一般社団法人 地域創造

静岡県島田市、川根本町 UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川2020

 「越すに越されぬ大井川」と謳われた大井川の両岸に広がる静岡県島田市。かつて東海道の宿場町として栄え、現在は緑茶の名産地として知られるが、2005年の約11万人をピークに20年には約9万8千人にまで人口が減少。特に山間部では高齢化が進み、大井川沿いを走る大井川鐵道も19駅中15駅が無人駅。その無人駅で2018年から開催されているのが「UアンマンドNMANNED無人駅の芸術祭/大井川」だ。折悪しく新型コロナ対応で縮小開催となったが、13組のアーティストが作品を展開している現地を、3月6日、7日のオープニングに訪れた。

 

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上:プラットホームに鎮座する“白い地蔵”
さとうりさ『地蔵まえ』 ©UNMANNED
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中:集落の“妖精たち”が作品を身に纏って歩く
江頭誠『間にあるもの』
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右:島田市川根町出身の作家・
中村昌司による『黒いオッパイ』

 3回目となる今年はメインの福用駅、抜里駅、塩郷駅やその周辺などに作品が展示された。ダムの取水によってほとんど流水のなくなった広大な河原が渓谷を激しく蛇行する大井川、美しい茶畑、古い駅舎という“場”に、大規模ではないがアーティストが地域との関係を丁寧に積み上げ、交流を楽しんだであろう愛情のこもった作品の魅力がプラスされていた。

 例えば、1回目から参加しているさとうりさは、抜里駅に小学生の背丈ほどの白く丸みのある造形物「地蔵まえ(サトゴシガン)」を設置。その子は、会期前、8軒の家に2泊3日の“里子”に出されていた。迎えた人々は、一緒に炬燵に入ったり、服を着せたり、抱きついたりと、家族のように交流。駅舎にはその様子を自撮りした“家族写真”も飾られていた。「私のテーマはパブリックとプライベートの境目を探ること。作品がお地蔵さんのように地域の人たちの日常に馴染み、受け入れられるのかを“里子”という新しい仕組みで試した」(さとう)。

 木村健世は、駅周辺の住民から聞き取った思い出を元に新しい回想文を創作し、地域の記憶にふれるような短編集をつくった。1回目の福用駅編、2回目の駿河徳山駅編、そして今回が新作の抜里駅編で、各駅のブックシェルフに持ち帰り自由の文庫本として展示。また、駄菓子屋から鋳型工場になった建物、通称「せんべや(せんべいや)」では、北川貴好が家主や近所のおばあちゃんたちの出演でつくった“せんべや”の謎に迫るユニークな映像作品を上映。江頭誠の花柄毛布製の農作業服を着た地域のおじさんたちの写真撮影も行われた。

 この芸術祭を企画・運営しているのが、島田市でまちづくりを行う「NPO法人クロスメディアしまだ」だ。教育委員会社会教育課長の南條隆彦さんは、「そもそもは、災害時に備えるプラットフォームとして市・民間・市民が検討し、情報発信と市民活動の活性化を目的にポータルサイト『eコミュニティしまだ』を立ち上げたのが始まり。それを本格化するため、2010年に任意団体クロスメディアしまだ(翌年NPO法人化)を設立した」と振り返る。その時、事務局長(現NPO法人理事長)になったのが名古屋で広告代理店を経営し、Uターンしてきた大石歩真さんだった。「まずサイトで“島田が好きな人”の情報を発信した。そして、地域のコーディネーターとしてその人たちが交流する場を立ち上げていった」と大石さん。

 この大石さんに加えてもうひとりのキーパーソンになったのが、NPO法人の事務局長になった元島田市商工会職員の兒玉絵美さんだ。「新潟の『大地の芸術祭』で地域の人とアートの関わりに感銘を受けたのが原体験。北川フラムさんやスタッフの関口正洋さんに飛び込みで挨拶もした」という兒玉さんは、2017年に商店街の空き店舗の活性化を考えるプロジェクトとして「ART CONNECT SHIMADA」を提案。アートの素人を自認する二人は、プロジェクトの内容をみんなで考えるワークショップからスタート。みんなが楽しんでいるのを見た二人は大井川鐵道の無人駅に舞台を移し、静岡県文化プログラムに応募。市のサポートに加え、県のコーディネーターからもアドバイスを受けて試行錯誤しながら形をつくり上げてきた。

 島田生まれ・育ちのネットワークに加え、まちづくりで培った人の懐に入り込む大胆さと丁寧な関係づくりでアートという異物を受け入れる人々の寛容性を高め、アーティストたちの本気を引き出した小さな芸術祭─「身近な人が豊かな気持ちで暮らしていることが私たちの評価指標」という大石さんの言葉がすべてを物語っていた。

(アートジャーナリスト・山下里加)

 

UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川2020

[会期]2020年3月6日~22日

[会場]大井川鐵道無人駅周辺(静岡県島田市・川根本町)

[主催]NPO法人クロスメディアしまだ

http://cms.or.jp/

[共催]静岡県文化プログラム推進委員会

[協力]大井川鐡道(株)、島田市、川根本町

[参加アーティスト]関口恒男、江頭誠、さとうりさ、木村健世、北川貴好、栗原亜也子、ニシダヒデミ、夏池篤、中村昌司、形狩り衆、クロダユキ、カトウマキ、常葉大学造形学部

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