一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.44 「若年層の文化行動」[2] 文化好きな若者たちの姿を探る

講師 山名尚志
(株式会社文化科学研究所代表)

 2017年に行われた(公財)東京都歴史文化財団による首都圏の若年層(18~39歳)調査の結果を紹介する第2弾として、今回は、第2段階の3,000人対象(過去1年間に何かしら文化イベントに行ったことがある層)の調査から、文化イベントに行っている若年層の行動特性に係わるデータ部分をより詳細に紹介するとともに、筆者の発見をお伝えしていくこととしたい。

結果データの紹介~9つのクラスター

 今回の調査では、第2段階で得られた3,000人分の詳細なデータを元に、文化イベントに行っている若者層を9つに分類している。この9つのクラスターは、文化行動の量から、大きく3つに分けられる。まず、年間に文化施設に行っている回数が平均(年間5.9回)より高く、また、35の文化イベントのジャンルのほぼすべてで平均よりも参加率が高い高関心層(全体の17.9%)。ここには、文化イベント自体が趣味となっている「文化芸術派」(男女ほぼ同率)と、街遊びの延長線で文化イベントを楽しんでいる「アミューズメント派」(やや男性寄り)、知識・教養好きなので文化イベントも好きな「新聞・雑誌派」(やや女性寄り)の3つのクラスターが所属する。
 次に、年間に文化施設に行っている回数が平均並以下で、ただし幾つかのジャンルでは文化イベントの参加率が並以上となっている中関心層(40.9%)が続く。この層の特徴は男女の差が明確なことにあり、若年女性中心でSNSが大好きな「SNS派」、やや年齢が上の女性中心でアパレルやアクセサリーが興味の中心の「ファッション派」、男性でSNSよりウェブサイトが好きな「ウェブサーフィン派」、PC好き・技術系中心・男性ばかりの「情報機器派」の4つが並ぶ。
 最後が、文化施設に行っている回数が平均未満、平均より参加率が高い文化イベントのジャンルもあまりない低関心層(41. 2%)である。ここには、国内観光旅行だけは好きな「旅好き派」(やや女性が多い)と、文化イベントだけでなく、趣味も、街遊びも含めて全体的に無関心な「無関心派」(男女半々)が入ってくる。

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結果データからの知見1~文化マーケットの中心を取る

 上記の東京都歴史文化財団調査の結果データから文化施設の集客を考えるなら、まず攻めるべきは高関心層である。この層は、人数的には17.9%と2割を切るが、文化施設に行く頻度は高いため、施設市場としては全体の31.3%を占める。特に「文化芸術派」は年間20.5回も劇場や美術館に来訪しており、完全に文化の市場リーダーとなっている。
 高関心層の第一の特徴は、ジャンルに好き嫌いがない、という若年層の特徴が最も強く出ていることだ。もう一つの特徴として、先端のアートやカルチャーへの興味が非常に高い、ということも指摘される。結果データを見ると、「文化芸術派」の89. 4%を筆頭に、他のクラスターも7割内外の人が高い関心をもっている。この傾向は、中関心層で先端的なアートやカルチャーに関心をもつ比率が6割を切り、低関心層では3~4割しかないことと比較すると、非常に特徴的である。ここから判断するなら、特定のジャンルに突っ込むのではなく、クロスオーバー的な仕掛けでエッジの立った企画を打ち出す方向性が有望だ。これが彼ら、彼女たちを惹きつける大きな武器になる。
 幸いなことに、この層では、どのクラスターでも、SNS等のデジタルなメディアだけでなく、新聞や雑誌への接触が多く、音楽専門誌や美術誌、カルチャー系の雑誌もよく読んでいる。活字好きな層なのである。これは、大きな広告・宣伝に頼ることなく、ポイントを突いた広報を行い、面白い記事を、ウェブ・新聞・雑誌に出してもらうことで、集客が可能だということを意味している。
 筆者の見る限り、高関心層の集客は、企画と広報の工夫次第。多額の費用を掛けずとも、文化マーケットの中心にいる高関心の若年層の集客は、充分に可能と考えられる。

