一般社団法人 地域創造

北海道白老町 飛生芸術祭2019「僕らは同じ夢をみる─」

 北海道白老町の森の中で約33年間続く旧飛生小学校の木造校舎を活用した「飛生アートコミュニティー」(*)。この地を訪ねるのは、第3回飛生芸術祭の取材(雑誌「地域創造」30号)で訪れた2011年以来だ。昨年、10回目を祝うはずが、胆振東部地震のため中止。今年復活した様子を取材するため、9月9日、10日に現地を訪ねた。 誰もが子ども時代にタイムスリップするような森や木造校舎の佇まいは、少しも変わっていなかった。オープニングのキャンプ&アート&ライブのオールナイトイベント「TOBIU CAMP」(7日、8日)が終わり、落ち着きを取り戻した校舎や森には、奈良美智が教室を丸ごと子どもたちとのアトリエにしたインスタレーション、淺井裕介が体育館の外壁に描いた巨大泥絵、富士翔太朗が子どもたちとつくった大きな球体の紙製ステンドグラスなどが彩りを添えていた。

p12.jpg
淺井裕介の巨大泥絵

 驚いたのは参加アーティストの顔ぶれが実に多彩に豊かになっていたことだ。奈良は3年前に飛生の森づくりを見学して以来、毎年約1カ月滞在しているという。「ここでは“ここでできることをやる”というのがコンセプト。教室で僕が描いていると子どもたちが来て一緒に描き始める。久しぶりに子どもを見ながら描いた」と奈良。校舎前の日溜まりで地元の人たちと談笑している姿が本当にリラックスしていた。

 噂を聞いて北海道旅行の途中で立ち寄った淺井、幼稚園の頃まで白老に住んでいたという羊屋白玉(指輪ホテル芸術監督)、町民とのダンスづくりを行っている札幌出身の平原慎太郎(Organ Works主宰)…。なかでも「アイヌの友達の家で踊りを見たのが原風景」という羊屋は、教員住宅に滞在し、ウサギに扮した子どもたちとの野外パレードや音楽を楽しみ、白老を学ぶ連続講座を企画するなど、町との長期的な関わりを念頭においた活動を始めている。
 誰もが自分の意志でやって来て、森や建物やアイヌの文化が根付いたこの地がもつ不思議な魅力に共鳴し、作品を介した“町民”になっている。ただ作品をつくる・発表するだけではない関わりのベースにあるのが、飛生アートコミュニティーを主宰する国松希根太と仲間たちが2011年から始めた校舎裏の森を整備する「森づくり」だった。
 「毎月1〜2回、倒木の整理などの作業をしている。地震直前の台風で作品を展開していた樹が倒れたが、木こりの友人からロープで引き揚げる方法を学んで蘇生させた。町内外の森づくりの仲間が増え、祭のスタッフにもなってくれている」
 こうした仲間たちとの関係が浮き彫りになったのが、昨年の胆振東部地震だった。芸術祭開催の2日前、みんなが準備に集まっていたときにそれは起きた。
 「校舎も作品も無事だったが、空港閉鎖、地震対策優先で仮設トイレも発電機も借りられない。芸術祭は中止、でも町の人と一緒にやる予定だった学校外での催しは実施することを即座に決めた。停電していたが、芸術祭のための食べ物もテントもあった。何より仲間がいる。みんなで語り合いながら、濃密な時間を過ごした。札幌では孤立していて寂しいと、飛生までやって来た仲間もいた。お金を集めて規模を大きくしたりするのではなく、こうやって仲間と集い、創作して楽しい時を過ごす…これが僕たちの芸術祭の原点だ、これでいいんだと改めて実感した」(国松)
 一方、芸術祭の取り組みを地域に広げるまちなかプロジェクト「ウイマム文化芸術プロジェクト」「まちと、ひとと、アート。」(左欄参照)も昨年から立ち上がった。2011年から芸術祭の運営に参加してきた木野哲也がディレクションしたものだ。
 「こうしたプロジェクトではアーティストが町に滞在し、町民の言葉に耳を傾け、歴史や文化を掘り起こし、町民自らがそれを楽しむことを大切にしている。2020年には国立アイヌ民族博物館を中心にした『ウポポイ(民族共生象徴空間)』がオープンするが、多くの観光客が通り過ぎて行くだけでは意味がない。まずは白老の魅力を自分たちで見つめ直しておく必要があると考えた」
 国松は今年42歳。初めて会ったときから歳を重ねたが、森は変わることなく美術や人の温もりを見守っている。飛生は、森に共鳴する人たちを増やし、みんなで文化を介して「同じ夢を見る地」としてそこにあった。

(ノンフィクション作家・神山典士)

 

●飛生芸術祭2019「僕らは同じ夢をみる─」
[主催・企画・制作]飛生アートコミュニティー
[会場]飛生アートコミュニティー(旧飛生小学校)、飛生の森
[会期]2019年9月7日~15日
[出展作家]淺井裕介、石川直樹、国松希根太、富士翔太朗、奈良美智ほか
※7日、8日は有料のオールナイト・アート&ミュージック&キャンプ・イベント「TOBIU CAMP2019『森と人との百物語』」を実施。校舎と森の中の作品展示に加え、牧草地を開放したキャンプ、校庭の出店、奈良美智と仲間たちによるライブ、キャンプファイヤーを囲んだウポポ合唱、川村亘平斎による影絵パフォーマンス、指輪ホテルと子どもたちによるパレードなどを展開。
※同時期に白老町内各所で「ウイマム文化芸術プロジェクト2019」(「白老の木彫り熊とその考察展」など)、「まちと、ひとと、アート。」(地域とアーティストが関わる滞在型の催しとして地域の人からの聞き取りでダンスをつくるOrgan Works「町の屋根」、地元の和菓子をリサーチした音楽×朗読「雁月☆泡雪」、羊屋白玉がコーディネートした連続出前講座「トビウ小7年2組 萩野篇」)、白老に伝わる神話をモチーフにした作品に取り組む「Sirkio Project」を実施。

 

*飛生アートコミュニティー
1986年開設。白老町の牧場地帯にあった飛生小学校の閉校に伴い、札幌在住の国松明日香(彫刻家)、伴節夫(造形作家)ら数人の芸術家集団が教職員住宅に住み込み、木造校舎・体育館をアトリエにする芸術家村「飛生アートコミュニティー」を共同運営。2002年に明日香の息子である希根太が移住(現在は札幌在住)。仲間と共に町から借り受けて引き継ぎ、アトリエとして活用するとともに地域住民などと森づくりと飛生芸術祭を展開。

 

カテゴリー