昨年2月のステージラボいわきセッションから丸1年。新型コロナウイルス感染症の影響により初のオンラインセッションとなったステージラボが2月24日〜26日に東京の地域創造会議室と全国を繋いで開催されました。1日目はシンポジウム(各部定員80人)、2日目・3日目は富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ芸術監督の白神ももこさんをコーディネーターに迎えたワークショッププログラム(定員15人)で、全国各地からご参加いただき、高い関心をもって受け止めていただきました。その模様をレポートします。
●シンポジウムのテーマは2つの視点
シンポジウムでは、第1部「地域とともに歩むコーディネーター」、第2部「市民と向き合うアーティスト」という2つの視点をテーマとして取り上げました。オンラインのため、ファシリテーターと地域創造の津村卓プロデューサー、技術スタッフ、事務局だけが会議室に集合。パネリストはそれぞれの地域から参加しました。
第1部では吉本光宏さんがファシリテーターを務め、3人のパネリストが事例を紹介。最初に吉本さんがコーディネーターについての問題提起を行いました。
「東日本大震災を踏まえて地域創造が調査した結果、地域に命綱となるような文化的な繋がりが生まれていることがわかり、それを文化的コモンズ(*)と呼ぶことにした。そこで指摘されたのがコーディネーターの存在。問題は解決できなくても、生きにくさを緩和することに少しでも文化芸術が寄与できるよう“地域とアートを繋ぎ、地域の課題と向き合う”というその役割はますます重要になっている」
それを受けて、小中学校にアーティストを派遣する「横浜市芸術文化教育プラットフォーム事業」など意欲的な地域連携事業を展開するSTスポット横浜の小川智紀理事長が取り組みなどを紹介。「コーディネーターについてよく言われるのが『本業扱いしてくれない』『何と何を繋ぐ役目なのかわからない』『最終的な目標がよくわからない』ということ。教育文化、福祉文化という言葉があるように、社会の固有の領域を文化として捉え、それぞれを繋げる役割にこそ、コーディネーターの存在意義があるように思う」と示唆していました。
岡山文化連盟に新たな機能として加わった「おかやま文化芸術アソシエイツ」のプログラム・コーディネーターを務める大月ヒロ子さんは、既存のネットワークを生かして「ヒト・コト・場所」を組み合わせ、繋ぎ、掛け合わせるという多彩な活動を紹介。また、プロジェクト・コーディネーターという肩書をもつ若林朋子さんが、「人と人を繋ぎ、相談を受けてそのときの最適解を形にする」という自身のコーディネーター像について話すなど、多角的な論点が提示されました。
第2部では、ファシリテーターとして豊かな経験をもつ吉野さつきさんが進行を務め、地域と連携した活動実績をもつ4人のアーティストとトークを展開。「劇場で純粋培養して作品をつくるのではなく、世間のいろいろなものと混濁させてつくることに興味がある」という遠田誠さん(ダンサー・振付家)、「地域に滞在し、ティーンエージャーと一緒に演劇をつくることが多い。地域に混ぜてもらうという気持ちで取り組んでいる」という田上豊さん(劇作家・演出家、キラリ☆ふじみ芸術監督)に続き、コロナ禍でも音楽を発信できるよう自宅を演奏発信基地に改装したという田村緑さん(ピアニスト)が自宅からライブ演奏を披露。また、吉澤延隆さん(箏奏者)は「箏もリコーダーと同じ今を生きている楽器。当初はワークショップとコンサートを別ものとしてとらえていたが、今では演奏会でもお客さんに参加してもらうことも採り入れている。要は人が大切」と話すなど、アーティストの思いにふれられる貴重な機会になりました。
●人となりが伝わったワークショッププログラム
今回のワークショッププログラムは、定員を超える20人が参加。技術スタッフがZoomについての事前研修を実施しました。また、事前課題として個人の視点で職場や会館の魅力を伝える動画(3分程度)を作成してもらい、1コマ目にそれを用いた自己紹介を行いました。スマートフォンを片手に同僚から館長まで仲間をリレー撮影した人、ロビーに設置された大好きな照明器具をアピールした人、会館の前庭でお客さんを迎えている自慢の植木を紹介した人、マスコットキャラクターと館内案内をした人など。リアルでの自己紹介よりもプライベート感が溢れ、意図せずして撮影者の人となりが伝わる動画に受講生の距離が一気に縮まりました。
3コマ目は、コーディネーターの白神さん、サブコーディネーターの大園康司さん(ダンサー)と山本麦子さん(愛知県芸術劇場プロデューサー)と共に、オンラインでアーティストのライブパフォーマンスを鑑賞。んまつーポスは自らが宮崎市で運営する国際こども・せいねん劇場「透明体育館きらきら」から幼稚園児へのショーイングを兼ね、スポーツマンならではのキレのある群舞を披露。高齢の父親を呼吸をするようにゆっくりマッサージする佐久間新さんのパフォーマンス、パーキンソン病の方々ともワークショップをしている金沢のなかむらくるみさんと障がいのあるダンサーとの即興コラボと、好奇心を刺激させられるパフォーマンスが続きました。受講生は「言葉にしてみる」をテーマに、感想を川柳で書き、画面の向こうのアーティストに披露しました。