結果データからの知見2~中・低関心層へのアプローチ

 では、中関心層以下へのアプローチはどうだろうか。中関心層の特徴は、先に述べたように、男女の差が大きいことに加え、ジャンルへの興味が、ポップス・ロックのコンサート、ミュージカル、アニメ・声優系イベント、マンガ系イベントなど、いわゆる商業的な分野に偏りがちなことにある。しかも、女性中心のファッション派はアニメ系・マンガ系に興味がない、男性中心の情報機器派は演劇にもミュージカルにも興味がなく、アニメ・ゲーム系に関心が集中している等々、嗜好としてもかなり男女差が出ている(ただし、20歳代までの女性が主体のSNS派では、アニメやマンガへの興味・関心も高い。同じ女性でも、年齢により、いわゆるオタク系の文化への態度について、大きな差が出ていることも面白い)。また、SNSやウェブサイトの閲覧は多いものの、新聞や雑誌の閲読はかなり下がってくる。
 ここで出てきている中関心層の結果データ、メジャーで商業的な文化イベントが好きなこと、男女で嗜好の差があること、SNSやウェブ媒体はよく利用しているが、新聞・雑誌はあまり読まないことは、筆者の見るところでは、いずれも一般的な若者のイメージに近い。だとすると、こういった層を文化施設に連れてくるためには、企画自体そのものにメジャーな演者・奏者を組み込むなど、かなり大がかりな、つまりはコストがかかる準備が必要となってくる可能性がある。公立文化施設が取り組むべき自主事業というより、民間の文化市場による企画として、むしろ貸館事業のターゲットとみなしたほうが妥当ではないか。
 さらに低関心層となると、文化に限らず趣味や余暇活動全体に消極的であり、施設に来てもらうにはかなりのハードルが存在する。また、ウェブ・SNS・新聞・雑誌等すべてのメディアに対して接触が少なく、相当大きな告知を打たなければ、情報もなかなか届けられない。
 効率を考えるのであれば、若年層へは、まずは高関心層からアプローチし、低関心層には全く異なる場を中心に考えるということなのかもしれない。

●公益財団法人東京都歴史文化財団「首都圏若年層の文化行動・文化意識」
[調査方法]ウェブ調査パネルを用いたインターネット調査
[調査対象]1都3県居住者の18~39歳の男女
・プレ調査(本調査の条件に則った条件のサンプルを抜き出す調査)10,000サンプル
・本調査(下記①~③の3つの条件に則ったサンプルに対する調査)3,000サンプル①過去1年間に文化関係の何らかのイベントに参加、②都立文化施設平均に合わせてサンプル数の都内・都外比率を設定(神奈川・千葉・埼玉の比率については人口比例)、③男女年齢比率については、各都県における比率を設定
[調査日程]2017年10月10日~19日
[調査項目]・プレ調査=性別/年齢/居住地域/過去1年間に行った文化芸術イベント
・本調査=《属性》同居家族/職業/普段利用している街、《生活行動》趣味/関心分野/写真撮影の状況、主な目的、《文化施設》行ったことのある施設/施設利用頻度/行かない理由/文化施設に欲しい設備やサービス/欲しい付帯施設やイベント、《文化への興味》各ジャンルへの興味度合い/先端カルチャーの内容/会場のイメージ/クラシックコンサートに行く回数/行かない理由/クラシックが好きになった理由/クラシック関連イベントへの興味/好きな時代/好きな歴史文化の楽しみ方、《情報源》文化イベントの情報源/SNSの利用状況と利用しているSNS名/閲覧している新聞・雑誌/閲覧しているウェブサイト[分析手法]通常の単純集計、クロス集計に加え、多様な文化・趣味・消費行動から若年層の行動特性を抽出していくため、多変量解析を実施

 

●制作基礎知識シリーズVol.44 「若年層の文化行動」[1]

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