一般社団法人 地域創造

「市町村長特別セミナー」報告

「市町村長特別セミナー」報告~全国の市町村長等51名が参加

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上:平田オリザさん/下:首長もヴァイオリン演奏を体験された早稲田姉妹によるミニコンサート

 毎年全国の市町村長等を対象に、文化・芸術による地域づくりへの理解を深めていただくために開催している「市町村長特別セミナー」が、4月18日、19日に千葉市の市町村アカデミーで開催されました。今回は1日目に財団の事業紹介およびその一環としておんかつ支援登録アーティストによるミニコンサートを実施し、2日目に当財団理事であり、演劇界のオピニオンリーダーとして各界で幅広い活躍をされている平田オリザさん(劇作家・演出家、青年団主宰)による講義が行われました。

 

  • ミニコンサート

 今回登場したのは、ヴァイオリンの早稲田桜子さん(平成18・19年度登録アーティスト)とピアニストの早稲田眞理さん姉妹です。桜子さんはおんかつを契機に全国で数多くのアウトリーチを実践してきたエキスパート。名曲『愛の挨拶』に始まり、ヴァイオリンの一番太い弦(G線)のみを使って演奏する『G線上のアリア』、多彩な奏法が楽しめる『中国の太鼓』、一番好きだというバッハの『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番よりアダージオ』など計6曲を披露しました。
 一番細いE線とG線の聞き比べ、小学校ではクラス全員にやってもらっているというヴァイオリンの演奏体験(2名の首長が実際にチャレンジ)など、ナチュラルな人柄で市町村長との壁を取り払い、音楽によるリラックスした交流を実現。最後はみんなの笑顔で締めくくるというアウトリーチの効用を実感したパフォーマンスになりました。

 

  • 「本気の文化によるまちづくり~豊岡市の挑戦」

 今年度には劇団の拠点を兵庫県豊岡市に移すことを発表している平田さんからは、1時間半にわたる示唆に富んだ講義が行われました。特に時間を割いて解説されたのが、2020年から始まる大学入試改革についてでした。四国学院大学で学長特別補佐を務め、2010年度に演劇コースを開設した平田さんのリアルな取り組みに市町村長は熱心に耳を傾けていました。

 「2021年春から行われる大学入学共通テストで『知識・技能』『思考力・判断力・表現力』に加え、『主体性・多様性・協働性』を評価する準備が始まっています。四国学院大学は小さな大学ですが、すでに前倒しで改革しています。例えば、入試ではチームに別れてレゴブロックで巨大な艦船をつくる。どういう艦船が出来たのかではなく、つくる過程で自分の主張を論理的、具体的にメンバーに説明できたかや、自分の役割を自覚して担えたかを見ます。本四架橋のうち2本を廃止するという要請に対して、受験生が利害の対立する各県代表になり、コンピューターで情報収集しながら議論する入試問題もあります。うちだけでなく、学ぶ力、友達と一緒に議論する力を問う入試を始めているところがたくさんあります。大学の授業もアクティブラーニングにシフトすることが求められていますが、それに学生が対応できるには、フランスの社会学者・哲学者のピエール・ブルデューのいう文化資本のひとつ、身体的文化資本(センス、マナー、コミュニケーション能力、美的感覚など)が重要になる。しかし、これは子どもの頃から培わないと身に付きません。都市と地方では、この身体的文化資本の格差が開く一方です。地方ほど、文化政策と教育政策を一体にして格差を解消する努力をする必要があります。演劇はこうした身体的文化資本の育成にとても有効だと考えています」

 こうした現状認識に立ち、平田さんは文化政策担当参与を務める豊岡市への移住を決めるとともに、演劇による人材育成を行う「国際観光芸術専門職大学(仮称)」の構想に学長予定者として関わっており、2021年4月の開校を目指しています。
 「これまで豊岡市では全小中学校で演劇によるコミュニケーション教育を行ってきましたが、但馬地域の全高校でもスタートします。地域とともにある大学として学生たちはフェスティバルで実践的に学ぶなど、地域と積極的に関わります。地域で人口が減少するのは、仕事がないからではなく、つまらないからです。教育政策と文化政策を一体でやり、面白いまち、出会いのあるまちをつくり、Iターンの切り札にしたいと思っています」 講義の後、市町村長の皆さんが上気しているように感じるほど、心に響いた講義となりました。

「市町村長特別セミナー」に関する問い合わせ

芸術環境部 仕田
Tel. 03-5573-4078

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