一般社団法人 地域創造

令和2(2020)年度「公共ホール邦楽活性化モデル事業」

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写真左上:高松市立牟礼南小学校でのアウトリーチ(2020年11月20日)
右上:玉藻公園披雲閣大書院で行われた演奏会(11月21日)
左下:高松市美術館講堂で行われた演奏会(11月21日)
右下:最終日にサンポートホール高松で行われたコンサート「邦楽ルネッサンス〜ひらけ和の響き〜」(11月22日)

 

 学習指導要領の改定により、小中学校で和楽器や日本の音楽を学ぶようになったことを踏まえ、地域創造では平成21(2009)年度から「邦楽地域活性化事業」(都道府県・政令市対象)をスタートしました。目的は、「邦楽への理解の促進」「邦楽アウトリーチと演奏会の普及」「邦楽演奏家によるアウトリーチプログラム開発」です。
 この事業では、都道府県等が主導し、地域創造が派遣した邦楽演奏家とコーディネーターが現地に滞在してアウトリーチプログラムを開発。公共ホールで演奏会を行うとともに、市町村と連携してアウトリーチを実施するというものです。平成30年度までに延べ9つの県と政令市、27市区町で事業が行われ、27組の邦楽演奏家がアウトリーチプログラムの開発に取り組みました。
 その実績を踏まえ、地域からの要望を受けて昨年度から試験的に取り組んでいるのが、市町村が主体的に事業を行う「公共ホール邦楽活性化モデル事業(市町村対象)」です。今回のレターでは、11月20日〜22日に高松市文化芸術財団(サンポートホール高松)と高松市が主催したモデル事業の模様をご紹介します。

 

 ●邦楽ルネッサンスと題したコンサートが大盛況
 モデル事業では、地域創造が邦楽演奏家(アウトリーチプログラム開発に参加した演奏家)とコーディネーターを派遣し、現地下見1回と本番(3日間でアウトリーチなどの地域交流プログラム4回、ホールでの演奏会もしくは公募型ワークショップのいずれかを1回)を実施します。
 地域創造の児玉真プロデューサーは、「邦楽では演奏家は楽器体験的なものが求められることが多いですが、アウトリーチでそれをやると時間の半分以上を費やしてしまいます。邦楽を音楽として聴く人を増やしたいと思うので、市町村対象のプログラムでもアウトリーチは鑑賞的なものにシフトし、ホールで演奏会もしくはワークショップを企画できる形にしました。また、今回は都道府県・政令市対象でアウトリーチのノウハウを身につけた演奏家が、地域で邦楽の普及を行う道筋もつくりたいと考えました。そのためのプロフィールブックを制作し、邦楽演奏家の情報を一覧できるようにしました」と話します。
通常は、5月に全体研修会を実施しますが、今年度は新型コロナウイルス感染症の影響により7月に延期。事業の進行にも遅れが出るなど、イレギュラーな対応となりました。演奏家の現地下見も行わず、Zoomなどのリモート会議を重ねて実現に漕ぎ着けました。
 サンポートホール高松の担当・堀有紀子さんは、「中止という選択肢もありましたが、貸館事業も再開していたので、実現できる形を探してコロナ禍で実施するモデルにしたいと思いました。これまで当館では邦楽の演奏会を主催したことがなく、自分たちにないノウハウを得られるのではないかと考えました。当館に来たことのないお客さんに来てもらいたい、『鬼滅の刃』などの和物ブームで若い人にも興味をもってもらえるのではないか、邦楽で幅広い世代が交流できるのではないかなど、いろいろな狙いがありました。そこで演奏会を『邦楽ルネッサンス~ ひらけ和の響き~ 』というタイトルにし、地域交流プログラムもターゲットを分け、小学校2校へのアウトリーチに加え、高松で実施する意義を踏まえて高松市美術館(親子と一般対象)と玉藻公園にある披雲閣大書院(65歳以上対象)で行いました」と話していました。
 小学校へのアウトリーチでは、通常は音楽室を会場にして演奏家と交流しながら行いますが、コロナ禍のため2校とも体育館で実施。牟礼南小学校では、演奏家と子どもたちとの距離を4メートル、子ども同士も十分な距離を離し、子どもたちは演奏家を遠巻きにして半円形に置かれた椅子に着席し、全員マスク着用で鑑賞しました。
 高松のモデル事業に参加したのは、ポルトガルのカーザ・ダ・ムジカによる音楽ワークショップ手法を身につけ、東京文化会館ワークショップ・リーダーも務める吉澤延隆さん(箏)と、尺八を広めるためのYouTubeチャンネルを主宰している川村葵山さん(尺八)という邦楽の普及に尽力するゴールデンコンビです。
 冒頭、吉澤さんが「僕たちは箏と尺八の魅力を伝えに来ました」と挨拶。初めは『春の海』の作曲者や楽器の説明だったものが、布や金属のボールを使い、弦をシゴき、甲を叩きながらの『インテルメッツィⅡ』(望月京)で子どもたちの集中力はピークに。尺八でも古典本曲の『鶴の巣籠』から沢井比河流作曲による現代曲『土声』まで、邦楽器による音楽の魅力を存分に伝えていました。また、邦楽をみんなで楽しむ試みとして、手拍子、足踏みで演奏に参加するワークも行われました。
 「アウトリーチの感触はとても良かったのですが、ホールでの鑑賞に大きく繋げることはできませんでした。(触れることを極力少なくしたので)チラシも配布できなかったし、学校で太鼓を学んでいる子どもたちとの交流もできなかった。保護者も子どもたちをホールに連れて行くことを躊躇していました。いろいろな可能性があったのに広げることができませんでした」と堀さんは反省点と今後の課題を話していました。
 このほか、国指定重要文化財の披雲閣では、大書院で日本庭園をバックに演奏が行われ、木造建築と邦楽器が響き合う至福の時となりました。また、検討を重ねた結果、客席を100%稼働させたホールでの演奏会は、古典から現代曲までをカバーしたプログラムで、親しみやすいトークを交えたステージを200人以上の聴衆が堪能し、大盛況となりました。

