邦楽地域活性化事業は、地域創造の支援により都道府県・政令指定都市(もしくは設置したホール)が主催し、市町村ホール等と連携して地域に邦楽の魅力にふれるとともに、ノウハウを学ぶ機会を提供する事業です。和楽器の体験等が義務教育化され、また2020年東京オリンピック・パラリンピック文化プログラムにおいて日本の伝統文化への関心が高まっていることから、公立ホールでも一層の取り組みが求められています。
今年度は、財団設立40周年を迎える公益財団法人ひろしま文化振興財団の主催により、廿日市市(廿日市市さいき文化センター)、東広島市(東広島芸術文化ホール くらら)、福山市(ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ)で実施されました。8月に関係者全員による全体研修会を実施した後、9月に若手演奏家3 組(計9人)が4日間のアウトリーチ・プログラム手法開発研修会を行い、10月から3市で地域交流プログラム(小学校へのアウトリーチおよびホール公演)を実施しました。今回のレターでは、各市での取り組みの模様をご紹介します。
思い入れのある楽曲を伝える~廿日市市
邦楽活性化事業ではコーディネーターから推薦を受けた演奏家(リーダー)が新たにアンサンブルを組んで事業に取り組みます。廿日市市を担当したのは、平成28年度邦楽活性化事業にも参加した経験をもち、日本芸能実演家団体協議会(芸団協)が実施している「キッズ伝統芸能体験」の講師も務めたことのある山田流箏曲演奏家の森田博代さんが、東京藝術大学の同窓である尺八演奏家の見澤太基さんと箏曲演奏家の山下紗綾さんと組んだチームです。
森田さんが好きだという『秋篠寺』(秋篠寺の元住職が四季を詠んだ短歌六首に中田博之が作曲したもの)をプログラムの中心にして、「自分の好きなものに出合うこと、好きなものに気づくことの素晴らしさ」を子どもたちに伝えるアウトリーチを展開しました。和楽器の紹介から始まり、わかりやすい情景描写などの説明を入れながら箏歌の魅力をアピール。
森田さんは、「地域の方々にとって新しいものを伝える体験ができたのではないかと思っています。教室という小さな空間で子どもたちと向き合い、その反応を受け取りながら行うアウトリーチは、演奏家も育ててもらえる貴重な機会だと実感しました」と振り返っていました。
地元の作曲家に新曲を委嘱~東広島市
東広島市を担当したのは、こちらも2度目の邦楽活性化事業参加でハープやヴァイオリンなど洋楽器とのユニットでも活躍する生田流箏曲演奏家の喜羽美帆さんがリーダーとなった、篠笛の小泉なおみさんと箏曲の岡戸朋子さんとのチームです。二十五絃箏・十七絃・胡弓・篠笛という珍しい編成で、喜羽さんは「目に見えない感情的なもの、抽象的なものを子どもたちにどう伝えるか」を念頭に、「音で見る、音で感じる」をアウトリーチのテーマにしたと言います。
その核となったのが、広島県呉市出身の作曲家ミヤケリョウさんに広島の空気感、故郷の森をイメージして委嘱した新曲『森羅の瞬き』でした。コーディネーターの谷垣内和子さんとメンバーが話し合いを重ねてつくり上げたアウトリーチプログラムは子どもたちの反応も良く、「演奏家が真剣に向き合うことで子どもたちにも伝わる」ことを実感したとか。
また、2016年に開館したばかりの東広島芸術文化ホール くららで実施したワークショップでは、会館の名前にちなんで「くららでさくら」をテーマに『さくらさくら』のメロディーと、ホール担当者が作曲した短い旋律を組み合わせた即興曲の作曲にチャレンジ。参加者全員で合奏する邦楽らしからぬ面白い試みも行われました。
歌舞伎音楽の“いろは”を伝える~福山市
福山市を担当したチームのリーダーは、古典から現代まで新しい邦楽のあり方を求めて多彩な分野で活躍し、海外公演も多い日本音楽集団と和楽団煌に所属する三味線演奏家の簑田弘大さんです。
東京藝術大学卒業生を中心にした長唄東音会にも所属する簑田さんは、「歌舞伎音楽」の魅力を伝えたいと新保有生さん(能管/篠笛)と都築かとれさん(三味線)とチームを編成しました。楽器の特徴を紹介するとともに、虫や動物の鳴き声、川の流れを表す情景を描写する長唄三味線の魅力をアピール。歌舞伎十八番の『勧進帳』を取り上げ、登場人物をパネルにして芝居仕立てであらすじを紹介した後、長唄の歌詞を書き出してわかりやすく解説。小学生が飽きることなく歌舞伎の世界に親しめる工夫がなされていました。3人のみでの『勧進帳』の披露でしたが、子どもたちは迫力のある演奏に魅了されていました。
アウトリーチが実施された福山市立旭小学校の和田亘校長は、「音楽のみならず、子どもたちに本物を触れさせたいと思っています。別の能楽体験事業で舞台に上がる経験をしたことのある子どもたちにとって、今回の歌舞伎を題材にしたプログラムは身近でかつ新鮮な内容だったのではないでしょうか。伝えるために様々な趣向が凝らされており、子どもたちはもちろんのこと、教師にとっても貴重な時間になりました」と振り返っていました。
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1月26日には、広島県民文化センターで財団設立40周年記念の一環として3組9名の演奏家が出演するガラコンサート「和音響演」が予定されています。各チームによる演奏に加え、今回のために広島大大学院の徳永崇准教授に編曲を委嘱した『春の海』で合同演奏を披露します。さまざまなチャレンジができる事業として邦楽活性化事業の取り組みに注目していただければと思います。
●平成30年度邦楽地域活性化事業
[主催]公益財団法人ひろしま文化振興財団
[共催]一般財団法人地域創造
[チーフコーディネーター兼コーディネーター]
児玉真((一財)地域創造プロデューサー)
[コーディネーター]谷垣内和子((公社)日本芸能実演家団体協議会実演芸術振興部企画室長)、米澤浩(邦楽演奏家、(特非)日本音楽集団副代表)
[サブコーディネーター]多田彩子(邦楽演奏家)
◎地域交流プログラム
・廿日市市
[演奏家]森田博代(代表者:箏曲)、見澤太基(尺八)、山下紗綾(箏曲)
[日程]2018年10月11日~13日
[公演会場]さいき文化センター
・東広島市
[演奏家]喜羽美帆(代表者:箏曲)、小泉なおみ(篠笛)、岡戸朋子(箏曲)
[日程]2018年10月25日~27日
[公演会場]東広島芸術文化ホール くらら
・福山市
[演奏家]簑田弘大(代表者:三味線)、新保有生
(能管/篠笛)、都築かとれ(三味線)
[日程]2018年12月5日~7日
[公演会場]ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ
◎総括公演プログラム
・ガラコンサート
[日時]1月26日 14時開演
[会場]広島県民文化センター
●「邦楽地域活性化事業」に関する問い合わせ
芸術環境部 仕田
Tel. 03-5573-4078