまに違った感想が生まれる」と、聴き手の環境づくりの大切さについても言及。定番となっている「ピアノのひ・み・つ」(分解模型や楽器の下に潜るなどの体感により見えないもの・ことを具体化して伝える楽器紹介)、聴き手に戻ってもらうための本格的な楽曲の演奏、「ハンドベルと奏でるパッヘルベルのカノン」(田村緑編曲)の合奏体験など、工夫を凝らしたアウトリーチに登録演奏家もコーディネーターも刺激を受けていました。
モデル事業の事例を学ぶ
地域創造では、邦楽事業の本格実施に向けてモデル事業などを実施してきました(報告書は財団ホームページで公開)。今回はそうした事例を元に、コーディネーターの伊藤由貴子さん(神奈川県立音楽堂館長)が、コロナ禍での実施の苦労を交えながら邦楽アウトリーチについて紹介。「アクティビティでは、洋楽との比較で説明するのではなく、和楽器の本質を伝えようと、『ロツレチリ』のような音名や伝統的な唱歌を使った」「多様な曲にふれてもらいたいし、邦楽はカッコイイと伝えようと現代曲を選択」「座敷、美術館などアウトリーチで演奏する空間のことを考えてプログラムを組み立てた」「アーティスト写真も工夫が必要」など、制作的なアドバイスを含めながら講義しました。
邦楽アウトリーチを映像を交えて登録演奏家に解説
邦楽事業の第1期登録演奏家となった3名は、「慣れ親しみすぎて疑問に感じなかったことをいろいろ振り返ることができた。邦楽は聴き手が受け取りやすい工夫や、巻き込む力が足りないと感じる。こうしたことを演奏家同士で学び合うことが必要だと思った」(藤重)、「邦楽事業についてのビジョンが見えた気がした。演奏家としてキャッチボールのないまま進めていた。改めて自分が普段からやっていることをゼロベースの人に伝えるにはどうすればいいかを考える必要があると思った」(川田)、「生徒たちの気持ちが整うまで待つという大切さを知った。古典・伝統芸能は敷居が高いイメージがあるが、伝え方に工夫を加えることで楽しみ方が発見できる。そこがやりどころだと思った」(棚原)と振り返るなど、収穫の多い時間となりました。
「公共ホール邦楽活性化事業」に関する問い合わせ
芸術環境部 永田
Tel. 03-5573-4064