最後のゼミでは、「とにかく、なんとかする」と題し、4チームに分かれ、離れ離れのメンバーと協力して動画を作成。落語風の語りで各地の名産紹介をしたチーム、他己紹介をしりとりで繋いだチームなど、アイデア満載でした。
受講生は、「オンラインでも共同作業ができるんだなと思った」「オンラインだから遠方でも参加できた」「実際に会いたくなった」「動画をどうつくるかではなく、どうやって人を巻き込むかにトライできた。それは劇場・ホールの人の巻き込み方に繋がると思った」など、それぞれに手応えを感じていました。
白神さんは、「オンラインだったからホールで仕事をしながら仕事場から発信することができた。今まで取りこぼしていたものに焦点が当たった感じがした。Zoom画面に顔がずっと出ているので、責任が出てくるというか、事なかれで終われないワークになった。こういうホールなんだというより、こういう愛情をもっている人がいるホールなんだというのが伝わり、人として付き合える、人で繋がれる感じになったのが面白かった」と振り返っていました。
ステージラボの特徴である少人数・双方向・体験型・交流型をそのまま展開することはできませんが、オンラインならではの新たな出会いの場を創出できたのではないでしょうか。
*文化的コモンズ
地域社会を構成する誰もが文化的営みに参加できる公共圏のイメージ。平成24(2012)・25(2013)年度調査研究「災後における地域の公立文化施設の役割に関する調査研究報告書─文化的コモンズの形成に向けて」および平成26(2014)・27(2015)年度調査研究「地域における文化・芸術活動を担う人材の育成等に関する調査研究報告書─文化的コモンズが、新時代の地域を創造する」において提唱された概念。
https://www.jafra.or.jp/library/report/24-25/index.html
https://www.jafra.or.jp/library/report/26-27/index.html
●ステージラボ オンラインセッションプログラム
【2日24日】
◎シンポジウム「地域に今なぜアートが必要か」
•第1部「地域とともに歩むコーディネーター」
[ファシリテーター]吉本光宏(株式会社ニッセイ基礎研究所 研究理事)
[パネリスト]大月ヒロ子(有限会社イデア代表取締役/おかやま文化芸術アソシエイツ プログラム・コーディネーター)、小川智紀(認定NPO法人STスポット横浜理事長)、若林朋子(プロジェクト・コーディネーター/立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授)、津村卓(一
般財団法人地域創造プロデューサー)
•第2部「市民と向き合うアーティスト」
[ファシリテーター]吉野さつき(アーツ・マネージャー/愛知大学文学部メディア芸術専攻教授)
[パネリスト]遠田誠(ダンサー/振付家/まことクラヴ主宰)、田上豊(劇作家/演出家/田上パル主宰/富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ芸術監督)、田村緑(ピアニスト)、吉澤延隆(箏奏者)、津村卓
【2日25日】
◎ワークショッププログラム
[コーディネーター]白神ももこ(振付家・演出家・ダンサー/富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ芸術監督/モモンガ・コンプレックス主宰)
[サブコーディネーター]大園康司(振付家・ダンサー・ワークショップデザイナー・舞台音響家/かえるP主宰)、山本麦子(愛知県芸術劇場 プロデューサー)
①「自分のことを紹介してみる」
[講師]白神ももこ、大園康司、山本麦子
②「相手のことを聴いてみる、話してみる」
[講師]白神ももこ、大園康司、山本麦子
【2日26日】
③「動いてみる、言葉にしてみる」
[講師]白神ももこ、大園康司、山本麦子、んまつーポス、佐久間新、なかむらくるみ
④「とにかく、なんとかする」
[講師]白神ももこ、大園康司、山本麦子
◎オンライン交流会(20:00~)
【アーカイブ箱】
https://www.jafra.or.jp/project/training/online_labo2020/archive_box.html
•さっぽろ天神山アートスタジオ
『2020年度AIR(アーティスト・イン・レジデンス)プログラム』
•富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ
『モガ渓谷~記憶はだいたい蜃気楼~(穴あき谷のおまつり編)』
•穂の国とよはし芸術劇場PLAT
『まちと劇場の技技交換所』
•山口情報芸術センター[YCAM]
『YCAMスポーツ・リサーチ』
●ステージラボに関する問い合わせ
芸術環境部 児島・吉川・﨑山
Tel. 03-5573-4183