2018年10月、札幌都心部に複合施設「札幌市民交流プラザ」(札幌文化芸術劇場hitaru、札幌文化芸術交流センター SCARTS、札幌市図書・情報館)がオープン。そのhitaruの舞台が飲食もできるライブシアターにトランスフォームした「THEATER JAZZ LIVE」が昨年12月に開催された。これは、2007年から大通公園の特設テントで行われていた「サッポロ・シティ・ジャズ」の新展開として企画されたものだ。劇場がオープンしたことを受けて、夏に札幌芸術の森で行う野外ライブと街中で行う「PARK JAZZ LIVE」(全国から約300団体が参加)、冬に劇場で行うTHEATER JAZZ LIVEという2つのプログラムに拡充。12月20日、21日、2回目となる試みを取材した。
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全面ガラス張りのプラザは、大通駅に地下道で直結する絶好の立地にあり、多くのオフィシャルスポンサーが付いている。市民文化活動・芸術文化普及拠点施設のSCARTSは、クラシック音楽・美術・舞台芸術のノウハウをもつ指定管理者の札幌市芸術文化財団による多彩な取り組みや市民活動で連日賑わっているという。「他の文化施設とも連携し、市民が幅広い表現と出会うためのサテライトになっている。ここで何をやるのが一番良いか探っている段階」とSCARTSプログラムディレクターの吉崎元章さんは言う。
hitaruは2018年9月末に閉館したニトリ文化ホール(旧北海道厚生年金会館)の後継施設で、北海道最大の2,302席を誇る。主催事業としてオペラやバレエなどの大規模鑑賞事業を展開し、オープン早々に貸館稼働はマックスになっている。THEATER JAZZ LIVEでは、舞台前面に神殿風の高い柱が聳えるオペラ幕の入り口が設えられていた。そこを通って舞台に上がると、天井高約30mの大空間の奥に映像スクリーンのあるステージ、バトンには巨大なLEDシャンデリアと32個のスピーカー、レストランのようなテーブルとイス(472席)が設置され、劇場ならではの音響や照明を駆使したスケール感のある豪華なライブシアターが出現した。
20日夜はスティーブ・ガッド率いる凄腕のジャズバンド、21日昼は大阪を拠点にしたエンターテインメントな人気若手バンドCalmeraを聴いたが、至近距離のグルーヴ感に加え、どこで聴いても音の歪みがない。満席の観客の半数以上が普段ホールに来場することの少ないミドルエイジの男性で、下手上手の飲食ブースでワインやオードブルを購入し、リラックスしながらライブをエンジョイ。協賛企業が52社もクレジットされ、ジャズという音楽を楽しむ大人のライフスタイルを劇場に持ち込むとともに、舞台空間の使い方の可能性を拓いた企画となっていた。
hitaru事業課長の髙橋秀典さんは、「保健所や消防署の許可も必要なので、劇場の管理部門、技術部門の全面協力がなければ実現しなかった」と言い、舞台技術部長の伊藤久幸さんは、「スピーカー企業と協力して綿密な音響実験をした。プロの音響技術者を招き、実際に音を聴いてもらう研修会も開いた」と胸を張る。
財団のジャズ事業を統括する右谷誠さんは、1999年に札幌芸術の森を拠点にスタートしたジャズ事業はこの20年で大きく発展したと話す。
「サッポロ・シティ・ジャズでは優勝者が海外フェスに出演できるコンテストを続けている。その優勝者たちをはじめ約100名ぐらいのミュージシャンとネットワークがある。ホテルなどで演奏するイベントも年数百回行っている。約50人が所属するジュニアジャズスクールは今期20年目になるが、この間道内のジュニアジャズを支援する『北海道ジャズの種プロジェクト』もスタートした。16年に4カ国のジュニアを札幌に招いた合宿をきっかけに国際交流事業を立ち上げ、今年6月にはマレーシアに行く。バークリー音楽大学の教授陣を招いて合宿するグループキャンプでは、特待生をバークリーに派遣しているが、そこからプロミュージシャンも育っている。12年には札幌市内のプロ17名によるビックバンド『札幌ジャズアンビシャス』も立ち上げた。これからは札幌=ジャズのブランディングを進めて、もっと国際的な広がりをつくっていきたい」
1点突破でこれだけの広がりをつくれた札幌なら、日本のジャズの新たな聖地になるのも夢ではないと感じた。
(坪池栄子)
●THEATER JAZZ LIVE
[日程]2019年12月18日~22日(7公演)
[会場]札幌市文化芸術劇場hitaru
[主催]サッポロ・シティ・ジャズ実行委員会、札幌市、札幌芸術の森(公益財団法人札幌市芸術文化財団)ほか
※期間中には札幌市民交流プラザの各所でサッポロ・シティ・ジャズの冬プログラムとして入門的なレクチャーライブ「ユニバーサルジャズライブ」、書籍等を展示した「ジャズライブラリー」、「Do JAZZ 吹いてみよう、さわってみよう」、「K.Abeジャズ写真展」、トーク「ワンドリンクジャズカフェ」など関連事業を多数開催。
*札幌市におけるジャズ事業
サッポロ・シティ・ジャズ実行委員会と公益財団法人札幌市芸術文化財団等の主催により、7つの柱で展開。①観光資源の創出(シアタージャズライブ等)、②企業・団体とのタイアップ事業(サッポロ・シティ・ジャズの関連事業として宿泊施設にアーティストを派遣する「ルスツ100デイズミュージックナイト」等)、③交流プラザでの普及体験事業(入門型のジャズライブ、ジャズサロンプランナー育成、ワークショップ等)、④芸術の森野外フェスティバル(ノースジャムセッション)、⑤市民活動の促進(市民参加型のパークジャズライブ等)、⑥次世代の育成(札幌ジュニアジャズスクール、北海道ジャズの種プロジェクト、北海道グルーブキャンプ)、⑦アートの創造(札幌市在住のプロミュージシャンによるビッグバンドプロジェクト)