一般社団法人 地域創造

ステージラボ富士見セッション報告

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左上:ホール入門コース「アウトリーチを体験しよう」(BLACK BOTTOM BRASS BAND(BBBB)によるアウトリーチ体験)
右上:自主事業コース「自己紹介、意識共有」(多田淳之介さんの講義)
左下:自主事業コース「地域のプログラムを考えるWS[2]~地域を見る~」(多田さん、泊篤志さん、白神ももこさんと近隣の難波田城公園を散策)
右下:共通プログラム「本気の文化による街作り」(平田オリザさんの講義)

 令和最初のステージラボは、全国に先駆けて芸術監督制を採用し、平成19(2007)年度には地域創造大賞も受賞している富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ(2002年開館)を会場に開催されました。ホール入門コースと自主事業コースの2コースで、公立ホールでの経験豊富なアーティストがコーディネーターを務めました。

参加者の“面白い”を深掘りする~ホール入門コース

 ホール入門のコーディネーターは、公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)登録アーティスト(2004・2005年度)をきっかけに、15年にわたり全国の公立ホールとさまざまな事業を展開してきたBLACK BOTTOM BRASS BAND(BBBB)のリーダー、トロンボーン奏者のヤッシーさんです。「各地の公立ホールで仕事をして思うのは、大変なことがあっても人生を面白がっている人と仕事をするのは楽しいということ。まずは遊んで、心の奥にあるそれぞれの面白いという気持ちを深掘りし、それを躍動(スイング)させるようなプログラムを考えた」とヤッシーさん。
 ホールの先輩職員である田澤拓朗さん(上田市交流文化芸術センター)による入門講座の後、ヤッシーさんによるイメージトレーニング(身体においしい空気を入れて身体を開き、スイングを楽しむ)やBBBBによるカーニバルのようなアウトリーチ体験、そして同じく登録アーティストのピアニスト・白石光隆さんによる目からウロコのワークショップが行われました。

 白石さんは、楽器を理解するためのピアノ解体ショーなどを行った後、演奏家の身体性について知るワークを展開。「ピアノのような楽器は西洋人に使いやすくできている。例えば農作業では、日本人はクワを手前に引くときにリズムがあるが、西洋人はスコップを土に立てるときにリズムがある。歩行では、日本人は足を下げるとき、西洋人は足を上げるときにリズムを感じる。ピアノを弾くには西洋人のようなリズムにならなければならない」という説明の後、みんなで歩きながらリズムの違いを体感しました。

 このほか、面白さのみ追求した企画・15人以下の参加者を想定した小規模企画をグループごとに考えるワークショップでは、離島をアーティストと一緒に青色に染める「青フェス」「方言ラップ」、アーティストがあえて落とした物を捜す「落とされ物」など、参加者の想像力がスイングしたおもしろ企画が目白押しで、とても楽しい発表会になりました。

地域のホール運営に携わるアーティストが講師~自主事業コース

 自主事業コースのコーディネーターは、昨年度までキラリ☆ふじみの第3代芸術監督を務めていた演出家の多田淳之介さんです。講師には、松井憲太郎キラリ☆ふじみ館長のほか、第4代芸術監督を共同で務める劇作家・演出家の田上豊さんとダンサー・振付家の白神ももこさんに加え、北九州芸術劇場ローカルディレクターの泊篤志さんという地域のホール運営に携わっているアーティストを配置。参加者たちはタイプの違うアーティストとじっくり交流しました。

 多田さんは、「僕目線だけでなく、田上、白神、館長の4者4様の見方があることを感じてもらいたかった。地域のホールの芸術監督を務めて、僕は劇場での公演と劇場の外で起きていることを同等にとらえられるようになった。アーティストと地域をマッチングするのがホールの仕事だということを参加者に伝えたかった。アーティストとホールは一緒に育っていくものであり、その両輪が上手く回ればお互いに成長できる希望がある」と話していました。

 なかでも面白かったのが、北九州の学生演劇から始まった演劇と劇場にまつわる半生を職業人の歩みとして振り返った泊さんの講義です。東京でのサラリーマン生活を経てUターン。「飛ぶ劇場」の劇作家・演出家として演劇活動を再開するとともに、演劇祭事務局で臨時職員、劇場開設プレイベント事務局で嘱託職員、北九州芸術劇場学芸係で専門嘱託などを務め、その中で他ジャンルとコラボした創作やワークショップ、バックステージツアー、リーディング、高校演劇、演劇人育成、アウトリーチ、市民参加劇、まちなかイベントなどを経験してきました。泊さんは、「地域で演劇を続けるというのは離島の医者みたいなもので、何でも屋であることが求められる。劇場の仕事のひとつは地元演劇人といろいろな人を出会わせること。そこに面白いことが生まれる可能性がある」と話していました。

平田オリザの挑戦~共通プログラム

 共通プログラムでは、キラリ☆ふじみの初代芸術監督であり、その後もアドバイザーとして長く関わっている平田オリザさんを講師に迎えました。平田さんはご存じのとおり、演劇人として地域の文化によるまちづくりを推進してきたフロントランナー。今年度中に主宰する劇団「青年団」の拠点を自らが文化政策担当参与を務める豊岡市に移転し、2021年4月に開校予定の演劇による人材育成を行う兵庫県立「国際観光芸術専門職大学(仮称)」の学長に就任する予定です。

 2時間にわたる講演は、人口減少社会への問いかけから始まり、富士見市の取り組み、豊岡市の演劇による小中学校教育改革など多岐にわたりました。特に時間を割いて解説されていたのが、2020年から始まる大学入試改革です。「2021年春から行われる大学入学共通テストで『知識・技能』『思考力・判断力・表現力』に加え、『主体性・多様性・協働性』が評価されるようになる。インターネットの時代には知識(認知スキル)ではなく、学ぶ力、議論する力(非認知スキル)が問われるようになる」と言い、こうした力を養うための演劇による教育改革について力説されていました。最新情報満載の講義に、ホール入門コースでは急遽「平田オリザを振り返る」という時間が設けられるほど刺激的な講義となりました。

 

コースコーディネーター

  • ホール入門コース
    ヤッシー(トロンボーン奏者/BLACK BOTTOM BRASS BAND(BBBB)リーダー)
  • 自主事業コース
    多田淳之介(演出家/東京デスロック主宰/前富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ芸術監督)

 

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