一般社団法人 地域創造

令和3年度「公共ホール音楽活性化事業」全体研修会報告

 

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左上:登録アーティストによるプレゼンテーション。新野将之さん(打楽器)
右上:同じく登録アーティストの高橋ドレミ&實川風ピアノデュオ(ピアノデュオ)
左下:セレノグラフィカによるダンスワークショップ
右下:リモートによる登録アーティストと参加団体の質疑応答

 

 公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)では、事業実施館の担当者やコーディネーター、登録アーティストが一堂に会する全体研修会を実施しています。昨年度は新型コロナウイルス感染症拡大により中止となりましたが、今年度は4月19日〜21日にリモートによる全体研修会を実施しました。
 今回は事業実施14団体の担当者はすべてリモートで参加し、レクチャーはオンライン配信、トッパンホールを会場にした登録アーティスト6組によるプレゼンテーションは一般客席を50席に限定するとともに、担当者に向けてライブ配信しました。初めての試みとなりましたが、事態の収束が見えづらい状況でどうすれば音楽を届けられるかをみんなで考える貴重な機会となりました。

全国をオンラインで繋いだ研修

 これまで初日の1コマ目に実施していたコミュニケーション・ワークショップも今回はZoomによるリモートに変更。地域創造会議室にスクリーンを設置し、関係者10名とスクリーンに映し出された14人の受講生を相手に、セレノグラフィカによるワークショップが行われました。一人でもできるワークを続けた後、最後に一人ひとりの波の動きを順番に繋ぎ、全員でひとつの波になる「バーチャル・ウェーブ」が出来ると、オンラインとは思えない一体感が生まれました。
 当初は地域創造から講師がレクチャーする予定でしたが、移動を最小限にするため講師もリモートでの参加に変更。事例紹介では2019年9月におんかつを実施した氷見市の後藤和泉さんが出演しました。氷見市民会館を休館し、新たな文化施設の整備を進めている氷見市では2017年から子どもたちへのアウトリーチを展開。おんかつは、これまで生のクラシック音楽を聴く機会の乏しかった大人(高齢者、市役所職員、商工会議所職員など)を対象に実施されました。「これによって新たな人脈ができ、アウトリーチの楽しさへの理解が深まった」と後藤さん。また、「おんかつから始まるホールと地域の未来」と題したレクチャーでは、ニッセイ基礎研究所の大澤寅雄さんが地域創造の調査結果を引用しておんかつの子どもたちへの効果について解説しました。
 グループに分かれて行う企画会議はZoomのブレイクアウトルームという機能を用い、コーディネーターとサブコーディネーターも加わって行われました。昨年度の実施を1年延期したため担当者が変更になったところもあり、コロナ禍でアクティビティ先が見つからないのではといった不安も聞かれましたが、経験豊かなコーディネーターに相談できるおんかつならではの体制が安心材料となっていました。