 

演奏家コメント
●吉澤延隆(箏)
緊急事態宣言が解除された6月の東京文化会館のワークショップ・コンサートから活動を再開した。8月には都内の学校でマスクの着用、アルコール消毒などの感染対策を行った上で音楽室でのアウトリーチを行った。その時には電子黒板に演奏する手元を写すなどICTも活用した。今回のように体育館で少人数を対象にしたのは初めて。邦楽でも自発的に身体を動かしていいということをプレゼンしたくて、『春の海』にボディパーカッションを取り入れた。音楽室と違って、子どもたちの様子がひとりひとり目視しやすくて、離れたら離れたなりの良さがあると思った。

●川村葵山(尺八)
体育館でも演奏の仕方は全く変わらない。今回の事業では、小学校、文化財、ホールなど会場がいろいろ変わって大変だったが、邦楽をより知っていただくためにそれを楽しんでやるのがこの事業の面白さだと思う。時代が変わり、これが「邦楽」だという提示の仕方も変わってきている。邦楽を特別なものとしてではなく、日常的なものとして体現するのがアウトリーチだと思う。現代音楽を中心に演奏する「The Shakuhachi 5」を立ち上げて2020年春に演奏会を行う予定だったが新型コロナウイルスの影響で延期になった。資金集めのためのクラウドファンティングも行った。こういう新しい試みにも挑戦している。

 

 

●令和2(2020)年度公共ホール邦楽活性化モデル事業(開催地/日程/演奏家)

※1月中旬現在
•熊本市
2020年11月12日~14日
佐藤亜美(箏・二十五絃箏)
佐藤將山(尺八)
•香川県高松市
11月20日~22日
吉澤延隆(箏・十七絃箏・二十絃箏)
川村葵山(尺八)
•埼玉県秩父市
2021年2月9日~11日
木場大輔(胡弓)
伊藤麻衣子(箏・二十五絃箏)
島村聖香(邦楽打楽器)

 

●「公共ホール邦楽活性化事業」に関する問い合わせ
芸術環境部 永田
Tel. 03-5573-4076

 

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