一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.44 「若年層の文化行動」[3] クラシックを拡げていくためには

講師 山名尚志
(株式会社文化科学研究所代表)

 2017年に行われた(公財)東京都歴史文化財団による首都圏の若年層(18〜39歳)調査では、クラシック音楽に的を絞った設問も複数用意されている。今回は、第2段階の3,000人対象(過去1年間に何かしら文化イベントに行ったことがある層)の調査から、若年層をクラシック・コンサートに連れて行くために参考となる結果を紹介するとともに、そこから導き出される方向性を、筆者なりの解釈で示していきたい。

結果データの紹介と解釈1~若年層全体の半数近くが「興味あり」

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 1年間に何かしらの文化イベントに行っている首都圏の若年層にクラシック音楽についての興味・関心を聞いてみると、「興味がある」16.2%、「まあ興味がある」29.2%の合計45.4%が興味をもっており、潜在的な関心はかなり広くあることがわかる。では実際にクラシックコンサートに行っているかというと、「興味がある」の16.2%に限ってみても、年に1回以上行っている比率は48.5%とかなり限られている。
 では、なぜ行かないのか。行かない理由の1位は、興味がある層で、「コンサートの情報が不足している」(25.9%)、まあ興味があるという層で「いっしょに行く人がいない」(26.9%)。行きたくても、気軽に行ける環境が整っていないという声が多い。この結果から考えると、潜在的なクラシック関心層に対し、これまでにない情報提供や入り口企画などを通じて、コンサートに行く最後のハードルをなくしていくこと。これが、まずは手を付けるべき方向性ということになるだろう。

結果データの紹介と解釈2~クラシックは「伝統」文化

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 クラシックに興味がある人とない人の差はどこにあり、それを埋めるためにはどうすればいいのだろうか。今回の結果データをみると「クラシックを好きになったきっかけ」という問いに対する回答では、1位「親も好きだった」、2位「子どもの頃に生演奏を聴いていた」といった生育環境に関係するものが最も高く、次いで「メディア接触」、最後に「友人からの接触」となっている。メディアや友人ではなく、親からの継承が基本ということは、クラシック音楽が、同時代文化というより歌舞伎などと同じ伝統文化に近いものとなっていることを示している。2018年は明治維新150周年の年に当たるが、明治期に入ってきたクラシックも、150年を経て、母国欧州だけでなく、日本においても伝統文化のひとつとして定着した、ということになろうか。
 これを踏まえるなら、クラシックの関心層を増やす手立てとしては、まずは親や祖父母のクラシック好きからの家庭内継承をサポートすること、あるいは地域単位で「クラシックを継承する」伝統をつくり育てることが有効ということになる。他の伝統文化と同様、継承のための仕組みづくりが重要なのである。

結果データの紹介と解釈3~クラシックの楽器と楽曲は異なる

 伝統文化としての継承は、時間がかかるし、物心が付いた後の年齢では手遅れとなる可能性もある。では、いま関心がない、薄い人をすぐにクラシックに惹きつけることができる手段はないだろうか。これについては、クラシックに興味が薄い・ない人を対象とした「興味が持てそうな企画」についての質問の結果データが参考になる。
 データを見ると、1位が「ディズニーやジブリのオーケストラ演奏」、僅差で2位「ゲーム・アニメ・映画曲のオーケストラ演奏」、3位が映画の画面と一緒にオーケストラが演奏する「シネマ・コンサート」となり、クラシックの楽曲を使わない企画に人気が集まった。逆に、クラシックの楽曲を企画のメインとした「名曲のさわりを選んで聴けるフェスティバル」や「子どもと行けるクラシック」などの順位は低い。
 この結果を元に解釈する限り、クラシックに関心がない人は、クラシックの“楽曲”に関心がないだけで、オーケストラの演奏など、クラシックの“楽器”による演奏への抵抗があるわけではないと考えられる。実際、クラシックの楽曲ではないオーケストラ公演は、近年大きな成功を収めており、市場が拡大している。
 では、楽器の演奏を好きになったら、楽曲も好きになるのだろうか。この結果データを見ただけではそこまでの検討は難しいが、クラシックが伝統文化となっているらしいことを考えると、クラシック以外の楽曲のオーケストラ演奏に感動したからといって、それがすぐにクラシック好きに繋がっていくとは言い切れないのではないか。クラシックの普及と、クラシック楽器演奏の普及は、筆者の見解としては、分けて考えておいたほうがよさそうだ。

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●公益財団法人東京都歴史文化財団「首都圏若年層の文化行動・文化意識」
[調査方法]ウェブ調査パネルを用いたインターネット調査
[調査対象]1都3県居住者の18~39歳の男女
•プレ調査(本調査の条件に則った条件のサンプルを抜き出す調査)10,000サンプル
•本調査(下記①~③の3つの条件に則ったサンプルに対する調査)3,000サンプル
①過去1年間に文化関係の何らかのイベントに参加、②都立文化施設平均に合わせてサンプル数の都内・都外比率を設定(神奈川・千葉・埼玉の比率については人口比例)、③男女年齢比率については、各都県における比率を設定
[調査日程]2017年10月10日~19日
[調査項目]
•プレ調査=性別/年齢/居住地域/過去1年間に行った文化芸術イベント
•本調査=《属性》同居家族/職業/普段利用している街、《生活行動》趣味/関心分野/写真撮影の状況、主な目的、《文化施設》行ったことのある施設/施設利用頻度/行かない理由/文化施設に欲しい設備やサービス/欲しい付帯施設やイベント、《文化への興味》各ジャンルへの興味度合い/先端カルチャーの内容/会場のイメージ/クラシックコンサートに行く回数/行かない理由/クラシックが好きになった理由/クラシック関連イベントへの興味/好きな時代/好きな歴史文化の楽しみ方、《情報源》文化イベントの情報源/SNSの利用状況と利用しているSNS名/閲覧している新聞・雑誌/閲覧しているウェブサイト
[分析手法]通常の単純集計、クロス集計に加え、多様な文化・趣味・消費行動から若年層の行動特性を抽出していくため、多変量解析を実施

 

●制作基礎知識シリーズVol.44 「若年層の文化行動」[1]
●制作基礎知識シリーズVol.44 「若年層の文化行動」[2]

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