今年度2回目のステージラボが2月18日〜21日、ホール入門、自主事業(音楽)、公立ホール・劇場マネージャーの3コースで開催されました。会場は、2009年に全館開館した大規模な複合文化施設のいわき芸術文化交流館アリオスです。PFIで建設され、市直営で事業を展開。東日本大震災では本館ロビーを避難所として開放したのをはじめ、「おでかけアリオス」というアウトリーチに力を入れてきました。今回のラボは、そうした地域とアリオスとの繋がりを学ぶ充実した研修となりました。
三和地区をフィールドワーク
今回のラボで特徴的だったのが自主事業(音楽)コースのプログラムです。コーディネーターを務めたピアニストの田村緑さんは、2016年から18年までおでかけアリオスのアソシエイト・アーティストとして山間部の三和地区に継続的なアウトリーチを行う「三和プロジェクト」を展開(19 年にも地元演奏家と事業を実施)。自主事業コースではその三和地区に赴いてフィールドワークするバスツアーを行いました。前日に、いわき市三和支所の草野達也さんから三和地区について事前学習した受講生は、田村さんのガイドで、個人宅のリビングを開放して演奏会を行った旧家や出前演奏したコミュニティ施設「いこいの学校長居小」(旧永井小学校)、廃校になった差塩(さいそ)小学校、上三坂公民館などを訪問。三和町区長会会長やコミュニティ施設を運営するNPO法人代表など、受け入れ先のキーパーソンから直接お話を伺いました。上三坂公民館では、田村さんと地元演奏家の常光今日子さんが実際に演奏を披露。田村さんは、「プロジェクトにあたって現地を訪ね、どこにピアノがあるかも調べ、どう地域と関わるかアリオスと相談した。その過程で上三坂公民館の改修中に屋外に置かれていたこのピアノと出会った。小学校に町民が寄附したものだとわかり、修復して演奏会を行った」と懐かしそうでした。区長会会長の永山肇一さんは、「市の中心まで30キロもあり、音楽の鑑賞機会がない。おでかけアリオスで、音楽を通じて地域の人が交流し、素晴らしい思いを共有することができた。住んでいるところが好きだから、もっとよくしたいというのがまちづくりの基本だと思う」と三和愛を語り、受講生の心に響いたようでした。演奏会後には地区の方々の心づくしの地元料理で交流するなど、演奏家と地域の継続的な関わりが育んだ豊かな繋がりを実感したフィールドワークになりました。
入門コースとマネージャーコース
ホール入門コースのコーディネーターを務めたのは、北九州芸術劇場プロデューサーの龍亜希さんです。同劇場では「キタQアーティストふれあいプログラム」として学校で身近にアーティストとふれあう事業を展開。今回は、特別支援学校などにアウトリーチをしているダンサーのセレノグラフィカ(隅地茉歩さん、阿比留修一さん)によるプログラムを体験。また、グループに分かれてダンスをつくり、照明プランまで考えた発表も行われました。特徴的だったのは、セレノグラフィカによるワークショップ解体新書とも言えるプログラムについての丁寧なレクチャー。例えば、ステージ上を歩いているなかで徐々にそのエリアを狭めていく「田の字歩き」について「経験値に左右されずに取り組めることを意識し、いろいろなコンディションの子どもがフラットに取り組めるよう、ダンスの入り口として歩くことから始めている。田の字に歩くことで友達との距離感が自然に変わり、空間も把握できる」などと解説。北九州芸術劇場が学校に配布している資料を元に具体的な方法も紹介されました。龍さんは、「多様な価値観をもっているアーティストだからこそ子どもたちの想像力に気づいて引き出
せる。その出会いをつくりたい」と事業の狙いについて話していました。
NPO法人ふらの演劇工房の立ち上げメンバーであり、現在は富良野メセナ協会代表の篠田信子さんがコーディネーターを務めた公立ホール・劇場マネージャーコースでは、異なる立場のオピニオンリーダーが問題意識を喚起する講義を展開。ニッセイ基礎研究所研究理事の吉本光宏さんが公立ホールの現状と役割をわかりやすく整理し、主婦だった篠田さんが腹を括り「文化の香るまち富良野」を目指した経験談を、しいの実シアター芸術監督の園山土筆さんは信念をもった実演者が移住した村と一緒に劇場建設を実現した体験を語りました。また、2002年から18年まで上田市長を務め、上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館(サントミューゼ)の建設を推進した母袋創一さんは、市長として“腹を括った”という貴重な経験を話しました。「何かをやるときには推し進
める人が必要。その役割を市長として担った。文化を通じてまちの魅力づくりが可能か、人を育てられるか、という思いをもち続けていたところ、建設地の確保などチャンスが巡ってきた。まちづくりという観点から市長部局で所管し、実態を知るためにも直営で5年間運営することにした」など、設置者の思い溢れる言葉に、受講生は気持ちを揺さぶられていました。
また、ラボの開催館が企画する共通プログラムでは、「おでかけアリオス」で実施している、んまつーポスの身体表現ワークショップ(*)を体験しました。んまつーポスは、国内外での上演に加え、宮崎大学と連携してダンスのワークショップ教材を多数開発しているダンスカンパニーです。こうした座学では学べない体験型双方向性のステージラボは、2020年度も2月にiichiko総合文化センター(大分市)で開講予定です。ぜひご参加ください。
*学校体育における創作ダンス「ダンス映像作品を創ろう!」
内容:覚える→創る→撮影する→編集する→鑑賞する→興奮する→解散する
実施時間:90分
ステージラボいわきセッション プログラム表
コースコーディネーター
◎ホール入門コース
龍亜希(北九州芸術劇場プロデューサー)
◎自主事業(音楽)コース
田村緑(ピアニスト)
◎公立ホール・劇場マネージャーコース
篠田信子(富良野メセナ協会代表)
「ステージラボ」に関する問い合わせ
芸術環境部 三田
Tel. 03-5573-4066