演奏家の個性溢れる公開プレゼンテーション

 2日目には昨年度行う予定だった1年目のプレゼンテーションが中止になり初めてのお目見えとなった登録アーティスト6組のプレゼンテーションが行われました。
 トップバッターは、15歳で打楽器と出合ったという新野将之さんです。「小中学生のときは内気だったけど、吹奏楽部で打楽器と出合い、いろいろなことが前向きにとらえられるようになった。打楽器にはメロディーやハーモニーはないけど、リズムだけでこれだけ豊かな音が出ることを体験してほしい。限界を突破したところに見えてくるものがあると思っている」と話した後、ジャンベ演奏に始まり、珍しいスネアドラムのソロ、数学などを駆使して人間を超えたところで作曲しているというクセナキスの『ルボン』を披露しました。
 今回の登録アーティストにはユニークなキャリアをもつ梅津碧さんと、実力派の竹多倫子さんという2人のソプラノ歌手が登録されています。梅津さんは青山学院大学で文学を学んでいた学生時代に郷里の公立ホールで聴いたソプラノ歌手の声に衝撃を受け、弟子入りしたという行動派。「どんなところにきっかけがあるかわからない。私の歌をきっかけに歌を始めてもらえるようになれば」と、人生を変えたオペラ『ゼッキンゲンのトランペット吹き』の一曲を披露しました。また、コロナ禍の新しい試みとして全国各地の人にオンラインで歌唱指導をしているという竹多さんは、「私が音楽に支えられてきたように、音楽の力で心に灯りを灯してもらいたいという気持ちで歌っている。オペラ歌手を通すことで、歌は歌うための歌ではなく、聴くための歌になる」と話していました。
 また、即興演奏も行うピアニストの齊藤一也さんは、「ピアノという楽器は身近にあるのにそのポテンシャルが伝わっていない」と話した後、鐘をテーマにした2曲を弾きくらべて響きの違いを実演。『子犬のワルツ』と『ネコ踏んじゃった』をコラージュしたオリジナル『ショパンの子犬のワルツによる即興曲〜ネコ好きのための〜』を披露するなど、エスプリ感のあるプレゼンとなりました。高橋ドレミ&實川風ピアノデュオは、高音のファースト奏者と低音のセカンド奏者がいる連弾の可能性について存分にアピールしていました。弦楽オーケストラ曲をピアノデュオにアレンジした『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』第1楽章、ファーストとセカンドがさまざまに掛け合う『ハンガリー舞曲』など、4手20指ならではの魅力が満載でした。
 今回、唯一の弦楽器登録アーティストであるヴァイオリンの石上真由子さんは、梅津さんと同じくユニークなキャリアの持ち主です。5歳からヴァイオリンを習っていましたが、音楽大学には通わず、医師を志して医師免許を取得。「音楽祭をつくること」を夢見て、音楽活動に専念しているヴァイオリニストです。「ヴァイオリンの格好良さといろいろな楽器としての可能性を伝えたい。そして自分の人生を通じて、夢はいくつあってもいいという人間としてのロールモデルを見せたい」と話した後、思いを込めてシューマンの『予言の鳥』を演奏しました。
 今年度の事業は秋以降に実施の予定です。コロナ禍でのアウトリーチなど、さまざまな課題もありますが、詳細は当財団ホームページやレターで発表しますので、ぜひ興味をもっていただければと思います。

 

令和3年度「公共ホール音楽活性化事業」全体研修会プログラム

4月19日(月) 地域創造 会議室
•オリエンテーション
•「ワークショップ」(セレノグラフィカ(隅地茉歩+阿比留修一))
•「おんかつを知るVol.1~基礎編~」(小澤櫻作)
•「おんかつを知るVol.2~実務編~」(地域創造)
•「おんかつを知るVol.3~事例紹介編~」
Ⅰ.令和元年度事例(後藤和泉[氷見市]、山本若子)/Ⅱ.演奏家事例(喜名雅、丹羽徹、花田和加子)/Ⅲ.事業担当者の役割とは(仕田佳経)
4月20日(火) 地域創造 会議室/トッパンホール
•「おんかつから始まるホールと地域の未来」(大澤寅雄)
•「フィードバック~これまでのゼミを振り返って~」「プレゼンテーションの聴き方」
•2020-2022年度登録アーティストによる公開プレゼンテーション(演奏順)
新野将之(打楽器)
梅津碧(ソプラノ)
齊藤一也(ピアノ)
石上真由子(ヴァイオリン)
高橋ドレミ&實川風ピアノデュオ(ピアノデュオ)
竹多倫子(ソプラノ)
•質疑応答・交流
(登録アーティスト、コーディネーター一同)
4月21日(水) 地域創造 会議室
•「グループ別企画検討」
•「企画発表」
•「フィードバック」
•閉講式

 

2020-2022年度公共ホール音楽活性化事業登録アーティスト

  • 齊藤一也(ピアノ)
  • 石上真由子(ヴァイオリン)
  • 梅津碧(ソプラノ)
  • 竹多倫子(ソプラノ)
  • 新野将之(打楽器)
  • 高橋ドレミ&實川風ピアノデュオ(ピアノデュオ)

令和3年度「公共ホール音楽活性化事業」参加団体一覧(全14団体)

  • 岩手県大槌町
  • 秋田県大館市
  • 秋田県横手市
  • 秋田県羽後町
  • 福島県会津美里町
  • 埼玉県川越市
  • 東京都町田市
  • 山梨県北杜市
  • 山梨県韮崎市
  • 和歌山県日高川町
  • 鳥取県境港市
  • 山口県岩国市
  • 福岡県中間市
  • 大分県宇佐市

公共ホール音楽活性化事業に関する問い合わせ

芸術環境部 森永・山之内
Tel. 03-5573-4069

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