一般社団法人 地域創造

令和3年度「市町村立美術館活性化事業」スタート

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しもだて美術館での展示の様子

「池袋モンパルナス─画家たちの交差点─」展を開催

 地域創造では、公立美術館の膨大なコレクションを活用し、身近な市町村立美術館等での鑑賞機会を拡大する「市町村立美術館活性化事業(市美活)」を企画し、平成11年度から20年以上にわたって取り組んできました。その21回目となる巡回展「池袋モンパルナス─画家たちの交差点─」が、茨城県筑西市のしもだて美術館で始まりました。
 この展覧会では、板橋区立美術館および豊島区が所蔵している池袋モンパルナス(*)に関連したコレクションを活用し、1920年代から40年代を代表する作品を生み出した画家をはじめ、当時流行していたフォービスムやシュルレアリスム絵画を試みる画家、戦後にこの地でアトリエを構えた画家など、会派を越えたさまざまな画家の作品約80点を紹介しています。しもだて美術館での展示の後は、瀬戸市美術館、酒田市美術館へと巡回します。
 今回は、市美活の展覧会がどのように企画され、実施されているかについてご紹介します。

実行委員会形式で巡回展を準備

 市美活は、中核的な美術館からコレクションを借用して市町村立美術館等が共同で開催する「巡回展」と、展示内容に合わせたギャラリートークやワークショップ等の「地域交流プログラム」で構成されています。
 巡回展をどのような内容にするかについては、美術事業のために設置している「公立美術館活性化事業企画検討委員会」(全国の美術館館長や学芸員、専門家から構成)に諮り、専門家からの提案によってどこの美術館のコレクションを活用し、どのような企画テーマにするかを決定しています。その企画テーマに興味のある参加館を毎年7〜11月に公募し(翌年度準備、翌々年度開催)、参加館によって構成される「共同巡回展実行委員会」を設立します(下図参照)。
 今回は「池袋モンパルナス」をテーマとしたことで、池袋モンパルナスにゆかりのある作家の作品を収蔵している3館が参加し、コレクション貸出協力館の板橋区立美術館と豊島区の学芸員にアドバイザーとなっていただいて学芸担当者会議(企画会議)を重ね、昨年度から開催の準備をしてきました。

小規模美術館の活動の可能性を広げる

 多くの市町村立美術館は、学芸員数や予算も限られ、収蔵品も思うように収集できないといった課題があります。市美活はこうした小規模美術館の課題に向き合うものでもあります。
 平成30年から企画検討委員会委員長を務めていただいている村田眞宏委員長(豊田市博物館準備室参与、前豊田市美術館館長)は事業の意義について次のように話しています。
 「市美活では、地域創造から展覧会を開催するための助成金が出ますし、参加館に貸出協力館の学芸員をアドバイザーとして派遣するという支援もあります。専門性の高いベテラン学芸員に助言をもらいながら展覧会の中身を組み立てていくことができるのは、恵まれた環境と言えるでしょう。市美活は、全国規模で巡回開催するような共同企画展まで手を伸ばせないような小規模美術館が、日常的な活動の可能性を広げる機会にもなっています。現在開催中のモンパルナス展は、貸出協力館の作品に加え、各会場で池袋モンパルナスにゆかりのある自館の収蔵作品も取り入れて、展覧会を構成しています。図録にも、参加館の担当学芸員が池袋モンパルナスと地域や収蔵作家の関係性について論文を執筆し、充実した内容となりました。各地域と近代の美術の動向について考える市美活ならではの意義深い展覧会です」

各地の学芸員が協働

 市美活は、研修機会の少ない小規模美術館の学芸員の人材育成や、ネットワークづくりの機会ともなっています。展覧会の準備作業であるカタログ制作、広報、作品の輸送などの業務を各館で分担して実施するため、これまであまり経験のない業務にチャレンジし、各館のノウハウを学ぶスキルアップの機会にもなっています。展覧会の内容や地域交流プログラムについては、テーマや貸出協力館の選定以外は参加館で意見を出し合いながら詳細を詰めていきます。
 村田委員長は、「離れた地域で、これまで縁のなかった美術館の学芸員が集まることで、いろいろな考え方や企画の構成の仕方を体得することができます。令和元年度に開催した『見て、感じて、遊ぼう!はんが遊園地─府中市美術館のゆかいな創作版画コレクションより─』は、お客さんの目線に立って企画し、『はんが遊園地』とあるように会場の中で子どもたちが楽しむことのできる、親しみやすさを全面に出した展覧会になりました。展示室内にはスタンプラリーを設置し、すべてスタンプすると多色刷りの版画作品が出来上がる…。特定の日に実施する地域交流プログラムとは異なり、いつでも、展示室を訪れたすべての人が楽しめるプログラムだったことも良かったと思います」と、協働の成果を振り返っていました。

 現在、市美活では、令和4・5年度に実施する「福岡アジア美術館所蔵 アジアの美術展(仮称)」の参加館を募集しています(11月30日締切)。地域の方々にとってアジアの美術を身近に鑑賞する機会になりますし、学芸員にとっては国外の作品や現存する現代美術作家の作品を扱う貴重な機会となります。ご参加をお待ちしています。

 

*池袋モンパルナス
1920年代以降、池袋界隈には日本各地から上京した芸術家たちが集い、いくつかの「アトリエ村」と呼ばれる一画が形成されていました。そこでは、芸術家同士の交流が盛んに行われ、切磋琢磨しながら新たなアートシーンが生み出されていきました。他にはない独自の雰囲気を醸し出していたその様子は、パリの芸術家の街になぞらえて「池袋モンパルナス」と呼ばれています。

 

 

●市町村立美術館活性化事業(市美活)スキーム

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●令和2・3年度市町村立美術館活性化事業 第21回共同巡回展「板橋区立美術館・豊島区所蔵 池袋モンパルナス─画家たちの交差点─」

•8月7日~9月26日/しもだて美術館(茨城県筑西市)
•10月2日~11月14日/瀬戸市美術館(愛知県瀬戸市)
•11月20日~2022年1月10日/酒田市美術館(山形県酒田市)
*新型コロナウイルス感染症拡大防止のため会期等に変更が生じる場合があります
[アドバイザー]
弘中智子(板橋区立美術館)
小林未央子(豊島区文化デザイン課)

 

●令和4・5年度市町村立美術館活性化事業の募集については実施要綱をご確認ください。当財団ホームページからダウンロードできます。
https://www.jafra.or.jp/project/visual-art/01.html#boshu

市町村立美術館活性化事業に関する問い合わせ

総務部 三田
Tel. 03-5573-4184

 

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