一般社団法人 地域創造

「公共ホール現代ダンス活性化事業」事例紹介

 

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写真1・2:豊岡市民参加公演『リュウグウノツカイ』(2020年1月26日)

3:国立市民参加公演『ENDSCAPES』(2019年12月8日)

4:『ENDSCAPES』クリエイションの様子

 地域創造では、現代ダンスのアーティストを地域に派遣する「公共ホール現代ダンス活性化事業(通称:ダン活)」のプログラムを平成29(2017)年度に大幅リニューアル。Aプログラム(地域交流プログラム)、Bプログラム(市民参加作品創作プログラム)、Cプログラム(公演プログラム)の3つのプログラムが、地域のニーズに合わせた順番で段階的・継続的に実施できるようになりました。今回は、同じアーティストを2カ年招いたプログラム構成で事業を展開し、すべてのプログラムを終了した兵庫県豊岡市の豊岡市民プラザ(指定管理者:NPO法人コミュニティアートセンタープラッツ)と、東京都国立市のくにたち市民芸術小ホール(指定管理者:公益財団法人くにたち文化・スポーツ振興財団)の取り組みを紹介します。

市民と共に舞踏をエンジョイ(豊岡市民プラザ)

 豊岡市民プラザ(以下、プラザ)は、豊岡駅とデッキで繋がった再開発ビルの空きフロアを文化施設としてコンバージョンしたもので、長年にわたり市民の幅広い文化活動を支援してきたコミュニティホールとして知られています(平成23(2011)年度地域創造大賞受賞)。2005年度に旧ダン活に参加した経験があり、今回は、1年目(2017年度)と3年目(2019年度)に大駱駝艦の舞踏手である田村一行(B、C)、2年目(2018年度)にコンテンポラリーダンスの鈴木ユキオ(A)を招聘しました。

 注目すべきは、舞踏という地域の人に馴染みのない踊りを選び、初年度に田村と市民が一緒に創作を行うBプログラムを実施したことです。Bプログラムでは、アーティストとコーディネーターを計9日間、2回に分けて地域に招聘できます。その間に創作のためのリサーチと下見、市民を対象にした公募ワークショップ(1回)、作品づくりと本番を実施します。プラザでは、初年度に田村が地元・出石神社に祀られているアメノヒボコ(新羅からの渡来人または渡来神)の伝承にインスピレーションを得た『ヒボコノコ』を高校生から60歳代までの市民11人と創作。市民は顔や身体を白く塗り、日常を離れた異形のスタイルになって原初的で自然な自分の心身と向き合い、「そこに在る身体こそが表現」という田村の舞踏をエンジョイしました。

 その成果を受け継ぐべく、翌年にはプラザの独自市民参加事業として再び田村と大駱駝艦を招聘し、地元・但馬の伝承上の人物で不老不死の実を持ち帰ったという田道間守をモチーフに『叫び哭きて香を唄ふ』を発表。そして3年目に、田村の新作『ノキシタノマロウド』(C)と、3作目の市民参加舞踏『リュウグウノツカイ』(独自市民参加事業。豊岡沖で生きたまま定置網に掛かった幻の深海魚にインスピレーションを得た作品)の公演を実現しました。

 『リュウグウノツカイ』を取材しましたが、2011年度からダン活登録アーティストとして土地というルーツに向き合ってきた田村が市民14人、大駱駝艦の舞踏手6名と共に力強い作品をつくり出していました。本番前の楽屋を訪ねると、プラザが長年取り組んできた市民劇団「演劇FACTORY」のメンバーや、市民参加舞踏皆勤賞でこの作品のために剃髪した強者、体験ワークショップでハマった高校生などが自ら練り白粉で顔や手足を白く化粧。塗るたびに普段隠されていたキャラクターが顕わになり、市民から別の存在に変身していました。

