地域創造の「公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)」では、普段クラシックの演奏会に足を運ばない人との出会いや交流を目指し、地域のさまざまな場所で工夫を凝らしたミニコンサートや参加体験型企画を実施しています。新型コロナウイルス感染防止の対策を講じた上で、今年度の事業が本格始動しました。
今年度のおんかつでは、2020-2022年度登録アーティスト(新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、登録年を1年延長)が11月から来年3月まで全国6地域で事業を展開します。今号では11月19日〜21日の同日程で開催された、岩手県奥州市と広島県府中市の模様をご紹介します。
奥州市は、岩手県の内陸南部に位置する、人口約11万5,000人の市です。2006年に、水沢市・江刺市の2市、および胆沢郡の前沢町・胆沢町・衣川村の2町1村が新設合併して誕生しました。市内には4つの公共ホールがあり、それぞれ特色のある事業を展開しています。その中で、前沢ふれあいセンターの指定管理者である特定認可法人前沢商工会が主催となり、ピアニストの齊藤一也さんを招いておんかつが実施されました。
前沢小学校の4年生を対象としたアクティビティ(地域交流プログラム)は、担当の大橋さんの要望で、齊藤さんの演奏から子どもたちに自由にイメージしてもらい、クラシックを好きになるきっかけを与えてあげたいというコンセプトでした。曲に合わせて齊藤さんがご自身で撮影した海外の景色を写しながらの演奏や、『猫ふんじゃった』と『小犬のワルツ』をミックスアレンジした楽曲で子どもたちの想像力を膨らませたり、充実したプログラムを展開しました。大橋さんは、「コロナ禍でピリピリしていた雰囲気が、齊藤さんがピアノを弾けば魔法のようにみんな笑顔に変わった」と振り返っていました。
府中市は、広島県の東南部内陸地帯に位置する人口約3万8,000人の市です。「府中」の名は、8世紀頃にこの地に「備後国府」が置かれ、備後国の政治・経済・文化の中心地であったことに由来します(市HPより)。全国でも珍しい公立の小・中一貫教育が行われる府中市において、府中学園の8年生、府中明郷学園の9年生(各々中学校2・3年生に相当)を対象にヴァイオリニスト・石上真由子さん(ピアノ・江崎萌子さん)によるアクティビティが実施されました。ファリャ『スペイン舞曲』の軽快な演奏に始まり、クライスラー『美しきロスマリン』、バッハ、ベートーヴェン等が演奏されると、生徒たちは皆、美しい音色に感動していました。また、石上さんは“医師免許をもつヴァイオリニスト”という異例の経歴をもつ演奏家です。曲の合間に話される経験談についても、生徒たちは関心をもって聞いている様子でした。コロナ禍によりさまざまな学校行事が中止となった今年度。生徒たちにとって、プロの生演奏を間近で聴けた今回のおんかつは、貴重な経験になりました。
最終日には、府中市文化センターにて「ふちゅう音楽コンサート〜FUCHU・ON(音)〜」を開催。チケットは、ほぼ完売でした(客席約50%使用)。アクティビティでも第1楽章を演奏したベートーヴェン『ヴァイオリン・ソナタ第10番』を全楽章演奏したほか、地元で活躍する府中シティオーケストラとの共演によるブルッフ『ヴァイオリン協奏曲第1番』の演奏は、まさに「圧巻」の一言。きっと皆さんの心に残る、充実したコンサートをお届けすることができました。
●「公共ホール音楽活性化事業」に関する問い合わせ
芸術環境部 山之内
Tel. 03-5573-4078