一般社団法人 地域創造

石川県金沢市 金沢21世紀美術館 市民美術の日「オープンまるびぃ 2019」

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上:市民専用カウンターの前は長蛇の列
下:「現在地:未来の地図を描くために」展で展示されているクリス・バーデン《メトロポリス》

 金沢21世紀美術館(以下、21美)が2004年に開館して15周年を迎えた。同館は、金沢市の繁華街、香林坊から徒歩10分圏内、年間300万人近い入園者の兼六園に隣接。こうした中心地であることも幸いし、日本の地域美術館としては異例の年間250万人の入館者数を誇る。一概に比較できないが、ルーブル美術館が年間約1,000万人、上野の国立西洋美術館が約150万人だから、21美の入館者数がいかに多いかわかる。この集客力で注目されることが多いが、実は21美には開館当初から市民と交流してきたもうひとつの顔がある。その姿を取材するため、新しく「市民美術の日」に指定された11月3日の「オープンまるびぃ2019」を取材した。

 

 

 この日は、市民がアートを楽しみ、まるびぃに親しむ日として制定されたものだ。広場は飲食の出店やパフォーマンスが行われる「まるびぃ Art-Complex」で賑わい、15周年記念展「現在地:未来の地図を描くために」が無料になるほか、20時までの夜間開館、無料シャトルバスの運行、ガラスの外壁へのペインティングなどさまざまな取り組みが行われていた。

 普段は観光客の長蛇の列で入場もままならない市民のために、特設専用カウンターを設置。ストッキング素材で出来た巨大な繭のような空間に包まれるエルネスト・ネト、おもちゃのパーツや金属のレールでつくられたまちをミニカーが轟音で疾走するクリス・バーデン、回収した銃を楽器にしたペドロ・レイエス、昆虫でドレスを仕立てたヤン・ファーブルなどのコレクションから最先端のバイオアートまでを、大人や子どもなど多くの市民が堪能。それをこの日は総勢50人ほどのボランティアが支えていた。

 面白かったのは、市民向けに行われたギャラリートークだ。交流課のエデュケーター、展覧会を企画した学芸員、美術館の記録を担当するアーキビスト、保存修復にあたるコンサバターがそれぞれの取り組みや思いを話しながら館内や作品を案内。まさに21美をまるごと体験できる1日になっていた。

 こうした「市民美術の日」をはじめ、21美には市民と美術館の交流と関係づくりを図るユニークなプログラムがたくさんある。展覧会以外のこうしたプログラムを4、5年前に整理し、「生涯学習基盤整備事業」(キッズスタジオ・プログラム、ミュージアム・クルーズ、中学校美術部対象のまるびぃアートスクール、高校生限定・劇的!バスツアー(*1)、ボランティア事業など)と「地域文化活性化支援事業」(ダンス・演劇・音楽・映画・講座事業および共催事業、こども映画教室、オープンまるびぃ、まるびぃArt-Complex、自治区(*2)など)に位置づけて展開している。

 1999年の開館準備から携わり、オープニングで市内全小中学生4万人を美術館に招待する「ミュージアム・クルーズ・プロジェクト」(06年から全小学4年生を招待)を手掛けた黒澤伸副館長は次のように話す。

 「この美術館は、伝統文化の根強い金沢でイノベーションを興すためには現代美術館のような新しい文化が必要だと構想された。しかし、現代美術では集客が見込めないからと芸術交流館と一体で計画された。そのため当初から市民とのさまざまな交流を図るほか、兼六園から人の流れを引き込む仕掛けをつくってきたが、当初目標の30万人をはるかに超える観光客が訪れるようになり、市民には行きづらい施設になってしまった。まだ実現できていない芸術交流館としてのミッションを遂行するため、市民と直接具体的に繋がるやり方を始めた。そのひとつが出店やパフォーマンスをやりたい市民を募集してまちの広場をみんなでつくる毎週末のArt-Complexだ。美術史家のダンカン・キャメロンが1970年代に『フォーラムとしてのミュージアム』(未知のものと出会い、議論が始まる場所)について指摘したが、まだそれが実現したとは言えない。ここがいろいろな人が交流する文化の結節点になれればと思っている」

 ミュージアム・クルーズにより、9歳から28歳までの金沢市民はほぼ全員この美術館に来た計算になる。現代美術がもつ新しい価値を生み出そうとするイノベーションの息吹に触れたこの新市民たちこそ、無限の可能性を秘めた21美のもうひとつの顔なのだと思った。

 

 

(坪池栄子)

 

●金沢21世紀美術館

2004年10月9日開館。金沢城公園の周辺に立地していた石川県庁、金沢大学が移転し、空洞化が懸念されたことから、一帯を“広坂芸術街”としてまちの賑わいと新しい文化の創造を目的に構想。元金沢大学付属小中学校跡地に、妹島和世+西沢立衛/SANAAの設計により外壁がガラス張りの円筒型(直径113m)のユニークな建物が誕生(愛称:まるびぃ)。有料展示室は円筒形の中心部、周辺のドーナツ部分は無料のパブリックエリア。天井に正方形の窓を開け空の移ろいを体験するジェームズ・タレル、傾斜した壁にブラックホールを出現させるアニッシュ・カプーア、プールの水面下に人が入れるレアンドロ・エルリッヒなど、建築にあらかじめ組み込まれた有名なコミッションワークで金沢の一大観光スポットに。

 

*1 「高校生限定・劇的!バスツアー」
今年度初めて観客育成のためのパイロット事業として企画。SCOT(富山県利賀芸術公園)、コンドルズ(兵庫県立芸術文化センター)、Noism1(りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館)の公演観劇+舞台裏見学+車中トーク。高速バス・鑑賞券無料。定員30人。

 

*2 「自治区」
やりたいことができる自立した場所をつくるプロジェクト。そのひとつとして金石大野地区に古い物置を改修したスタジオを開設。地域住民とアーティストが出会い、庭づくり、パーティー、ワークショップなどさまざまな活動を展開中。

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