 プラザ館長の岩崎孔二さんは、「白塗りを楽しみに来ている参加者もいるほど(笑)。ダン活で舞踏を選んだのは、ストーリー性があって演劇に力を入れてきたプラザとして展開しやすいと思ったから。市民参加で市民同士、市民とアーティストが交流できるBプログラムを入り口にすることで少しずつ舞踏に馴染んでもらえるのではないか、作品づくりを通してホールの技術スタッフが鍛えられ、アーティストの考え方がわかるようになるのではないかと思った。あるがままを認める舞踏や話したくなければ話さない役をつくれる演劇は間口が広く、多様性を認めあえる表現だと思う。今後も市民参加舞踏は独自事業として継続したい」と話していました。

 

全館を使った回遊する体験型パフォーマンスにチャレンジ(くにたち市民芸術小ホール)

 くにたち市民芸術小ホールでは、1年目(2017年度)に田村一行(C)、2年目、3年目(2018・19年度)にコンテンポラリーダンスの東野祥子(A、B)で事業を展開しました。音楽家、映像作家、美術家、照明家、パフォーマー、ダンサーなどがメンバーとなったANTIBODIES Collective(以下、アンチボ)を主宰する東野は、屋内、野外を含めて大掛かりな空間演出を行うパフォーマンスで高く評価されています。その手腕が施設全体を使った回遊型の作品として結実したのが、2019年12月8日に発表したBプログラムの『ENDSCAPES』です。

 担当の斉藤かおりさんと竹内恵美子さんは、「現代ダンスが当館にとって非常に有益なジャンルと考え、ダン活後も自立して取り組むための地盤となる事業にしたかった。Bプログラムを最終目標と考えてその前の2年に取り組んだ。施設全体を回遊する公演という当館では前代未聞の企画で、施設の使い方をとらえ直し、市民の当館への期待をいい意味で裏切り、自分の知らないジャンルに積極的にふれようという機運を醸成したかった」と、事業報告書で振り返っていました。

 『ENDSCAPES』では、小学3年生から67歳までの市民13人とアンチボメンバーが協働。たくさんのパイプ椅子とテレビモニターを組み合わせたタワーとギャラリー一杯に膨らんだ巨大な布風船の中、怪しい照明に照らされた真っ赤なテーブルクロスを掛けた長机などあちこちに出現した異空間で衣裳を身に纏った市民とメンバーが同時多発的に妖しいパフォーマンスを展開。観客はそれを回遊しながら見た後、ホールに誘導され、全員による群舞でこの終末的なダンスオペラを締めくくりました。

 クリエーション期間が短く、全体像が早くわからないなど、広報では苦労することもあるかと思いますが、そうした課題も含めて、ダン活の詳細な報告書がホームページにアップされています。令和3(2021)年度の参加団体の募集は既に締め切りましたが、事業報告書を参照していただき、今後ぜひ参加をご検討いただければと思います。

 

●公共ホール現代ダンス活性化事業(通称:ダン活)

地域創造がコンテンポラリーダンスの登録アーティストと専門家のコーディネーターを地域に派遣。コーディネーターのサポートのもと、公共ホールとアーティストが共同で企画した地域交流プログラムや公演を実施する事業。A、B、Cの3つのプログラムを継続して事業実施が可能。旧ダン活に参加したことのある公共ホールも応募可能。

•Aプログラム(地域交流プログラム)原則として、4日間で学校や福祉施設等でのアウトリーチ、公募ワークショップを4~5回実施するプログラム。

•Bプログラム(市民参加作品創作プログラム)原則として、4日間+5日間など全9日間の日程を2回に分け、市民参加作品を創作し、有料公演を実施するプログラム。また、併せて公募ワークショップを1回実施。

•Cプログラム(公演プログラム)原則として、4日間で登録アーティストのレパートリー作品の有料公演を実施するプログラム。また、併せて公募ワークショップを1回実施。

 

●2021・2022年度登録アーティスト

北尾亘、白井剛、田村一行、中村蓉、長井江里奈、藤田善宏、マニシア、康本雅子

 

●公共ホール現代ダンス活性化事業報告書

https://www.jafra.or.jp/about/report/6812.html

 

●公共ホール現代ダンス活性化事業(ダン活)に関する問い合わせ

芸術環境部 栗林・青井・畑

Tel.03-5573-4055・4077・4075

dankatsu*jafra(*を@にかえてご利用ください。)

 

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