東北新幹線の新花巻駅から車で10分ほど。美しい田園が広がる花巻市東和町(2006年1月花巻市と合併)の丘に萬よろず鉄五郎記念美術館はある。萬鉄五郎(1885-1927)は、同町の土沢地区に生まれ、大正から昭和初期にかけて前衛的な作風で日本近代美術に大きな影響を与えた画家だ。同館は、1984年に地元住民の熱烈な運動の末に建てられ、以後、住民と美術館の二人三脚で萬の顕彰と地域の活性化を行ってきた。開館から35年を迎えた現在を取材した。
(アートジャーナリスト・山下里加)
萬鉄五郎記念美術館35周年企画「萬鉄五郎と歩んだ35年」
[主催]萬鉄五郎記念美術館
[会期]2019年4月20日~6月30日
萬鉄五郎記念美術館の歩み
1978年に町の有志で「萬鉄五郎を偲ぶ会」が開催され、翌年、正式に萬鉄五郎記念館建設委員会発足。同会では80年から町内個別募金を募り、最終的に町内外から約5,300万円を集め、建設資金として東和町に寄付。だが、町は建築推進派と時期尚早派に分かれて激しく対立し、町長選に波及。わずか30数票差で推進派が勝利したが、計画を縮小し、1階を現代美術ギャラリー、2階を記念館として84年5月1日に開館。85年に、東和町に移住してきたミュージシャンの姫神がコンサートを行い、収益金を作品収集のために寄附。86年には時期尚早派の町長が就任したが、活動を充実させる方針を取り、事業予算も増額した。90年に博物館法上の登録博物館認定。91年には、元岩手日報社の記者で萬の研究者でもある千葉瑞夫氏が館長に就任。92年、萬の生家にあった八丁土蔵を美術館横に移築し、ギャラリーとハイビジョンミュージアムとして活用した。95年、名称を萬鉄五郎記念美術館と改称。